第20話
朝5時半からの練習で俺、東村、岩破先輩、小白さん、大陸は体育館に来ていた。ちなみに竹土先生は、オールしてゲームしたから眠いとか言ってまだ部屋で寝ている。
「弐星、どうしたの?顔色悪いけど、1発あたしのスマッシュに当たっとく?」
「お願いします!」
「お前、とうとう頭が完全におかしくなったってのか!」
「……そうかもしれない」
「弐星!どこらへんが痛いの?」
「たぶん頭だと思います!」
「お前は先に頭の病院に行ってこい!」
大陸がうるさい。行けるなら病院に行きたい。だって……、
『なあ君ってさ、昨日一緒にいたあの子が好みだったりするの?可愛いしね。でも、もうちょっと考えたほうがいいよ。そういう子に限って変なところがあるだろうし』
なんか俺と同い年くらいの制服姿の女子が俺の近くにずっといるんだが。浮いていることから普通の人じゃない。幽霊だと思われる。そして『昨日一緒にいたあの子が好みだったりするの?』という発言から昨日の『ヒガシムラ』だとわかる。
「キツいの一発ぶちかましちゃってください!」
「OK!」
「弐星いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
岩破先輩はオーラのようなものがすごく大きくなると、岩破先輩は軽くシャトルを上にあげてジャンプスマッシュをした。そして俺の頭に危険物が直撃した。
「ぐわああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!痛いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「お前はアホすぎる!」
『ねえ君って実はドMだったりするの?』
何でお前はまだそこにいるんだよ!頭に岩破先輩のスマッシュでも当てたら見えなくなると思っていたのに!これは幻覚じゃないのかよ!
この幽霊は朝目が覚めたときからずっと俺のそばにいた。そしてこいつは朝からずっと俺のそばにいたのに、誰もこいつの話題が出てこなかった。だから試しに小白さんに「昨日の夜は災難だったよね」と言ったら「本当にそうだよね。でもあの幽霊にもう会わなくて済むって思うと気が楽だよ」とか言った。……そのとき話題の幽霊は小白さんに変顔していた。昨日その幽霊に会った小白が気づかないということは俺以外には気づいていないのかもしれない。一応東村、岩破先輩、大陸に「肝試しは怖かった?」みたいな感じで遠回しに幽霊のことを聞いたけど、誰も幽霊には気づいていないのだった。だから俺はこいつのことを幻覚だと思っている。
俺は岩破先輩にトイレに行くと告げてトイレに向かった。
「おい。幽霊」
『私は幽霊って名前じゃないよ!そうだね、自己紹介がまだだったね!優花。君は私のことが今でも見れるみたいだから、特別に優花ちゃんって呼ばせてあげる!』
「俺は弐星だ」
『下の名前は?』
「初対面に下の名前で呼んでほしくないんだ」
『……へぇ。…………まあ、特別にそういうことにしといてあげる!』
優花は笑顔で言った。
「それで優花はさ……」
『優花ちゃんって呼んで!』
「優花は……」
『優花ちゃん!』
めんどくせえ……。
「わかったよ……。優花ちゃんはさ、本当に幽霊なのか?」
『そうだよ!私はあの廃墟から出られなくなった幽霊だよ!』
「もう出てるじゃん!」
『それは君が廃墟の、私を閉じ込めるためにできた結界の制御装置を壊してくれたからだよ!』
「俺、そんなことした覚えがないんだけど……」
『君たちが見つけた首像が制御装置なんだけど、それをにぼにぼが持っていた懐中電灯にぶつかって壊れたんだよね!』
にぼにぼって何だよ……。というか東村の仕掛けのせいで、……いやおかげか?まあそれで、びっくりして懐中電灯を落として、それがたまたま制御装置なる首像に当たって壊れたってわけか。何という偶然だ!
