第14話
7月最初の放課後。俺、東村、小白さん、大陸は体育館で岩破先輩が来るのを待っていた。
「岩破先輩部活に来ないな。東村、何か聞いてないのか?」
「さあ。でもなんか発表したいことがあるらしいぞ」
「何?」
「俺もわからん」
「大陸は何だと思う?」
「部活が廃部になるとかだったら俺、超うれしいんだけど」
「それはそう。小白さんは?」
「彼氏ができたから紹介するとかじゃないの?」
「それはやだな。俺がリア充になるのはいいが、他人がリア充になるのはなんかムカつく」
「お前、言ってることがゴミだぞ」
「東村にだけは言われたくないのだが!」
「ごめん。結構待たせちゃったね!」
「岩破先輩遅かったじゃないですか」
「いやあ、ちょっと夏休みの予定の確認が手間取っちゃってさ」
「夏休みで何か特別なことでもするんですか?」
「あるよ。個人のシングルスの大会ともう1つ」
「もう1つ?」
「それは…………、デデデデデデデデデデデデデデデデデデデデ……デン!合宿だよ!」
『合宿』という単語を聞いて俺、小白さん、大陸はものすごく複雑な顔をした。どこかに泊まるというのはすごく楽しそうだ。しかし、よく考えていただきたい。バドミントン部の部活動はものすごくハードである。いつもの練習で死にかけるというのに、合宿なんか行ったら多分10回くらいは軽く死ぬだろう。だから複雑なのだ。
「東村、なんでお前はうれしそうなんだ?」
「いや、朝昼晩俺のお楽しみができていいなあって思っててさ!」
東村のお楽しみとやらはどうせ嫌がらせだろう。すごく最悪だ。ちょっと合宿の件は、なかったことになんねえかな。
「合宿のしおりを配るね」
渡されたしおりの中身で気になるところを確認した。8月のはじめから4日間。場所は激流山という山にある旅館と体育館で活動。1日のスケジュールが『5時起床→5時半~8時練習→8時~8時半朝食→9時~12時半練習→12時半~1時昼食→1時~5時練習→5時~6時自由行動(入浴はここで済ましておく)→6時~7時夕食→7時~10時自由行動(3日目はここで肝試し)→10時消灯』だと書いてある。肝試しだと?絶対楽しいに決まってるだろ!
小白さんが先輩に質問した。
「肝試しって何するんですか?誰か驚かす人とかいるんですか?」
「この旅館の近くに心霊スポットみたいな所があるからそこをただ歩くだけ。驚かす人は別に決めなくて大丈夫だよ」
今度は東村が質問した。
「みんなで一斉にその心霊スポットみたいな所とやらに行くんですか?」
「いや。バドミントン部の毎年恒例のルールがあって、くじ引きをするんだけど同じ色がそれぞれ2つずつあってその同じ色を引いた人同士、ペアになって肝試しをするよ。だけど今年は部員が奇数人だから、1人だけぼっちで歩いちゃうけどね」
それを聞いて大陸の目がガチになった。……まあだいたい察した。どうせ小白さんと一緒になりたいんだろうな。
俺も質問することにした。
「部屋は誰が一緒とか決まってるんですか?そのことはしおりに何も書かれていないのですけど」
「ああ、忘れてた。それは今から決めるよ。男女が同じ部屋はさすがにまずいからくじか何かでは決められないんだよね。1人1部屋使いたいか、もしくは男子、女子がそれぞれ固めた部屋にするかどっちがいい?せっかくだし多数決で決めるか。ちょうど奇数人だし」
絶対に1人1部屋に決まってるだろ!だってもし男子、女子をそれぞれ固めてしまうと東村の嫌がらせが24時間ぶっ続けでされてしまうからだ。それは絶対に避けなければならない。
「じゃあ決めるよ。1人1部屋がいい人手を挙げて」
俺は全力で手を挙げた。そして小白さんも手を挙げていた。
「ふーん。手を下ろしてね。じゃ、これで結果がわかったね。さっき手を挙げたのは弐星と小白の2人。手を挙げてない、つまり男子、女子をそれぞれ固めた部屋がいいのはあたし、東村、大陸の3人。てことで、男女それぞれ固めた部屋にするよ」
大陸が俺に小声で話しかけてきた。
(なあ。もしかしてだがお前、小白さんを夜這いしたいから1人1部屋を選んだのか?そうであるならこの場で殺す!)
(そうだよ!)
(東村!俺の声真似を急にするな!大陸が調理室から包丁を持ってこようとしてるからマジでやめて!大陸。そんな理由じゃないからな!俺はただ寝る場所は自分だけのほうが落ち着くからだ!)
(ちぇっ。これを口実にして仲間たちと一緒にお前をヤれると思ったのにな)
(物騒なことを言うな!)
東村のせいで危うく今日が命日になるところだった。マジで東村と縁を切りたい!
