小白とゴールデンウィーク
ゴールデンウィークの最初の日。この日はバドミントン部の活動がなかったため、マンガでも買おうと隣町のショッピングモールの中にある書店に行った。
目的の『やんちゃなショタっ子といけない遊び』というBLのマンガを見つけて、あと何かもう1つくらい買おうかと本棚で本を見つめていた。私の隣に弐星くんや東村くんとよく一緒にいる女の子がいた。名前は何て言ったっけ?葩
「君もそのマンガ買うんだ?私もそのマンガ好きなんだよね!」
急に声を掛けられた。
「えっと……、あなたは……?」
「ごめんごめん!私の名前知らないよね!私、迅城壽葩!君って小白でしょ?弐星とは小学校からの付き合いだから、君のことはいろいろ聞いてるよ!」
「弐星くんは私のことを何て言ってたんですか?」
「敬語はいいって!で、弐星が何を言ってるかだって?そりゃあ可愛い可愛い言ってたよ!確かにすごく可愛いね!」
「弐星くんが私のことを可愛いって?何か怪しいな……」
「弐星は全然怪しくないよ!……でも最近おかしいんだけどね」
「例えばどんなところが?」
「例えば、バドミントン部の活動日の翌朝は必ずと言っていいほど真っ白になってるんだよね」
「それは…………黄昏てるんじゃない?最近男の子ってそういうお年頃とかじゃないかな」
バドミントン部の練習がきつすぎて真っ白になることは言いづらい。
「まあそれはそうかもしれないね」
「それ以外にはないの?」
「それ以外はないかな。弐星におかしいところって他にもあるの?」
「そりゃあもちろんあるよ!例えば私が部活に遅れてきたら、裸になって野球拳してたし、他にも他校との試合中で突然裸になったりとかかな?」
「…………それ本当?」
「本当だよ」
もしかしてだけど、失望とかさせちゃったかな。……申し訳なくなったな。
「よし!」
迅城さんはガッツポーズをした。
「なんでそんなに嬉しいの?」
「だって裸になれるくらい恥じらいがないってことは抵抗せずに女装してくれるだろうから!」
「え?」
この人なんて言った?女装?弐星くんと迅城さんってどんな関係なのだろうか。
「あぁ。小白は気づいてないの?弐星がすごく女装が似合うことに」
「私、ショタが好きだから、同じ年の男子の女装とかはちょっとわかんないかな」
「ショタもいいよね!でもね、ショタだけがいいというわけじゃないんだよ!例えばこの何の変哲もない弐星の起立してる状態の写真!」
「それ、許可を得て撮ったの?」
「許可なんて得てるわけないじゃん!盗撮だから写真の味が出るんだよ!それはそうと、この写真を合成したらね、こんな風に可愛くなるの!」
迅城さんは合成して、まるで弐星くんがメイド服を着てるかのような写真を見せてきた。
「……確かに可愛いね」
「でしょでしょ!じゃあこのお姫様のドレスのやつはどう?」
「なんか可愛いね!」
「だよね!私と小白って気が合うね!……ねえ、私たちあだ名で呼び合わない?」
「いいよ」
「小白、小白、小白……。白っぽい感じのあだ名で『しぃ』はどうかな?」
「いいね、それ!じゃあ私も迅城、迅城、迅城……。『はやちゃん』とかどう?」
「なにそれ!かわいい!」
「よろしくね!はやちゃん!」
「よろしく!しぃ!」
「そういえば、はやちゃんはここで何を探してるの?ここは……ライトノベルが並んでる棚だよね?」
「そうだよ。女装してる男子がいるやつを探してるの!これで次の弐星の女装の参考にしようと思ってさ!」
「なるほど!それ、いいね!」
私とはやちゃんは一緒に、女装する男子のラノベを探した。……弐星くんって考えれば考えるほど女装が似合うってどんどん思えてくる。私、女装好きになってきたのかもしれない。
しばらく黙々と探した結果、『異世界で女装したら男装好きの女がやってきた!』という本が一番いいのではという話になり、私は目的の本とついでに、この女装もののラノベを買った。
「いやあ、いいのが見つかってよかった、よかった!」
「女装する弐星くんは実は可愛いってことにも気づけたし、今日は満足だよ!」
「趣味の話ができる友達ができてうれしいよ!」
そんな風にはやちゃんとしゃべっていると、
「小白ちゃぁん!みぃつけた!」
後ろから爾弧鋳が走ってこっちに向かってきていた。
「はやちゃん!私、急用ができたから!それじゃあね!」
「あ……、ばいばい!」
笑顔で手を振ってくれているはやちゃんに背を向けて、私は全力で走った。
「小白ちゃん!待ってよ~!」
「変態はかえれ!それも家じゃなくて土に!」
「そんなひどいこと、言わないでよ~!」
「そんなこと言いながら、笑顔なのは何でなの!」
「だって、毒舌の小白ちゃんも可愛くて!」
「やっぱり変態じゃん!」
変態から逃げながら道を曲がると、前に弐星くん、大陸くん、あとは……えぇっと、詫楼くんと模武くん(だっけ?)が歩きながらしゃべっていた。
「弐星くん!ちょっとごめんね!」
「小白さん!」
私は弐星くんの背中に隠れた。爾弧鋳が私たちのいるところを素通りした。ふぅ~!助かった……。
「弐星くん!ありがとう!それじゃあみんな、またね!」
私は4人に手を振って、この場を去った。
……弐星くんの背中に隠れたとき、私の心臓がバクバクなっていたのはなんでだろうか?走ったからだろうか?…………それとは『何か』が違うような?……まぁ気のせいでしょ。
でも、絶対に気のせいじゃないと思えるのは、私が去った後その場所から誰かを怒鳴り声や殴る音などが聞こえたことかな。これはみんなでちょっと過激な動画でも見てるからとかじゃないかな。たぶんそうだろうな。
そんなことを考えていると、
「よう小白。弐星たちは見なかったか?」
東村くんが声を掛けてきた。
「弐星くんたちはあっちのほうにいたよ」
私の後ろのほうを指差して言った。
「小白が知ってるってことはあいつらにあったんだよな?」
「そうだけど。それがどうかしたの?」
「あいつらと何かした?」
「私が弐星くんの背中に隠れて爾弧鋳から逃れたことくらいかな」
「そうか。ありがとう、教えてくれて。それじゃ」
「弐星くんたちには会わないの?」
「小白の話を聞いたら会わないほうがいいとわかったからな。巻き込まれたくないし」
巻き込まれたくない?どういうことだろうか?このことを聞いたら、『そのこと』に巻き込まれるかもしれないから聞かないでおこう。
今日は『はやちゃん』と仲良くなれてよかった!




