第3話
ひどい目にあった。まさかあの凶暴なファンクラブの野郎どもが授業始まっても追いかけてくるとは……。そのせいで、教師たちに生活指導室に連行され、ファンクラブのメンバーと仲良く説教された。
東村のカンペのせいだ!マジでふざけんな!あいつを釘バットで千本ノックの刑にしてやる!
そんなことを考えたり、俺の必殺技『気づかれずに寝る』を発動したりしてるうちになんとか説教は終わった。
もう放課後だから帰ろうかと思ったが、今日は部活があることを忘れていた。正直行きたくない。鬼畜すぎるんだもの。俺は1人部活に誘ったが、東村も誰か誘ったのだろうか?いや、待て。入部届を提出する必要がある。入部届には親からのサインが必要で、さらにこの学校は山の中にある。そして入部届は今日までに出さなければこの部活は廃部になる。
……つまり、今日中に入部届を出すのは不可能であり、バドミントン部は廃部になるということだ。
俺はバドミントンの練習と称した、殺人マシンから逃れられ、東村と放課後も会うことがなくなる。俺の高校生活は安泰だ!
今日はバドミントン部にとって最後の部活動だ。それくらいなら行ってやろう。
そんなこんなで体育着に着替えて今日の活動場所である校庭に来た。すると、そこには、岩破先輩、東村、失禁しそうになるくらいかわいかったどこかで見たことのある女子、ぱっとしない野郎が待っていた。
先輩や小白さん、ぱっとしない野郎に挨拶せず、東村に耳打ちした。
(東村、入部届は出せないはずからあの2人は部員じゃないよな?)
(いや、部員だよ)
(不可能だろ。入部届出すには親のサインが必要だけどこの学校は再登校ができないぞ)
(俺のコネでなんとかした)
東村のコネとやらで俺の夢見てきた高校生活は完全に消え去ってしまった!
せめて、最悪な高校生活にならないようにするために、小白さんとぱっとしない野郎にはいい印象を与えておかなければならない。
一度深呼吸をして微笑みながら、その2人に向けて俺は口を開いた。
「小白さん、来てくれてありがとうございます。とてもうれしいです。そちらのあなたも来てくれてありがとうございます。おかげでこの部活は廃部にならずにす……」
俺の完璧と思われる素晴らしいセリフを遮り、小声で俺に向けてぱっとしない野郎は言った。
(ちょっと、顔かせ!)
えっ。なんか怖いんですけど!カツアゲされるような雰囲気なんですけど!それでも、いい印象を与えないと。俺は微笑みながら言った。
(なんでしょう?)
(お前、小白さんに向けて『とてもうれしいです。』とか言ったよな。もしかして、小白さんに好意を向けてるとかじゃないよな?)
(いえ、そういうわけでは……)
そのとき、東村がニヤリと笑いながら話に混ざってきた。
(ちなみに、お前がぱっとしない野郎と思っているそいつは『小白ファンクラブ』の幹部の1人、大陸だ)
「それを早く言えよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「いきなり叫んでどうしたの?」
岩破先輩が尋ねた。俺が弁解しようとしたとき、俺より先に東村が紳士ぶりながら答えた。
「こいつはいつも情緒不安定で叫ぶことなんてよくあるんだ」
岩破先輩と小白さんは俺にかわいそうな人を見る目を向けてきた。そんなんじゃないから!
しかし、誤解を解こうにも叫んだ原因は『小白ファンクラブ』であるため、このことが小白さんにバレてしまったらショックで倒れてしまうかもしれない。俺は嘘をつくのがすごく苦手だからこの場を乗り切るのは不可能だ。
東村を本気で八つ裂きにしたくなった!
先輩がこの場をまとめるように言った。
「みんな、自己紹介は終わったみたいだね。それじゃ練習を始めようか!」
この後の出来事はわかっているだろうが、先輩以外の俺たち4人は死にかけた。
翌朝、俺は日の光で目が覚めた。まだ肋骨が痛いからもうちょっと寝ようとしたそのとき、
「おはよう弐星。よく眠れたかな?」
「なんで、東村が俺のベットの上で横になってるんだ?」
「なんでと言われても……。まあ、あえて言うなら、人はボタンがあったらつい押してしまうだろ?それと同じで友人の家を見たときにそいつがまだ寝てると知ったら、家に不法侵入してその横で寝たくなるという現象が起こったからかな」
「何を言ってるのかわからないし、わかりたくもない!」
「まあ、そんな冗談は置いといて」
「お前の目は冗談じゃなかった気がするのだが!」
「『せっかくバドミントン部に入ったのにラケットを持ってないと話にならないから、今日みんなでラケットを買いに行かない?』っていう伝言を先輩に頼まれたんだ」
「じゃあ、ラ〇ンで伝えればよくないか!」
「こっちのほうがおもろいじゃん?」
「おもろくねえよ!……あっ、今日はゲームのソフト3つくらい買うから、ラケットは買えない。ごめんな」
「ちなみに、ラケットを持ってないやつは明日の練習、素手で先輩の本気のスマッシュを取る練習になるらしいよ」
「ソフトなんかよりラケットのほうが重要な気がしてきたわ」
岩破先輩のロングサーブの威力は校庭にクレーターができるほどだったから、本気のスマッシュとやらを素手で取ったら、死ぬ!
