第26話
東村が生活指導の谷鉄先生の妨害をして、先生の目を盗んで文化祭準備を何とか終わらせられ、ついに文化祭前日を迎えた。
明日から体育館は軽音部のライブやどこかのクラスが行う劇などに使うということで、俺たち1年生はパイプ椅子を並べて観客席を作ることになった。
1年生は体育館に集まり、まずパイプ椅子を適当に並べるとか。
俺は大島としゃべりながらパイプ椅子を運んでいた。
大島が口を開いた。
「この仕事だるくね?」
「何当たり前なことほざいてんだよ」
「どうにかサボれないもんかね」
「そりゃあな」
『ヒマだなぁ。なんかおもしろいものはないかn……』
「おい。あれ見てみろよ!」
大島が見ている方向へ顔を向けると、東村が体育館から抜け出していた。
「あの野郎! 逃げやがったな!」
「しかしよく先生の目を盗んで抜け出せたな」
「先生の目がなく、しかもここから出れる場所でもあるのか?」
パイプ椅子を運びながら辺りを見回したがそれらしい場所は見つからなかった。
「あ! 上の窓が開いてるぞ!」
大島は叫んだ。
上の窓というのは、体育館の2階(?)の観客スペースのようなところの近くにある窓のことだ。
普通の人なら、高さがあって窓からの脱出は不可能だが東村はバドミントン部。岩破先輩に鍛えられてるから高い場所から飛び降りても全然痛くないだろう。
「じゃあ俺もあそこから脱出するか」
『それ、すごくおもしろそう!』
「お前らって頭おかしいよな」
「は? 何言ってんだよ。冗談はお前の顔だけにしてくれ」
「ぶっ殺す!」
「わかったわかった。悪気なんてないうえに、お前の顔のほうが悪いからお前が謝れ」
「さっきから悪口しか言ってねえぞ!」
『でも事実だしね』
そんなしょうもない会話をしながら、パイプ椅子をどんどん並べていく。
しばらく並べる作業を続けていると、パイプ椅子が大量に入っていたでかい籠には、パイプ椅子が残り1つとなっていた。
俺は変人だの変態だの言われているが、なんだかんだで真面目なのだ。
だから、パイプ椅子はなんとしても運びたい気持ちでいっぱいなのだ。
俺がパイプ椅子を掴むと、俺と反対側からも手が伸びてきた。
前を見ると、なんと大陸だった。
俺は無理やり自分のほうへパイプ椅子を引っ張ったが、大陸も負けずと引っ張ってきやがった。
「大陸! 離しやがれ!」
「それはこっちのセリフだ」
「仕事は少ないほうがいいだろ。優しい俺がやってやるから離せ!」
「いやいや! お前には世話になってるから、その恩返しということで俺がこのパイプ椅子を運んでやるよ!」
「お前、俺に恩とか感じたことねえだろうが!」
「お前こそ、全然優しくねえし!」
「だったら!」
「じゃんけんで!」
「「決めるか!」」
『君たちって結構仲良しだよね』
俺と大陸はいつも通り野球拳をしようとしたとき、ふと気がついた。
野球拳をしてたら、周りは俺たちのことを変態だと思うだろう。俺は変態の汚名返上をするためにキャラ変をやっているのだ。また裸になったらキャラ変なんて不可能だ。
他にもある。パイプ椅子を運んでいるのは1年生全員だ。つまり、最近知り合ったドストライク女子の照湊さんもここにいるということだ。もしも裸を見られてしまったら、恥ずかしさのあまり死んでしまうかもしれない。
だが、野球拳を愛する男として勝負を放棄するなどあってはならない!
