第24話
ナス野郎と会話して何日か経った放課後。
俺はクラスメイトの男子たちと話していた。
「なあ。オレ、今日の授業全部寝たんだぜ!すごくね?」
「全然すごくねえ」
「俺なんて体育の授業も寝てるぜ」
「お前に関してはすごいとしか言えねえよ。寝ながらバレーボールやってたし」
「俺は……くそ!どの授業も寝てねえ!」
「別に張り合わなくていいからな!」
男子たちは楽し気に雑談を繰り広げている。
しょうもない会話ってなんかいいよな。
そんな中、俺は楽し気な空間をぶち壊す発言をした。
「……それでお前らはこの状況を諦めたのか?」
「「「「「……何も言わないでくれ」」」」」
今は文化祭の準備を進める時間だ。
ある程度必要な材料をそろえたため、『尻』を作り始めることになった。
ここまでは別に問題ない。なぜ『尻』を作る羽目になったのかという問題を除いて。
では何が問題なのか。
全国共通のあるあるだろうが、学校のクラスの権力のほとんどは女子たちが握っている。
「わたしたちがお尻を作るから、男子たちはわたしたちのサポートをお願い」という意味はわかるけどわかりたくないことを言ってきて、俺たちはサポートをすることになった。
だって女子に命令されたら断れないし。断ったらどうせ社会的に抹殺されるだろうしな。
ここまでは受け入れられた。
野郎どもが尻を作ろうものなら、何を言われようが卑猥なものになるから女子たちの判断は正しいし。
それで問題はここからだ。
女子たちが「お尻作るのにまずスケッチしなきゃだから、男子たちはお尻出してモデルになって」と言ってきたのだ。
野郎どもの中には、女子にお尻を出す行為で興奮する奴もいた。
だが、1時間もずっと尻を女子たちに突き出していると、自分はいったい何をやっているのだろうかという気分になってくるのだ。
(((((ここから逃げてぇ!!!)))))
俺たちは利害一致で逃げることを決意したのだ。
クラスの野郎どもは悪魔たちに聞かれないくらいの小声で話し合うことにした。
文化祭実行委員だからということで、俺がこの話し合いを仕切ることになった。
(おい。何かいい案あるやつはいるか?)
するとおちゃらかな野郎が小声でしゃべりだした。
(女子たちは俺たちの尻をスケッチしているんだろ?だったら急にモデルである尻が動き出したら、あいつらびっくりするんじゃないか?その間に逃げるってわけだ)
それはいい案だと俺たちは頷き、発案者の男が尻を動かすことになった。
(いくぞ!)
(((((頑張れよ!!!)))))
「ほーれ、ほーれ!」
発案した野郎は謎の掛け声とともに尻をあらゆる方向に動き出した。
これは成功なんじゃないのか!
「動くんじゃねえよ!くそが!」
そいつの尻のスケッチをしていたと思われる女子生徒は怒り、教室にあった長い黒板消しを発案者の尻に思い切り突き刺した。
「ごはっ……!」
男はすごく痛そうにしながら倒れてしまった。
「キャー!そのモデル、いい味出してるね!」「私、そのモデルのお尻描きたーい!」「わたしもわたしも!」
発案者の男は物理攻撃と精神攻撃の2つを食らったのだった。
(((((……これは惨い)))))
ヘタに動けばこいつみたいになっちまうわけか。
(……他に案がある奴はいるか?)
すると美術部の男が意見がありそうな顔をしてたのでそっちに振った。
(いつもと違って文化祭準備の時間が設けられてるでしょ。普通は今の時間だともう部活が始まってるじゃん。そしてもう少しで部活を始められるわけ。つまり、それを理由にすれば合法的に逃げれるんじゃないかな?)
(((((なるほど!)))))
確かにいい案だ。
ただし俺の場合だと、部活も地獄だからな。だけど部活に来なかったほうがもっと地獄になる。
ならば部活に行くほうがマシってわけか。
というわけで、発案者が女子たちに提案することになった。
「ねえ。そろそろ切り上げてもいいかな?」
「「「「「ダメ」」」」」
「でででででも、そろそろ部活が始まる時間だからそっちのほうに行きたいんだけど」
発案者の美術部員は尻に、そいつが愛用している筆が勢いよく刺されて倒れたのだった。
「部活よりも学校行事のほうが大事でしょ……ってあれ?なんか倒れちゃった。まぁいいか」
(((((全然よくねえよ!)))))
