第15話
俺、小白さん、岩破先輩、大陸、東村、竹土先生はそれぞれ車の真ん中の席、後ろの席、助手席、運転席に座り、竹土先生は車を運転し始めた。
大陸が俺にしか聞こえないくらいの小声で話しかけてきた。
(お前、小白さんに指1本でも触ったら仲間を呼んで血祭にするから覚悟しとけよ)
(しないしない!絶対にしないから大丈夫!)
「おい弐星。しばらく暇になるし、アルプス一万尺でもしないか?」
「いや、何か怪しいしやめとく」
「俺とやるのがそんなに嫌か?」
「ガチでやだ」
「わかった。アルプス一万尺ガチ勢の俺が断られるのはすごく悲しいけどしゃあないか」
「アルプス一万尺ガチ勢、初めて見たんだけど」
「じゃあせめて弐星と他の誰かがやってるのを見してくれよ」
「まあ、それくらいなら別にいいけど」
「じゃあ小白さん、よろしく」
……アルプス一万尺って手とか触るよな。
「わかった。いいよ。じゃあ弐星くん、やろう」
いやいやいやいや!東村の野郎、俺を殺しにかかってやがる!
「ごめん。眠くなってきた。おやすみ………。ぜっとぜっとぜっと」
「弐星くん、何で寝てるふりするの!あと寝てるとき『ぜっとぜっとぜっと』なんて普通言わないよ!」
「いや、俺女子とアルプス一万尺できる免疫ないから。しょうがないだろ」
「話せる免疫がないっていうのはあるけど、アルプス一万尺する免疫ないっていうの初めて聞いたよ!」
「というわけで、大陸やろ…………」
「ぐう…………」
「寝てんじゃねえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「弐星!お前が誰かとアルプス一万尺しないと俺は弐星の恥ずかしいポエムを音読するぞ!」
「何で俺のポエムを持ってるんだよ!」
「不法侵入したから」
「堂々と犯罪を認めるんじゃねえ!」
「じゃあ弐星。俺とアルプス一万尺するか」
「竹土先生!先生は運転しててください!」
「『朝、それは小鳥が歌い、蝶は踊り、そして……』」
「わかった!岩破先輩、アルプス一万尺しましょう!」
「あたしを女子扱いしてない!悲しいんだけど!」
「いや、そういうわけじゃ……」
「……もしかして弐星くんって岩破先輩のことが好きだからとかそういうことか」
「全然違うぞ!」
「ごめんね弐星。あたし君をそういう目では見れなくて。ただあたしの鬼畜プレイに付き合ってくれるのはうれしいんだけど、ちょっと恋愛対象としては……」
「なんか勝手に告ったことにされて勝手に振られたんだが!そして先輩はあの練習を鬼畜ってとうとう認めたし!」
「弐星くん、どんまい!」
「なんで小白さんはうれしそうなんだよ!」
「そういや何でだろうね……」
「もしかして、人が振られたのを見るのを楽しむ極悪だったのか!人の嫌なことを好むのは東村以外にもいたのかよ」
「いや、そういうことではないんだけど……」
岩破先輩は小白さんをニヤニヤしながら見ていた。
「ふ~ん」
「な、何ですか!」
「無自覚とか、マンガとかしかないものだと思ってたけど、まさか現実でそんなことがあるんだね」
「何がですか?」
「それは言えないね。ここで言っちゃったら面白くないからね!」
「すごく気になるんですけど!」
俺も何で先輩がニヤニヤしてる理由が気になるんだが。
「ああ甘酸っぱいね。いやあたしもそういうのやりたかったな……」
「岩破先輩がなんか意味深なことを言ってるんだけど」
「先輩。俺、ニヤニヤしてる理由めっちゃ気になるから、何でもいいから教えてくださいよ!」
「やだ!」
くそ。何だよ。気になるように仕向けて教えてくれないのはなんかモヤモヤしやがる!