「お前って結界に閉じ込められるくらい何か悪いことでもしたのか?」
『16歳だった私は、今は廃墟になってる別荘でお父さんに後ろからナイフで刺されたんだよね』
「……なんか申し訳ないこと言っちゃったな」
『別にいいの。殺されたからやり残したことがいっぱいあって地縛霊になったんだけど、私の幽霊の姿を見て怯えた父親はお金の力で私をあそこに閉じ込めちゃったんだよね……』
「父親はなんで優花ちゃんを刺したんだ?」
『詳しくはわからないの……。だから私はそれがわかるまで、たぶんずっと地縛霊だと思う』
「ふーん。で、優花ちゃんは本当に幽霊なのか?」
『私の話でだいたい幽霊だってわかるでしょ!』
「俺の妄想かもしれないだろ」
『にぼにぼの妄想すごすぎでしょ!』
「優花ちゃんがもしも幽霊だって証明できたら、俺と一緒にいていいぞ」
『……それって告白のつもり?にぼにぼって見る目あるね!』
「違う!お前のことが見える俺と一緒だったらお前の父親がなんで刺したかの理由を聞き出せるかもしれないだろ!」
『でも実は私にちょっとくらい性的に見てるんでしょ?』
「見てるわけねえよ!」
『女の子にそれを言うのは良くないよ!』
「それはすまん。……で、証明できるのか?」
『それはもちろんできるよ!』
「どうやって証明するんだ?」
『私はね、君にしか見えないじゃん』
「そうだな。ちなみになんでだ?」
『それは詳しくはわからないけど、たぶん結界の制御装置を壊した人は私のことが見える呪いにかかってるとかじゃないかな』
「なんだよそれ!」
『それはそれとして。本題に戻ると、気合があればものに触れることができるんだよね。それと人には見えないことを生かせばいいでしょ?』
「具体的にはどうするんだ?」
『誰かをくすぐらせるとかはどうかな?その人の反応でわかるでしょ!』
「なるほどね。じゃあそれでいくか」
俺と優花は体育館に戻った。
ちょうど近くに小白さんがいたので声を掛けた。
「小白さん。ちょっといい?」
「どうしたの?」
「小白さんの身体が今からおかしなことになるから」
「どういうこと!まさか私の身体をまさぐるとかするの!弐星くんはヘタレだと思ってたのに!」
「俺はヘタレじゃねえよ!俺は触らない!」
「じゃあどういうことなの?」
「今から俺がマジックをするんだよ!」
「どんな?」
「小白さんに触れずにくすぐったくさせるっていうマジック」
「すごく胡散臭いんだけど」
「心の準備はいい?」
「いいよ!」
俺は優花に合図を送ると優花は小白さんをくすぐり始めた。……なんでだろう。…………なぜかエロく見えるんだけど。ジョニーが暴走してしまう!ここは耐えろ!
大陸が俺に声を掛けてきた。
「おい、弐星が先輩と打つ番だよ。……ってこれはどういう状況だ!どうして小白さんがなんというか……その…………、すごいことになってるな。お前、何したらこんなプレイができるんだ?」
「プレイじゃねえよ!これは練習中のマジックなんだけど。それに小白さんが相手になってくれたんだよ」
「俺にもそのマジックを教えてくれ!」
「えぇ~……。ちょっと無理かな」
「それより早くこれを止めてよ!弐星くん!」
「ごめんごめん。お前、そろそろ離れろ!」
『見てるだけでも癒されるのに触ったらもっと癒されるから、もっと触らせてよ!』
俺は無理やり小白さんから離れさした。
「弐星くん。まるで誰かにしゃべってるようにしたり、パントマイムしたりすればマジックが止まるって一体どういうことなの?種明かしは?」
「種も仕掛けもありません」
「確かに弐星くんが何かしてるようには見えなかったし、……本当にどうやったの?」
「さあ。俺もよくわかってない」
「何それ」
「弐星!早くコートに入って!」
「はい!今行きます!」
『これで私が幽霊だってわかったでしょ』
これは夢であってほしいのだが。これがもし夢なら悪夢に分類されるだろうな。
俺が幽霊の優花ちゃんに出会ってからというもの、優花ちゃんは俺の練習の邪魔をたくさんしてきた。具体的に話すと、先輩の球をレシーブしようとしたとき俺をくすぐらせてきたり、手で俺の視界をなくしてきたりと他にもいろいろされたせいで、岩破先輩は俺が真面目に練習していないと誤解して、俺はもう何度目になるかわからない『大地獄』をまた味わうことになった。その結果、帰りの車に乗るときまで、小白さんがタオルで汗を拭くのがすごく可愛いということ以外何も覚えていない。
「それじゃあ帰るよ!」
岩破先輩は俺、東村、小白さん、大陸、竹土先生に伝えると車に乗り込んだ。
『さて私もついていきますか!』
(お前はあの廃墟が家みたいなものだろ!)
俺は優花ちゃんに小声で言った。みんなに独り言だと思われると面倒だからな。
『だってにぼっしーが「一緒にいてくれ!俺はお前が好きだ!結婚してくれ!」って言ったじゃん!』
(いろいろ間違ってるぞ!俺はあくまで一緒にいてもいいとは言ったが一緒にいてくれ、までは言ってない!そして『俺はお前が好きだ!結婚してくれ!』は絶対に言ってないからな!)