別に野球拳をしたら必ず裸になるわけではない。負けたら脱ぐのだから勝てばいいのだ。
「「アウト! セーフ! よよいのよい!」」
5分くらい経っただろうか。
「今日は俺の圧勝だったな! 出直して来いよ! ハッハッハッ!」
俺は全敗したのだった。
というわけで俺は全裸マンだ。
まあいいや。
次は何をするのだろうか。
先生の指示はまだかな。
すると後ろから谷鉄先生が俺に声を掛けてきた。
「お前はなぜ全裸なんだ」
「じゃんけんに負けたからです」
「野球拳じゃなくて普通のじゃんけんをしろ! それより服を着ろ!」
「わかりましたよ」
俺はパンツを頭にかぶった。
「パンツマーン!」
『……』
「……また特別指導を受けたいようだな?」
「すみませんでした!」
『アホすぎる』
俺は素早く制服を着たのだった。
さて、次はパイプ椅子の縦と横の列をきれいにそろえる仕事が与えられた。
大島と一緒に仕事をしようと思ったが見つからなかったので、1人でやることにした。
黙々と列を揃えていると、
「弐星さんこんにちは」
『この前の人だ』
なんと照湊さんに声を掛けられた。
「あっ。こんにちは」
俺も挨拶した。
「それにしてもさっきのはなんだったのですか?」
「さっきのとは?」
「そそそその……。は、裸になってたので…………」
「ああああああああれはですね! …………人違いだと思います」
「私が弐星さんを見間違えるはずがありませんよ? あれは確かに弐星さんでした」
「あれは……ちょっと忘れてほしいですね」
「何してたんですか?」
「……じゃんけんを少々」
『……じゃんけんを少々って!……フフ!』
「じゃんけんは脱ぐものなのですか? 次からは私も……じゃんけんをしたら脱ごっと」
『……この人頭のネジ外れてない?』
照湊さんの脱ぐ姿を想像して鼻血が出そうになったが必死で堪えた。
「ちょっとあれは特殊なものでして! 普通はしません!」
「ではなぜ?」
「ちょっと……仲のいい友人でしたので……」
「……私たちって仲がいいですよね?」
「ま、まぁそうじゃないんですか?」
「じゃあ後でじゃんけんをしませんか?……その……脱ぐほうの…………」
「え……。いや、それはその……」
『にぼっしー!何そこでヘタレちゃうわけ?
俺と照湊さんがごにょごにょと話していたら、後ろから思い切り頭と背中を攻撃された。
「ぐはっ……!」
攻撃してきたのは迅城と小白さんだった。
「何セクハラしてるの!」
「……弐星くん最低」
すごい言われようだ。
くそ!
せっかく照湊さんの裸が見れると思ったのに!
これをきっかけに卒業できると思ったんだけどな。
「弐星さんって知り合いの女子多いんですね……」
「……多くはないと思いますけど」
「弐星くん、その人に敬語使ってるんだね」
「? 確かにそうだな。それがどうかしたのか?」
「別に……」
小白さんが拗ねているような顔をしている。
俺は小白さんを不機嫌にさせることでもしたのか?
ま。そんなことはどうでもいいや。俺がただ気にしすぎてるだけだろ。
それより今は椅子をきちんと並べる作業をしなくちゃな。
列を揃えるようにしていると、3人は俺にとても近い場所にいた。
「そんなに近いと椅子を並べづらいんだけど」
「弐星、気にしすぎだよ」
「はやちゃんの言う通りだよ」
「偶然ここにいるだけですから」
俺が椅子を並べるためにここから少し離れた場所へと移動すると、3人も一緒についてきた。
……ペットと散歩してる気分なんだけど。
仕事に取り掛かろうとしたときだった。
今度も思い切り背中に攻撃されて椅子にぶつかって、いくつかの椅子の列をぐちゃぐちゃにしてしまった。
さっきよりも強烈だった。
俺はドロップキックされたんだな。
って誰だよ! ドロップキックした奴は!
俺は立ち上がって後ろを振り向いた。
「お前、何小白さんのパンチ食らってるんだよ! 羨ましすぎるだろ!」
「パンチされてうれしいのはお前くらいだろ!」
「……なんかお前、ラブコメみたいなのしてない?」
「ラブコメ?」
「俺だってラブコメがしたいんだよー!」
大陸は今にも襲い掛かりそうな姿勢になったため、俺は全力で逃げた。
大陸から殺気がめちゃくちゃする!
捕まったら人生が終わってしまうのが考えなくてもわかる。
「やっぱり弐星は受けで、大陸……さんは攻めだよね」
「弐星くんの同人誌があったら絶対買っちゃうよね」
「…………まさかあの男子もライバルだなんて」
あの3人勘違いしてないか?