「なあ。弐星は結局誰とアルプス一万尺するんだ?しないんだったらお前のポエム読むぞ。『そして俺は……』」
「ああ、わかった!俺、アルプス一万尺の免疫急にできたから小白さん、やろう!」
「急に免疫できたって……、まあいいけど。じゃあいくよ。アールプ……」
「弐星!覚悟おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「急に起きるんじゃねえよ!大陸!」
「俺との約束を破りやがって!お前を殺して俺は生きる!」
「『俺は生きる』って、『俺も死ぬ』じゃねーのかよ!」
「だって死にたくないし」
「ふざけんな!」
「とにかくお前を殺す!」
「ちょっと待て!お前が寝てたのが原因なんだぞ!お前が起きてたら小白さんとじゃなくてお前とアルプス一万尺してたんだぞ!」
「弐星くん……。本当は私とアルプス一万尺したくなかったんだ……」
「弐星。女の子を悲しませるのは最低だよ」
「やーい。さいてーだ。さいてー」
「東村は黙れ!小白さん、本当はめちゃくちゃしたいけど、ちょっと諸事情でできないんだ。だからまた今度にしような」
「へえ。弐星は結局アルプス一万尺するんだな?」
「うるせえ!とにかく大陸、アルプス一万尺するぞ!」
「なんでお前とやんなきゃなんねーんだよ」
「しないとお前との約束を破ることになるんだぞ!」
「弐星くん。大陸くんとの約束って何?」
「……えっとね、女子とのアルプス一万尺するのを合宿中我慢するって約束だよ」
「どんな約束なの!」
「こういう約束」
「そういうことじゃなくて!」
「とにかくそういうことだから。大陸、アルプス一万尺するぞ!」
「……わかったよ」
「「『アルプス一万尺小槍の上でアルペン踊りを踊りましょ……』」」
俺はすごく変な雰囲気の中で大陸とアルプス一万尺をした。どんな嫌がらせだよ。『嫌がらせ』?もしかして東村はこれを計算していたのか?そうであるなら東村の作戦に、まんまとはまってしまったってことになるのかよ!最悪だ!
地獄のアルプス一万尺を終えると、車はパーキングエリアで止まった。
「ここで少し休憩するぞ」
竹土先生はそう言うと、ダッシュでソフトクリームを買いに行った。うちの顧問、自由すぎるだろ……。
「みんなはここで何する?」
岩破先輩は俺たちに聞いてきた。
「俺はちょっとトイレ」
そう言って車を降りて走って行った。
「俺は嫌がらせのネタ探しにあちこち行ってくる!」
そう言って車を降りて姿が見えなくなった。……あいつ物騒なこと言ってたぞ!
「小白と弐星はどうするの?」
「私は……あそこの売店でおかしでも買おうかな?」
「あたしもそうしようかな」
「じゃあ俺も」
というわけで売店へと向かった。
「あたしはこの『手で食べれるパンケーキ味のプロテイン』を買おうかな」
何それ!買わないけどめっちゃ気になる!
「私は『納豆、しょうゆ、みそ、わさび、ジャム、デスソース、ドリアン、なめこのスペシャルポテトチップス』が気になるな。弐星くんもどう?」
「絶対にいらない!」
どうしてそんなピンポイントなものが売ってるんだよ!ここの会社に訴えてやりたい!
俺は何を選ぼうかな?
なにこれ?『真顔になれるせんべい』って。スマホでこれを食べた人の感想を調べるとすぐ出てきた。
『会社の会議の前で緊張して変な顔をしてたんですけどこれを食べたら、まず過ぎて真顔になれました。おすすめです!』『友達とにらめっこする前にこれ食べたらまず過ぎて真顔になれ、無事勝ちました。人生で1度は食べるべきせんべいです!』って、全部『まずい』ってことを言ってるだけじゃねえかよ!