「いつ、買いに行くの?」
「駅前に集合するのが9時だから、あと10分以内に行かなきゃだな」
「起こすならもっと早く起こしやがれえええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
全力で早く着替えて、朝飯を食わずに家を飛び出した。
10分くらい遅刻して駅前に着いた。てっきり遅刻したら先輩のスマッシュを食らうのかと思っていたが、ジュースをみんなに奢るだげで許してくれた。しかし、東村は自販機の指定をして高いのを奢らせてきやがった。あのジュース、800円は高すぎだろ!
少し歩いてラケットショップへとやってきた。店に入ると、そこにはエプロン姿の迅城がいた。
「なんで、迅城がここに?」
「バイトでいるんだけど。弐星こそ、なんでここにいるの?」
「バドミントン始めたからラケットを買いに来たんだけど」
「弐星はなんだかんだでテニス部に入ってくれると思ってたのに!この浮気者ーーーーー!!!」
小白さんがとんでもないこと言った。
「えっ、弐星くんってその人と付き合ってるの?」
「いや違う。弐星はそこのエプロン姿の女子とは一発ヤって一度捨てたんだ」
「ち、違うから!東村の冗談だから!お願いします!俺にゴミを見る目で見ないでください!!!」
岩破先輩と小白さんが俺からちょっとずつ離れていっているのがけっこうつらい。東村のニヤニヤしてるその顔をぶん殴ってやりたい!
「ヤってないし、捨てられてもない。これはよくある東村のいたずらだよ」
よかった。2人が俺に嫌そうな顔をしてこなくなって。迅城、マジ感謝!まあ、大陸が舌打ちしたのが気になったが……。
岩破先輩がこの場をまとめるように言った。
「さっ、ラケットを選ぶよ!」
さて、何を選ぼうか。この青色のラケットはどうかな。周りに何もないところで試しに振ってみたらちょっと重いが振りやすい!このラケットにしようとして値段を見たら、20万円だった。高すぎだろ!
「あ、手が滑って値札を取り換えちゃった。ごめーんね!」
「お前、絶対わざとだろ!」
本当の値段は5000円だった。だったら買おうかな。このラケットを手に取った。
そのとき、大陸が耳を貸せというジェスチャーがあったので、耳を貸した。
(おい弐星、そのラケットって小白さんの持ってるラケットと同じような気がするのだが)
たしかに、小白さんのラケットと俺のラケットは全く同じだな。
(それがどうかしたか?)
(もしかしてだが、小白さんとおそろにしたかったからじゃないだろうな?)
俺は違うと言おうとしたとき、東村が話に割り込んできた。
(そうだよ!だって小白さんのことが大好きだからね!)
と俺の声を真似て言ってきた。
(え!ちょっ!東村、俺の声真似をするな!俺はそんなこと思ってないから!)
(思ってたら俺たち『小白ファンクラブ』にとってはお前は邪魔だから排除しなきゃならないし、さっきの発言が嘘なら我らが愛すべき小白さんが好きでないということになるから、小白さんのすばらしさについて1日中説明しなきゃいけないな)
(もう、お前らは小白教かなにかの信者かよ!)
(なんでもいいからそれを俺に買わせろ!それで『小白さんとつながってる』みたいなことを思いたいの)
(やめろ変態!俺はこれで普通にバドミントンがしたいんだ!)
大陸を強引に押しのけてどうにかラケットを買うことに成功した。
そしたら、小白さんが俺に近づいてきた。俺に初めて話しかけてきた。それについてはとてもうれしいが、最初の一言が、
「弐星くんってそんなに男の人のことが好きなんだね」
大陸と長々と小声でしゃべってたとこを見て、そう思ったのだろう。
同性に対し恋愛感情のある人を同性愛主義者と呼ぶらしいが、俺は異性愛主義者の分類になる。そんな俺がBLするだと!誤解だ!!!
「ぷぷぷっ!よかったな、変な誤解ができて!」
東村が笑ってきやがった!もうやだ!