『にぼっしーはBLネタが1番輝いてる気がするよ』
俺の後をついてくる幽霊がボソッと呟いた。
逃げ回っていたが、並んでいる椅子をバラバラにするわけにもいかず、動きがどうしても鈍くなっていしまう。
それに対して大陸は問答無用できれいに並んでいる椅子を倒しまくり、俺との距離がどんどん縮んでいく。
「もう逃げられないぞ!」
ついに俺は大陸にブレザーを掴まれてしまった。
「大陸」
「なんだ?」
「動物は生き残るために進化してきたんだよ」
「急になんの講義を始める気なんだ」
「例えばカメレオンは自分の体の色を変えて隠れるだろ」
「そうだな。だからなんだよ」
「他にもそういった動物はいる。例えば……トカゲとかな!」
俺は大陸に威嚇するように言うと、掴まれていたブレザーを脱いだ。
だが大陸は俺の動きを見逃さず今度はYシャツを掴んできた。
「危なっ! へ。ブレザーなら簡単に脱げたが、Yシャツはそう簡単にいかないだろ。これでチェックメイトだよ弐星くん?」
人をイラつかせる顔をしながら言ってきやがった。
「おいおい忘れたのかよ? 俺は野球拳を愛する男だぞ。俺に脱げないものなんてないんだよ!」
俺は無理やりYシャツを引き裂くようにしてYシャツを脱ぎ捨てた。
とうとう俺は上半身裸になった。
大陸は俺の行動を予想していたのか今度はズボンを掴んできた。
「お前、これ以上脱いだらまた指導を食らっちまうな?」
「大陸。学びたくはなかったが東村から学んだことがあるんだよ」
「それは?」
「他人を犠牲にして自分は生き残るということさ!」
俺は大陸のブレザーとYシャツを掴んで思い切り引き裂いて、大陸も上半身裸にさせた。
「やりやがったなこの野郎!」
大陸は俺のズボンを、ベルトがついたままズルパンをするように下ろそうとしてきやがった。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い! せめてベルトを外せよ!」
俺も大陸のズボンを掴んで、大陸と同じように下ろそうとした。
「お、お前!」
「くそ! この野郎!」
そのとき、ブチッと鈍い音がなりお互いのベルトが破壊された。
ベルトはズボンが下がらないよう固定するものであるから、必然的に互いのズボンが下がった。
「「こんなもん邪魔くせぇ!」」
俺と大陸は股を思い切り開いてズボンを破き、自身を動きやすくした。
「ここまで来たらわかってるな?」
大陸が当たり前なことを俺に聞いてきた。
「もちろんだ」
俺は大きく頷いた。
お互いが身に着けているのはパンツのみ。
つまり……!
「「野球拳で勝負だ!」」
俺たちの声を聞いたのか、周りに人が集まってきた。
「大陸が勝つにシャー芯3本賭けるぜ!」
「俺は弐星が負けるにシャー芯5本賭ける!」
「ここは本気で賭けるとするか。……弐星が負けるにシャー芯10本が妥当だな」
「おいおいお前ら! 弐星が負けるかわからないんだぜ? いいのか? ……弐星が負けてパンツマンになるに15本だ!」
「俺はお前らみたいな遊びはしないぜ。……大陸が勝つにシャー芯30本で」
「さっき弐星の裸は見たしいい加減見飽きたんだよ。……弐星が負けるにシャー芯50本」
野次馬どもはみんな俺が負けるほうに賭けていやがる。
『にぼっしーが負けてパンツを振り回すにシャー芯5本賭ける』
優花ちゃんまで!
「おい弐星!そろそろ始めようじゃないか!」
「あぁそうだな」
「「アウト! セーフ! よよいのy……」」
「お前ら! 何サボってじゃんけん大会してんだ! 早く椅子をきれいに並べろ!」
谷鉄先生が俺たちのもとへやってきて野球拳を邪魔しやがった。
俺と大陸は顔を見合わせると頷きあった。
俺たちはそーっ……と逃げようとしたときだった。
谷鉄先生は俺たちの肩を思い切り掴んできた。
「お前らどこに行こうとしてんだ?」
「「ちょっとトイレへ……」」
「それより先に制服を着ろ!」
「「破れて着れないんですよ」」
「お前ら特別指導な」
俺と大陸の顔が真っ青になったのは言うまでもないだろう。