「きの〇の山にするか」
「弐星!たけのこにしろ!」
「俺、手が汚れないほうがいいんですけど」
「たけのこしかありえないでしょ!」
「じゃあポッ〇ーにします」
「弐星くん。プ〇ッツじゃないの?」
「ああもう!じゃあポテチのコンソメにするよ!」
「「チップ〇ターじゃないの?」」
「それなら!メロンパンにする!」
「アンパンでしょ!」と岩破先輩。
「チョココロネでしょ!」と小白さん。
「なんで俺が選ぼうとしたら別のを勧めてくるんだよくるんだよ!めちゃくちゃ選びづらいわ!」
「おかしに関しては譲れないところがあるから」
「わかったわかった。じゃあそういうことができないやつにするよ。魚肉ソーセージだ!これだったら他の物を勧められまい!」
「わかったよ弐星。これならどう?」
岩破先輩は何かを手に持ち俺に渡してきた。それは生の鶏肉だった。
「食中毒になるやつをなぜ選ぶんですか!」
「生の鶏肉って食べても何ともなかったけど?」
「先輩、過去に食べたことあるんですか!」
「まあ。食べたらちょっとお腹が痛くなったんだけど、日課の素振りをしにラケット持ったら急にお腹の調子が良くなったから別にいいのかと思ったんだけど」
「先輩、凄すぎでしょ!」
「別に鶏肉を生で食べたって平気でしょ!これにしようよ!」
「先輩と俺の身体を一緒にしないでくださいよ!俺はもう魚肉ソーセージに決めました!」
俺は魚肉ソーセージ、小白さんは『納豆、しょうゆ、みそ、わさび、ジャム、デスソース、ドリアン、なめこのスペシャルポテトチップス』、岩破先輩は『手で食べれるパンケーキ味のプロテイン』を手に持って、車に戻った。
「おそいぞ弐星。ソフトクリーム食べたから早く出発したいんだけど。東村と大陸はもう乗ってるぞ」
竹土先生の運転する車は再び走り出した。
東村が口を開いた。
「なあもう一回アルプス一万尺しないか?」
「絶対に嫌だ」
「じゃあもう弐星のポエムの音読しかやることないじゃん!」
「なんでそうなるんだよ!しりとりとかしようよ。じゃあ順番は小白さん、岩破先輩、大陸、俺、東村の順でやらないか?」
「しゃあねえな。しりとりの後にポエムの音読するって言うんだからやるか」
「ポエムの音読はしりとり終わってもやらせねえからな!」
「じゃあしりとりするよ。しりとり」
「りんご」
「ゴリラ」
「ラッパ」
「パン。あっ、『ん』にしちゃった俺の負けか!残念だなあ。しょうがない。やることもないし弐星のポエムを音読するしかねえか!」
「絶対にさせないぞ!」
「え?だってしりとり終わってやることって言ったらもう弐星のポエムしかなくない?」
「ねえ、カラオケ大会とかどう?ちょうど私スマホに音楽アプリ入れてるから」
小白さんが提案してきた。だが、俺は音痴でリズムが全然とれない。俺の中学のときのあだ名の1つが『歌をゴミにする天才』だ。このあだ名で察していただきたい。どうしよう……。
「それはありだな!」
東村はノリノリで言った。ですよね。俺と東村は中学からの付き合いだからわかってるんだよな。俺が歌うのを嫌がってる理由が。
「じゃあ誰からにする?」
「弐星とかどうだ?」
「あたしは弐星の歌を聞いてみたいな。普段歌わないって顔してるから」
「どんな顔ですか!」
「具体的に言ってやろうか?」
「東村、やめろ。お前が言うと死にたくなるから」
「じゃあ言うか。えっとね、まずは弐星の……」
「よし、それじゃ歌うか!でも俺、歌える曲とかねえんだよな。しいて言うなら、『めざせポケ〇ンマスター』と『バララ〇カ』くらいなんだよな」
「弐星くんはなんで歌える曲がその共通点を探すのが難しい2曲なわけ?」
「まあそれはポ〇モンが好きってのと『バ〇ライカ』は……その…………」
「ああ弐星はニコ〇コ動画で……」
「それ以上言うな!じゃあ俺は『バラライ〇』を歌うぞ!」
「わかった。準備するね」
バドミントン部によるカラオケ大会が始まった。ちなみにこの大会の優勝者は意外にも竹土先生だった。演歌の熱唱、ガチですごかったな。




