迅城と夏祭り
私は今、神社の前で弐星と東村と待ち合わせをしている。今日は神社で夏祭りがやっている。今日から5日間夏祭りがあるみたいだけど、明日から4日間はバドミントン部の合宿で弐星と東村と回れないため、今日しか2人は夏祭りに行けないとか。
…………にしても約束の時間から20分が経った。浴衣を着るのに手間取って遅れた私より遅いってどういうことなの。
東村と弐星がやっとやってきた。
「ごめんごめん。夏祭りでどんな嫌がらせをしようか考えてたら遅れちゃった。許して?」
「許すわけないでしょ!」
「お~い!ごめ~ん!クマと腕相撲したり無理やりメスのサルとお見合いさせられたりしてたら遅れちゃった!」
「そんなわけわかんない言い訳したら許されると大間違いだよ!」
「本当だって!」
「嘘つかないで!」
弐星はしゅんとした。やばい!この顔と女装は絶対に似合うじゃん!……じゃなくて!
「早く出店回ろうよ!」
私は何かを失った感じの顔をしている弐星と何かメモをしている東村を連れて鳥居をくぐった。
「なあ。射的しないか?」
適当にぶらついていると、弐星は言った。
私たちは射的の出店に行った。
「へいらっしゃい!100円で3発撃てるよ!やるかい?」
射的のおじさんは元気よく言った。
「それじゃあ俺からいくか!」
弐星はやる気満々みたいだ。…………どうせ全部外れると思うけどね。
「弐星は何を狙うの?」
「俺はもちろんあのクマのぬいぐるみかな」
「クマが好きだから?」
「いや。腕相撲の恨みをここで晴らすためだけど」
「今日、本当にクマと腕相撲したんだ!」
弐星は狙いを定めてぬいぐるみへ向かって1発目を撃った。しかし、外れてしまった。2発目も外れて残り1発。果たして当てられるのか。最後の1発を撃った。当たりはしたけれど倒れなかった。
「くそ!ダメだったか!」
「いやぁ!残念だったな、少年!……まあここの景品は後ろに倒れないように支えがついてるから絶対に倒れないから景品が手に入んなくて当たり前なんだけどな!」
「ふざけんな!」
「おい弐星。ここは俺に任せてくれ」
東村が100円を払って銃を手にした。…………こういうときに挑戦するとか意外だ。
「ほう……!絶対にできないと言ったのに挑戦するとはいい度胸じゃねえか!」
「おっちゃん。景品が手に入る条件は景品が倒れる、もしくは台から落ちるのどちらかだよな?」
「……あぁ。そうだ」
「おっちゃん。後から難癖付けたりするなよ」
「しないさ!まぁどうせ、景品は君のものにはならないだろうがな!」
「後悔するなよ?」
東村はそう言うと、銃を景品へは向けず、台の足の下あたりを狙って1発目を撃った。急に変なところを撃ち始めた。そして、一瞬で2発目、3発目を同じ場所に向けて撃った。そしたら、台が倒れた。
もちろん、台が倒れたことにより景品がすべて『落ちた』。条件を満たした。つまり景品をすべてゲットした。
「なんで台が倒れるんだ!」
「台が置かれているのは少し斜めになっていたりあちことが異常にデコボコしたりしている地面。それは台が不安定に置かれているということだ。つまり、それを支えている台の足を狙うことにより台は倒れるというわけだ。さぁ条件はクリアしたから台から落ちた景品を全部もらおうか」
「………………もってけ泥棒!」
…………ちょっとだけ射的のおじさんがかわいそうに思えた。
「次はどこ行く?」
私は2人に尋ねた。
「あのたこ焼き屋がいいな」
弐星は言った。確かあのたこ焼き屋は……。
「へいらっしゃい。……ちっ!弐星かよ」
「お前は変態集団の!」
「俺たちの組織を変態集団呼ばわりするな!俺たちよりお前のほうが変態じゃねえかよ!」
「なんだと!」
「やるのかオラ!」
なんか弐星とたこ焼き屋の人が喧嘩を始めた。喧嘩するほど仲が良いって言葉があるし、きっとこの2人は仲が良いんだろうな。
「俺は喧嘩するためじゃなくて、たこ焼きが欲しくてここに来たんだ。たこ焼き3パック分お願い」
「何かお前にたこ焼きやるのは癪だけど客だし、しゃあないな。ほら、3パック全部で1200円だ」
東村は金色のカードを店の人に見せた。
「弐星の恥ずかしい黒歴史の情報を頼む」
「わかりました!弐星の情報なので50円になります!早くて明日には持ってきます!」
「えっ!ちょっと東村!急にたこ焼き屋の変態野郎に何を頼んでるんだよ!あと俺の情報、チョ〇バッキーより安いじゃねえか!」
「俺はたこ焼き屋の変態野郎じゃねえよ!」
「弐星。ここが何の店か知らずに来たのか?ここはな、表向きはたこ焼き屋だが、この金色のカードを見せたらどんなものも用意してくれる何でも屋みたいな店なんだぞ」
「何だよそれ!」
「私は弐星を2次元ぽくした同人誌をお願い!もちろん18禁のやつで!」
「へい!わかりました!弐星の同人誌なので10円になります!ちょっとそれは時間が掛かるんで早くて3日後になります!」
「迅城!俺の同人誌を頼まないでくれよ!しかもさっきより安くなってるし!」
ここに2人と別れたあとに行こうと思ってたけど、まさか2人といるときに行けるとは!