気を取り直して。
(ほ、他に案のある奴はいるか?)
柔道部の野郎が意見を出したい顔をしていたのでそいつに振った。
(なあ。今の俺たちって、尻を出してはいるが、完全にズボンは脱いでるわけじゃねえ。そこで、ズボンを完全に脱いでアレを女子どもに見せつければ、さすがのあいつらも怯むんじゃないか?)
(((((一理ある)))))
発案者がこの作戦をじっこうすることになったため、柔道部の男は立ち上がった。
「ちょ、ちょっと!早く元の姿勢に戻って!」
発案者の男は女子の発言を無視してズボンを下ろし、女子たちに見せつけるようにアレを突き出した。
(((((こ、これはいけるんじゃないか!)))))
予想に反して、女子たちは真顔で発案者の男の写真を撮った。
「この写真を証拠にして警察に通報するから」
「そ、それだけはやめてください!」
「じゃあ、尻だけ出してズボンを履いてからあたしたちの言う通りのポーズをしてね」
発案者の柔道部員は、女子たちに従って他の発案者2名の尻をまるで舐めているようなポーズをとらされたのだった。
柔道部員の男の目の光は消えていた。
(((((……)))))
どうしよう!
意見を出せば、その数分だけ犠牲者が出てしまう!
そういえば、東村と大島の姿が見えないがどこにいるんだ?
……もしかして。
(おい。東村と大島が逃げた)
(((((あの2人、次会ったらその日を命日にしてやる!!!)))))
東村ならここから逃げ切れるかもだけど、大島には無理だろ。
……いや待て。
逃げれない。
ならばこの教室のどこかにいるとすれば……。
俺は姿勢を崩さないようにしながら辺りを見渡した。
……。
いた。
どこから手に入れたのか知らないが、女子の制服を着て女子たちに紛れ込んでスケッチしていた。
「おい大島!女装なんて良い趣味してるじゃねえかよ!!!」
「なっ!バカ!言うなって!…………すみません俺も尻出します」
大島は女子たちの威圧に耐えられなかったようだ。
女装してる男が尻を出すっていう絵面なんて見たくなかったよ。
(おい!なんでバラすんだよ!)
(お前だけ助かってるのがなんかむかついたから)
(酷くねえか!)
(……いい案ある奴いるか?……ってあるじゃん!)
(((((何!それはどんな案だ?)))))
(ここから脱出できないなら、他のクラスの人に連れ出してもらえばいいじゃん!)
(((((なるほど!!!)))))
というわけで発案者の俺が助けを呼ぶことにした。
呼ぶのは頼りになる部長だ。
スマホに『すみませんが俺のクラスまで行って俺を部活に行くよう言ってくれませんか?』という文章を送った。すると、『別にいいけど?』と返事がきた。
少し時間が経つと、岩破先輩がやってきた。
「失礼しまーす。弐星を呼びに……、いやなんでもないです!どうぞ続けててください!失礼しました!」
ちょっとー!せんぱーい!行かないでくださいよ!
(……これも失敗か)
(そりゃあ、俺たちのクラスの状況を見たら逃げるわな)
(助けを呼ぶのも難しそうだな)
(なら、他にどんな案があるんだ?)
(もう小細工なしで走って逃げるのはどうだ?)
(((((それだ!)))))
(でも、さすがに怖いから発案者がやれよな)
(……わかった。だが、俺を舐めるなよ!だって陸上部だからな!)
陸上部なら確かに逃げれそうだな。
発案者の男は深呼吸をするとズボンを全速力で履いて、走り出した。
(((((これならいけるんじゃないか!)))))
3秒くらい経って陸上部の男は帰ってきた。
どうしたんだ?
発案者の後ろには教室にいなかったうちのクラスの女子生徒がいた。
なるほど。教室の外で女子生徒が待機していたわけか。
再び発案者は尻を出した。
(……ほ、他に意見のある奴はいるか?)
今度は帰宅部エースがしゃべり出した。
(さすがにトイレに行きたいって言えばここから脱出できるんじゃないのか?)
(((((確かに!)))))
