第19話
俺と小白さんは合宿の肝試しで廃墟の中に入った。歩くたびに床がギシギシ鳴ってるのはちょっと怖い。雰囲気が出てていいね!……すみません。本当は怖いの苦手です。見え張ってました。正直小白さんを置いてでもダッシュでここから脱出したいくらい、ここ怖いです。
「お化けが出てもおかしくない雰囲気だよね!なんかワクワクするよ!」
小白さんは笑顔で言ってきた。
ちょっと前にお化けに会いたいとか思っていたが、こんなガチな心霊スポットみたいなところでお化けに会うとか無理無理無理!だが、ここで腰が抜けたりなんかしたら男の恥だ。
「そう…………だな。ワクワ……クする……」
俺は言った。小白さんに怖いのが苦手だとバレないようにしなければ。
「ワッ!!!!!」
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
……あっ。
「ぷっ!フフフフフ!……弐星くんって実は怖いの苦手なんだ」
小白さんはにやにやしながら言った。まさか小白さんが驚かしてくるとは……。
「もう俺はおしまいだ……」
「そんなに悲しまないでよ。旅館に戻ったら女装させてあげるから元気出して」
「女装したら俺が元気になると思ったら大間違いだぞ!それより裸のほうが、…………あっ!」
「どうしたの?」
「パンツ1丁になれば俺は無敵になれる!」
「そっちのほうが間違ってるような気がするんだけど…………。というか脱ぐの早くない!」
俺は小白さんが俺に向けて口を開いている最中に脱いだ服を左手で持ってパンイチになった。
「はっはっは!これで怖いものなしだ!」
「確かに。これ以上恥じることもないしね……」
「小白さんには裸の良さがわからないようだな!これは身軽でいいんだよ!」
「弐星くんの考えてる良さと私の考える良さは違うよ」
「そうなのか?何が違うんだ?」
「根本的に違うんだよ!弐星くんは自分の気持ちが切り替わるんでしょ?」
「……まあそういうことになるな」
「でも私は雰囲気を引き立てるものだと思ってるんだよ!」
「例えばどういう雰囲気だ?」
「例えばね、BLのマンガで男同士が裸だと……」
「俺は小白さんと分かり合えないことがわかったよ」
俺と小白さんは駄弁りながら廃墟の中を進んでいた。
「弐星くん。変顔してどうしたの?」
「変顔してるんじゃなくて探してるの!」
「何を?」
「東村が仕掛けたものに引っかかるのは癪だから、それを探してんだよ。見つければ回避できるし」
「例えばこれとか?」
小白さんが見してきたのは、美術室によく置かれてる首像だった。心霊スポットみたいなこの場所で、首像に懐中電灯で照らしたら怖い雰囲気が出ていた。
「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「そんなに怖いの?」
「小白さん!俺をいじめて楽しいか!」
「いじめてるつもりはないけど、怖がらせるのはすごく楽しいよ!」
「小白さんは東村と馬が合いそうだよ……」
俺がそう言うと、小白さんはムッとした。
「よくわかんないけど、なんかイライラしてきたんだけど!」
「それは大変だな!イライラしたらカルシウムを摂取したらいいって、どこかで聞いたことある気がするからしたほうがいいんじゃないか?」
「それ、煽ってるの?」
「うん」
「おい」
「すみませんでした」
俺は土下座した。小白さんが可愛く怒ってきたから抱きつきたい気持ちもあったが、ここは謝っておこう。もしかしたら、どこかで『小白ファンクラブ』が俺たちを見てるかもしれないし。
「ああ、もちろん見てるぞ。あいつらじゃないけどな」
後ろを振り向いたら東村がいた。俺は立って叫んだ。
「お前ついてきたのかよ!」
「まあ。そうっちゃそうだし、そうじゃないっちゃそうじゃない」
「なんか曖昧な言い方をするな」
「そりゃあね。だって俺はお前たちの言うところの幽霊だもの」
そう言って東村は、……『ヒガシムラ』は足元から徐々に薄くなっていって消えた。俺と小白さんは顔を見合わせた。
「「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」
俺と小白さんは思い切り叫んだ。
「何をそんなに怖がってるのさ」
『ヒガシムラ』は言った。どの『ヒガシムラ』が言っているのかわからない。周りにいっぱい『ヒガシムラ』がいるのだから。急に周りに『ヒガシムラ』がいっぱい現れたのだ。恐怖でしかない!