俺は口を開いた。
「先輩。他に合宿について決めることはあるんですか?」
「合宿についてはあとはもうないかな」
「じゃあそういうことでもう帰りますか。先輩さよなら」
「ああじゃあ……、ってまだ今日部活してないんだけど!」
「「「「ちっ」」」」
「ああ!みんなサボろうとしてる!しかたない。みんな今日は特別メニューをするか」
「すみません先輩。弐星が勝手にやったことなんで特別メニューは弐星だけにしてください!」
「大陸!お前……!」
「先輩!悪いのは全部弐星くんです!」
「小白さんまで!」
「そうそう岩破先輩!弐星は明日もサボろうとしてたので、弐星の練習をもっときつくしてあげてください!」
「東村!別に俺はそんなことしようとしてないぞ!」
「わかったよ弐星。そんなにあたしと練習したいなら今日は、最近考えた特別メニューよりきついとっておきのメニューをしようか!」
「俺が悪かったので許してください!」
次の日、筋肉痛がひどすぎて1歩も動けず結果的に部活を休むことになってしまった。
そんな東村に殺意が芽生えたことを思い出しながら、俺は思い荷物を汗を流しながら持って学校に向かって歩いていた。今は夏休みの8月のはじめ。つまり今日から合宿だ。ラブコメとかがあるラノベだと、ちょっとエッチな場面に遭遇するだろうが、どうせこのバドミントン部のことだ。そんなことなど起こるはずがない。……とかなんとか言っとけば何かのフラグになるかもしれないから一応言っておくことにした。
合宿。バドミントン部の毎年恒例で行うものだという。バドミントン部が毎年行く体育館はエアコンの設備がきちんと整っていていつもの練習より快適にできるとのこと。旅館はバドミントン部が毎年貸し切りで泊まれるとか。なんというかすげー。まあ合宿の欠点は東村というゴミがいることと、4日間の地獄の練習が待っていることだ。正直欠点のせいであまり元気が出ない。去年までのバドミントン部の合宿と今年の合宿の違いがあるらしい。それはバドミントン部の部員が去年までと比べて激減したとか。そのことによって、これまでは貸し切りバスで学校から旅館まで移動するのが顧問がレンタルした車で移動することになった。それだけ聞いたところでなんとも思わないだろうが、運転するのがめんどくさがりを超越した存在である竹土先生なので、察していただきたい。
そんなことを頭の中でぐるぐるやっていくうちに学校に着いた。
学校にもう東村、岩破先輩、小白さん、大陸、竹土先生がいた。
「弐星も来たことだし出発するか!じゃあまずは車の席決めをするからくじで決めるか。無印の割りばし1本が助手席、赤の印の割りばし2本が真ん中、青の印の割りばし2本が後ろね」
席決め。これはものすごく重要なことだ。旅館に着くまで東村の嫌がらせをされる可能性があるため、慎重に考えなくてはならない。車は6人乗り。運転席を除くと5席。一番前、つまりは助手席に1人、真ん中に2人、後ろに2人が乗る。まず、真ん中は確実に東村と関わることとなるから論外。後ろだともし東村と隣もしくは前になった場合、端にいるから集中砲火。死が確定。助手席だと後ろが東村でも死が確定。つまりどこでも東村に殺される。この中で一番安全になる可能性があるのは助手席しかない!
「じゃあちょうどみんな輪になってるから、東村→大陸→小白→弐星→あたしの順で引いてね!じゃあさっそく東村おねがい!」
俺の理想とする座席は俺が助手席、小白さん、岩破先輩が真ん中の席、東村と大陸が後ろの席だ。こうすることで東村に嫌がらせがされづらくなり、何かの弾みで大陸に殺されずに済む。こうなるためにはまず、東村が後ろの席になっていただかなくてはならない。青の印の割りばしを引け!
東村がくじを引いた。
「俺は助手席か。いいのか悪いのかよくわからん場所だな」
東村が助手席になったことで、後ろの席が安全になったということ。助手席になるのは難しかったが、後ろの席なら希望があるぞ!
「次は俺か。いくぜ!!!…………後ろの席か」
俺が後ろの席になったら大陸が隣。……嫌だけど東村と比べたらマシなほうか……。
「次は私か。よいしょ!真ん中だ」
小白さんは大陸を怒らせる火種……いや爆弾と言うべきかもしれない。もし俺が真ん中の席になったら爆弾が隣になって大陸によって俺は死ぬだろう。そして東村の嫌がらせを移動中ずっとされるだろうな。絶対に青の印の割りばしを引くしかない!
「このドローは激しく重いぜ!だが、俺は引く例えこの指がぺっきり折れようともな!ドカンといくぜ!ドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロー!!!!!!…………………クソがああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ぶははははは!切〇勝太のドローを真似て引きたかった割りばしを引こうとして、引けなかったとかおもろすぎだろ!ぶはははははははははは!!!」
東村に思い切り笑われてしまった。クソ!顔面をぶん殴りてえ!
俺は赤の印の割りばしを引いた。つまり爆弾が隣。大陸にちょっとした弾みで殺される。東村に嫌がらせされる。死。
「……えと最後の1本は青の印の割りばしだから、あたしは後ろの席の座るのか。これで決まりだね。何か異論のある人はいる?」
俺は即行で手を挙げた。
「どうしたの弐星?」
「俺と大陸の席を入れ替えてもいいですか?」
「どうして?」
「大陸は真ん中でみんなと話しやすい場所を求めていて、俺は乗り物に乗るとき後ろの席じゃないと酔ってしまう体質なので利害一致したからです!」
大陸が意外そうな顔で俺を見てきた。親指を立てていることから『ナイス』と伝えようとしているに違いない。
「大丈夫。心配しないで。別に車がすごく広いわけでもないからどの席でも話しやすいと思うし、弐星が酔っちゃったらあたしが応急処置してあげるから」
「応急処置?」
「気持ち悪いところをあたしが思い切りスマッシュしてあげるから」
「車はそんなに広くないならスマッシュできないのでは?」
「その辺の加減はできるから大丈夫だよ。他に問題はある?」
「…………ないです」
「というわけでしゅっぱーつ!」
地獄の合宿の幕開けとなった。