というわけで、帰宅部の男がこの作戦を実行することになった。
「なあ!俺、すごくトイレ行きたいんだよね!」
「「「「「だから何?」」」」」
「だ、だから?……えぇっとですね!さっきからずっと尿を我慢しているわけですよ!なのでトイレに行かせてはくれないでしょうか?」
「「「「「ここですれば?」」」」」
「こ、ここで……?さ、さすがにここで漏らすのはよくないんじゃぁ」
「別にいいよね」「というか漏らしてるところもスケッチしたいよね」「お尻のスケッチだけってのも味気ないしねぇ」
俺たちはこの世の終わりみたいな顔をした。
このクラスの女子どもがこの世の終わりみたいな奴らだと、今改めて実感した。
しかたがない。
最終兵器を使うしかないな。
四六時中俺の周りでうろちょろしてる幽霊がいるのだ。
俺は男子どもにも聞こえないくらいの小声で優花ちゃんに声を掛けた。
(優花ちゃん。ちょっと頼みがあるんだk……)
『ふんふん!なるほど!確かにそっちのほうがBLっぽくていいね!』
(おい!)
『わっ!ななな何!もしかして愛の告白でもするの?キャー!』
(おい!塩撒くぞ!)
『ご、ごめんって!それで何かな?』
(お前ってさ、他の人たちには見えないんだよな?)
『そうだよー。すごいでしょー!』
(しかも物とか動かせるんだよな?)
『もちろん!』
(てことは、ポルターガイスト的なやつができるんだろ?だったらそれをやって女子たちを驚かしてほしいんだけど)
『それはダメ』
(なんでだ?)
『私は人を驚かすのは好きじゃないから』
(でも、俺が寝てるときに突然大声出したり、俺が風呂に入ってるとき急に小白さんの姿で入ってきたりしてきたじゃねえか!)
『そ、それは……。にぼっしー以外を驚かすのは嫌なの』
(なんだよそれ!)
俺ならいいってことかよ!
最悪じゃねえか!
……ならもう女子たちと交渉するしかないな。
俺は立ち上がって、女子たちに口を開いた。
「なあ!そろそろ俺たち、尻をしまってもいいか?」
「「「「「ダメ」」」」」
「でも、さすがにずっと尻出すのさ疲れたんだよ」
「じゃあ裸になれば?」「むしろ裸のほうが助かる」「ついでに裸で野〇先輩のダンスを踊ってほしい」
「あのさすがに、横暴じゃねえのか?」
「「「「「あ?」」」」」
急に女子全員は鬼の面をつけた。
「あ、あのですね!この企画ってあくまで『リアルな尻の展示』なんですよ?なので男の尻だけってのもつまらないじゃないですか!だからちょっと別のものをスケッチしませんか?」
「確かに」「一理あるね」「ちょっと男の尻に飽きてきた頃だし」「でも男の尻以外にスケッチできるものってある?」
「だから、俺は提案します!」
「「「「「頑張れ!もう一押しだ!」」」」」
俺はクラスの男子たちに応援されてるんだ!
ここでおじけづかずに進むんだ!
「今度は俺たちがお前ら女子の尻のスケッチをさせてもらうぜ!!!」
俺は思い切り大声で叫んだ。
俺に続いて尻を出していた野郎どもが立ち上がり叫びだした。
「俺たちだけじゃつまらないだろ!」「華がなきゃおもしろくない!」「俺たちより女子たちのほうが盛り上がるだろ!」「女だけじゃなくて男もたのしめなきゃ意味がない!」「俺たちにもやらせろ!」
……これ、客観的に見てると俺たちが女子どもにセクハラしてるようにしか見えないんだけど。いや、本当は俺たちがセクハラとかパワハラとかされてたんだけどな。
誰かにこの状況を見られたらまずいなと思ったそのときだった。
女子たちの視線が俺たち男子たちの後ろへ向けられた。
なんとなく俺たちも向けるとそこには生活指導の谷鉄先生がいた。
谷鉄先生は俺に何度も指導をしたことがある最低な野郎だ。……まぁ俺が悪いところもないとはいえないがな?
「お前ら、これは特別指導だな」
「「「「「これは誤解なんです!!!」」」」」
クラスの男子たちは連行され、なぜか女子たちは連行されなかった。