俺は店から泣きながら飛び出した。
一体どこまで走ったのだろうか?周りを見渡すと、ここは駅前の広場のようだ。
財布の中を覗いたらゲームのソフトが1つ買えるくらいは残っていた。近くにゲームショップがあるし、もともと買う予定のやつで1番欲しかったのを買おうかな。
と思ったが朝飯を食べられなかったからファミレスでも寄ってこうと思ったとき、
「やっと追いついた!」
ぜえぜえ言いながら小白さんが声をかけてきた。
「どうしたんですか?」
「私が言ったことが原因で弐星くんが悲しい思いをしちゃったんじゃないかって思って、謝りにきたの。ごめんなさい」
「そんなのいいですよ。もう全然気にしてないし」
嘘です。本当は今もめちゃめちゃ気にしてます。
「今からなにか用事とかあるの?」
「腹減ってるからファミレスでも寄って、帰りにゲームのソフトを買おうと思ってたとこ」
「私、今日はもう暇だからさ、弐星くんについてってもいい?」
「それはもちろんい……」
『いいよ』と言いかけたとき、小白さんの後ろのほうに大陸を中心としたあの集団がいた。そう、『小白ファンクラブ』 の野郎どもだった。これって、ストーキングじゃないのか?
これってもしかしてさ、小白さんと離れた瞬間にボコボコにされるのではないだろうか。いや、絶対そうなる!
「ちょっと失礼」
俺は小白さんにそう言い、大陸にライ〇した。
『なあ。小白さんにストーキングしてるのはなんでだ?』
『そりゃあ小白さんの身を暴漢とかから守るためさ。あと、これはストーキングではなく奉仕活動だ。』
『ひとつ疑問があるんだけどさ。』
『なんだ。』
『俺は暴漢扱いなのか?』
『今気づいたのか?』
俺はもういろいろと手遅れなのかもしれない。
ため息をついて、スマホの電源を消し、小白さんとファミレスに入った。
席に小白さんと向かい合って座り、メニューを選んでいたとき、東村から『絶対安全メール』というアプリ(東村が作ったアプリ。名前からしてすごく怪しいから基本使わないようにしている。)でのメールが来た。
『小白さんとのデートはたのしんでるか?』
『なぜ小白さんと一緒にいるのを知ってるんだ?東村が仕組んだことなのか?』
『大陸が教えてくれたから知っている。そして、この件は俺は関わっていないぞ。』
『そうか。なら良かったが、お前は絶対に邪魔とかするなよ?』
『そんなことをしないよ。なんなら、弐星と小白さんと仲良くなってほしいくらいだ』
『なぜ?』
『小白さんは可愛すぎて誰も話しかけられなくてぼっちだからなんとかしてやりたいんだよ。ぼっちなやつを嫌がらせしても面白くないしな。』
『ぼっちなの初めて知った!……正直、もっと最悪な理由だと思ってたよ。例えば、俺が小白さんと仲良くなることで例のファンクラブに反感を持たせて、処刑させようとしてたとかかと思ったよ。なんかごめんな。』
『謝るな。その目的が9割だから。』
『東村への好感度が上がったと思ったらめちゃくちゃ下がっちゃったぞ!』
東村とメールのやりとりするのがアホらしくなったのでやめてメニューを選ぶことにした。
俺はオムライス、小白さんは和風パスタを店員さんに頼んだ。
小白さんとの会話の話題がなく、しばらく無言でおたがい見つめ合っていたら、2つの料理が来た。おいしそう、と思ったがオムライスの上のケチャップの文字がすごく気になった。
『死ね』
なにこれ。錯覚かなにかだと思いオムライスを少し崩して口に運んだ。
オムライスがすごく辛いし、不味い!どういうことだ!
俺が苦しんでるのをニヤニヤしながら見ていたこれを運んできた男の店員が、俺の耳に口を近づけて言った。
「このオムライスは当店のサービスで納豆、しょうゆ、みそ、わさび、ジャム、デスソース、ドリアン、なめこが入っています」
思わず男の顔を見たら、そいつは学校で俺を追いかけていた『小白ファンクラブ』の野郎だった。
また、東村からあのアプリでのメールが来た。
『そうそう、弐星が今いるファミレスには『小白ファンクラブ』の人たちがバイトしてるから。』
もっと早く教えろよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
俺はすごく不味いオムライスによって腹を壊した。
俺は小白さんに肩を貸してもらい(小白さんの身長は俺より10cmくらい低いから、正直普通に歩いてるのとあんまり変わらない。)ながら、俺の家になんとか帰った。言わなくてもわかっているだろうが、帰っている最中、ほぼ宗教と化している『小白ファンクラブ』の野郎どもが俺たちの後をつけていた。
母親にただいまを言ったら、朝飯も食わずにどこ行ってたか問われたが、俺はああとかうんとか適当なことを言いながら自分の部屋に入り、ラケットを机の上に置き、ベットに倒れこんだ。
まだ、腹が痛い。あの集団、マジで許さない!小白さんとろくにしゃべってないのにこの仕打ちかよ!
そんなこんなで、俺は睡魔の野郎に襲われ、眠った。