「「わああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」
俺と小白さんは一緒に走って逃げた。とにかく逃げたものだから、俺たちがこの廃墟に入るときに使った出入口から出たわけではない。つまり、どこかわからないところからこの廃墟から脱出というわけだ。
出口の先は崖になっていた。
俺は急ブレーキをしてギリギリ崖から落ちずに済んだ。しかし小白さんはいきなりのことでブレーキができなかったようでそのまま俺の先まで進んだ。
「危ない!」
俺は咄嗟の判断なんとか小白さんの腕を掴むことができた。だがしかし、小白さんの走る勢いがまだ残っていたのか俺と小白さんは崖から落ちることになった。
俺は地面から離れる直前にどうにか抱きついた。まるで小白さんの『盾』のように。『身代わり』のように。これで小白さんがケガをせずに済むのなら!ケガをさせてしまったら変態集団に処刑されてしまうのが嫌だったからというのもあるが、……それよりも小白さんにケガしてほしくないからだ!
崖から落ちた先は川だった。……あちこちが痛い。だがまあ重症ってほどでもないが。服着てればもうちょっと痛くなかったのかもしれない。
俺たちはとりあえず川から出た。
というか服はどこだ?そういえば、『ヒガシムラ』から逃げるとき服を話したような気がする。……まあしゃあないか。
「弐星くん!大丈夫?」
「ああ……。まあなんとかな……」
「それなら良かった……」
「俺に惚れるなよ?」
「なんで裸になってる男に惚れなきゃいけないの」
(……まあ惚れたんだけどね)
「なんて言った?絶対に大事なことを言った気がするんだけど」
「なんでもないよ!」
くそ!なんか『俺に惚れてる』みたいな顔してるけど、本当になんて言ったか聞き取れられなかった!しょうがない、諦めるか。しつこい男は嫌われるらしいしな。ここは引いておくしかない。
「それにしてもどうやって旅館に戻るか……」
「旅館ってあれじゃない?」
小白さんが指を差したのはこの山の頂上だった。頂上が明るい。確か『激流蛙旅館』とやらは頂上だったはずだしな。
「どうやって戻るか……」
「懐中電灯を空に向けて照らしたら岩破先輩たち、気づいてくれるんじゃない?」
「ごめん」
「どうしたの?」
「…………懐中電灯、廃墟に捨ててきちゃった」
「じゃあ、スマホで先輩たちに連絡するとか。私、旅館に置いてきちゃったから弐星くん。お願い」
ポケットに入ってたスマホを確認した。……スマホの電源が入らない。
「俺たち川に落ちたじゃん。たぶんそれで水没と衝撃で壊れたぞ」
「じゃあじゃあ、私たちが叫べばいいじゃん」
「俺の第六感が、ここで叫んだらサルに襲撃されるって言ってるんだよ」
「何その第六感!」
「しかたがないから自力で戻るか」
「……そうだね」
俺たちは旅館に向かって歩き出した。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
無言に耐えられなくなった俺は小白さんに行った。
「なあ。わんこそばの掛け声しようぜ」
「急になんでわんこそばの掛け声するの?」
「安全確認だよ」
「どういうこと?」
「無言で歩いてたらさ、もし俺か小白さんに危険な目に会っても、もう片方がそれに気づかなかったらどうするんだ?つまり、そこから導き出される答えがわんこそばの掛け声なんだ!」
「導き出される答えが絶対に間違ってるでしょ!」
「はい、じゃーんじゃん!」
「急に始めないでよ!」
「やろうよ!」
「……わかったよ。やるよ」
「はい、じゃーんじゃん!」「はい、どーんどん!」「はい、じゃーんじゃん!」「はい、どーんどん!」「はい、じゃーんじゃん!」「はい、どーんどん!」「はい、じゃーんじゃん!」「はい、どーんどん!」「はい、じゃーんじゃん!」「はい、どーんどん!」「はい、じゃーんじゃん!」「はい、どーんどん!」「はい、じゃーんじゃん!」「はい、どーんどん!」
「はい、じゃーんじゃん!」
「はい、どーんどん!…………何やってるんだろう……私」
「何って、わんこそばの掛け声だけど」
「それはわかってるよ!でも、別にわんこそばの掛け声をしなくてもよくない?」
「だってお互いの異常があるかどうか、確認するのにちょうどいいのがこれしか思いつかなかったからしょうがなくない?」
「でも、わんこそばの掛け声はなんか雰囲気をぶち壊してると思うんだけど」
「今の状況で雰囲気とか気にしてる場合じゃないだろ」
「ねえ弐星くん。わんこそばの掛け声より別の方法のほうがいいと思うんだよね」
「例えば?」
「アカペラの合唱とか」
「俺、歌うの苦手なんだよね」
「じゃあだるまさんが転んだをするとか」
「立ち止まってたら帰るのがめちゃくちゃ遅れる」
「それじゃあお互い芸を披露するとか」
「俺、芸っていってもできるのないと思うよ」
「弐星くんは腹踊りとか得意そう」
「できねえよ!」
「じゃあじゃあ歩きながらバドミントンをするとか」
「ラケットもシャトルもないし、歩きながらとか絶対むずいだろ!」
「………………手を繋ぐとか」
「それは絶対にやめよう!」
「何で?もしかして恥ずかしいから?でも大丈夫私も恥ずかしいからお互いさまってことでいいじゃん!」
「それも確かにあるんだけど、そうじゃなくて俺、お前と手を繋いだら明日はない気がする……」
「私ってサソリとかみたいな毒があるとかそんな感じ?」
「そんな感じ」
「おい」
「冗談だよ。でも結局わんこそばの掛け声のほうがよくないか?」
「そうなの?」
「はい、じゃーんじゃん!」
「無理やり始めないでよ!」
とにかく旅館に戻りたい……。こんなひどい状況じゃなかったら、小白さんのずぶ濡れ姿を拝んでたってのにさ。
「くしゅっ!」
小白さんはくしゃみをした。……可愛い、…………じゃなくて大丈夫だろうか?