「いやぁ!良い買い物したよ!」
「俺にとっては悪い買い物だったけどな!」
「お前ら。すまん。ちょっと用事ができたからここでお別れだ。じゃあな」
東村はそう言うと去っていった。
「あいつ何かあったのか?」
「さあ……?」
東村ってたまに変なところがあるよね。まるで私たちといるときのほうが『ヘン』なのかな。
…………あれ?もしかしなくても今、弐星と2人きりじゃない?
「迅城。顔が赤くなってるけど、体調が悪いのか?」
「いやいやいやいや!ぜぜぜぜぜぜぜ全然そんなことはないよ!」
「それならいいんだけど。それより、そろそろ花火が始まるしさ。花火が見える場所にでも行かないか?」
「そそそそそそそうだね!」
やばい!すごく緊張してきたんだけど!ふふふふふふ2人きりで花火びびびびびびびびび!!!
「近くに公園がなかったっけ?」
「うううううううん!あるけど、それがどうかしたの?」
「そこなら花火が見えて人も少ないだろうから、そこに行かないか?」
「いいいいいいいいいいよ!」
「本当に体調とか大丈夫なのか?」
「めめめめちゃくちゃ元気だよ!本当に大丈夫だから!」
「……ならいいけど」
人気のないところで花火ってめちゃくちゃロマンチックなんだけど!
私と弐星は公園へと向かった。
「高いところからだったら花火がもっと見やすくなるし、ジャングルジムに上るのはどうだ?」
「私浴衣着てるから上れないんだけど!」
「そういやあお前、浴衣だったんだな」
「全然気にしてなかったの!」
「そりゃあしょうがないだろ!クマとかサルとかにひどい目に合わされたり射的とかたこ焼き屋とかで異様に疲れたりで気にする余裕がなかったんだぞ!」
「じゃあ今気にして!」
「わかったよ……」
弐星は私の浴衣姿を見ると、急に俯いた。
「弐星、どうしたの?体調でも悪いの?」
「なんでもない!とにかくここに立っててもしょうがないから、ベンチに座って花火を見ようぜ!」
私たちはベンチに座った。やばい!ちょっと距離が近いんですけど!なにこれ!めっちゃドキドキする!
そのとき、花火があがった。
「……」
「……」
「……」
「……」
「…………花火、きれいだな」
「…………そうだね」
「…………それとさ、お前の浴衣もきれいだよ」
「えっ!きゅきゅきゅきゅきゅ急にどうしたの!」
「……いや、まだ浴衣見た感想とか言ってなかったし」
「そそそそそそそう!ふふふふふーん!」
私たちは顔を見合わせた。
「「ぷっ!はははははははははははははははははは!!!」」
「お前何でそんなに緊張してんだよ!」
「そっちこそ何なの!」
「お前さ!俺のことがまるで好きみたいな雰囲気だしてんじゃねえよ!」
「そっちだって、いつ告白しようかなみたいな感じに思えるんだけど!」
「そんなんじゃねえし!」
「こっちだって!」
花火はとても『綺麗』で『奇麗』で『きれい』だった。