『でもついてきてはいいでしょ?』
(まあ、いいけど……)
『いえーい!男の部屋で毎日寝泊りできる!ひゃっほー!』
(そんなこと言うなら追い出すぞ!)
『追い出せるなら追い出してみなよ!私は幽霊だよ?私にいつでも触れると思ったら大間違いだからね!』
(除霊するか)
『ごめん!許して!』
俺はものすごく大事なことに気が付いた。
(…………お前がこれから俺と一緒にいるんだよな?)
『うん。そうだよ』
(つまり俺のプライベート空間がなくなるってことじゃねえかよ!)
『何?人には言えないやましいことでもしたかったの?残念でした!そういうときに必ず現れるから!面白そうだし!』
(よし!家に帰ったら除霊を本気でするか)
『すみませんでした!そういうときはちゃんとその場から離れるから本当に許して!』
そんなことを言い合いながら俺は小白さんの隣に座った。
優花ちゃんの席はもちろん用意されていなかった。だからかこの幽霊は小白さんの膝に座った。
「ねえ弐星くん。膝の上何もないはずなのになんか重いのは気のせいかな。合宿の疲れが出たのかな?」
「たぶんそうだよ!きっと!」
俺は変態幽霊を無理やり引っ張った。
『この子、めちゃくちゃ可愛いんからもっと触りたい!』
(塩投げんぞ!)
『ごめん。でも私座れるところないし。だからこれは不可抗力!じゃあ逆に聞くけど、誰の膝に座ればいいわけ?』
(じゃあお前が姿を真似た東村とかどうだ?)
『なんかあの男に近づいたらヤバい感じがめちゃくちゃするんだけど!』
(それはそう)
『ほかの人でマシなのはあのセンパイは……触ったら除霊されそうな感じがするのは私だけかな?』
(ラケット持ったら覚醒するからそんな力あってもおかしくはないな)
『大陸ってやつとセンセイはダメな感じがするんだけど)
(大体当たってる)
『じゃあこの小白ちゃんだけだね!』
(俺を選択に入れないのかよ!)
『座ってほしいの?』
(そういうわけじゃないけど…………)
『本当に?実は私の体を触りたいくせに!このこの~!』
俺はバックから、食堂で手に入れた食塩を取り出した。
『ごめんって。わかった!君の膝に座るからそれで許して!』
(幽霊だから物体に触れないってこともできるだろ)
『ものに触れてないと車が先に行っちゃって私が置いてけぼりになっちゃうの!』
(しょうがない。じゃあそれで勘弁してやるよ)
俺の膝の上に優花ちゃんが座った。思ってた通りの重さだったな。迅城と同じくらいか。
『なんか失礼なこと考えてない?』
(考えてない)
「それじゃあ出発するか」
竹土先生はそう言うと車は走り出した。
助手席から東村は俺に声を掛けた。
「お前、いったい誰としゃべってるんだ?」
「東村、俺がお前でも、小白さんでも、先輩でも大陸でも、先生でもない誰かとしゃべってるように見えるだなんて、疲れてるんだよ。寝たらどうだ?」
「夜、ぐっすり寝たから大丈夫だ」
「……そうか」
「弐星くんって今日ずっとおかしいよね」
「全然そんなことないよ!」
「弐星!それよりあのマジック教えてくれよ!」
「無理」
「弐星くん。もしかしてだけど、今日ずっとおかしいのとあのマジックってなんか関係あるの?」
「……そんなことないよ」
「でも確かに弐星はおかしかったよね。あたしとの練習のときだっていつもより動けてなかったしね」
「合宿のときの疲れが溜まってたからです!」
「そうだよね!まさか、合宿で可愛い女の子に会ったから浮かれておかしくなったとかじゃないよね?」
(弐星!小白さんを股にかけて他の女にも手を出してたのか!)
(違うぞ!あと小白さんを股にかけてないからな!)
『私が、こんなに可愛いだなんて!照れちゃう~!』
自称可愛い女の子を見ても、どうも思わないのはどうしてだろうか?
『なんか失礼なことを考えてるでしょ!』
自称可愛い女子である幽霊に首を絞められた。
(ご……めんって!)
合宿4日目で学んだことは幽霊と一緒にいるという約束はしてはいけないということだ。