「小白さん。寒い?」
「寒いけど弐星くんを見てるだけでも寒いよ」
「俺はパンイチに慣れてるから大丈夫だよ。それより俺のパンツでも羽織ったらどうだ?そしたらちょっとはマシになるんじゃないか?」
「弐星くんのパンツを羽織ったら、弐星くんが全裸になっちゃうじゃん!しかもパンツなんて羽織りたくないよ!弐星くん、女の子にそういうこと言うのはどうかと思うよ」
「良かれと思って言ったのにひどいよ!」
「弐星くんはもっと自分の言おうとしてることについてちゃんと考えたほうがいいよ!いや、考えて!」
小白さんは改まって口を開いた。
「……弐星くんって…………好きな人とか……いたりするの?」
「そういうのは考えたことないな」
「……そうなんだ。……もしさ、弐星くんの近くに……弐星くんのことが…………好きな人がいたらどうするの?」
「そうだな……、人によるけど、仮に小白さんくらい接してる人だったら、そいつの気持ちにちゃんと向き合いたいとは思うよ。俺はすごく頑張ってる人は応援したいというか、そういう人は好きなほうだし」
「………………そう、…………なんだ」
何で急にそんなことを聞いてきたんだろうか?まさか女子たちの間で心理テスト的な何かが流行っていてこの質問がそういう系のやつとかかな。
そんなこんなで先輩たちのいる廃墟の前までたどり着いた。
「弐星と小白!なんで廃墟からじゃなくて後ろから帰ってくるの!何があったの?」
「先輩。これは全部東村のせいです!」
「なんで俺のせいなんだ?」
「だって東村の仕掛けた『幽霊』のせいで、崖から落ちちゃったんだからな!」
「幽霊?……あぁ。あの俺がたくさんいるアレね。でも俺がいっぱいいただけだろ。それでなんでそこまでなるんだよ?」
「お前がたくさん現れる前に、東村の姿がスーッと薄くなって消えるやつのせいでめちゃくちゃ怖くなったんだよ!東村、あれはやりすぎだぞ、さすがに!」
「なんだよそれ?スーッと薄くなって消える?何だよそれ?」
「知らないの?」
「うん」
俺と小白さんの顔は真っ青になった。
大陸が小白さんに声を掛けた。
「そういえばさ小白さん。何で服が濡れてるんですか?」
「崖から落ちた先が川だったからそこで濡れたの」
「……ちなみに弐星に何かされました?」
「腕を握ってきたり抱きつかれたりされたかな」
小白さんは顔を少し赤くさせて言った。その感じだと変な誤解をされてしまうからやめてほしい。岩破先輩がキャーキャー言ってる。……もう誤解されてる。
(おい弐星!どうやら殺されたいらしいな!)
(違う違う!小白さんにケガさせないために腕を掴んで崖から落ちないようにしようとしたり、抱きつくというか盾になったりしたんだよ!)
(…………この件は保留にしてやる)
……助かった。死ぬかと思ったよ。
岩破先輩は口を開いた。
「そういえば弐星。服はどうしたの?」
「…………また廃墟に行ってきます」
俺はもう1回、幽霊が出た廃墟に入った。
合宿3日目で学んだことは、お化けに会いたいだなんて思ってはならないということだ。




