第12話
俺、弐星はあの後、全力で大陸を背負っている東村とキャーキャー言ってる岩破先輩を追いかけた。しかし、人の心を瞬時に読み取る野郎とラケットを持って覚醒した部長を捕まえるのは常人には不可能。つまり完全に逃げられてしまったのだ。その後、小白さんに『じゃあね』とか言って帰宅した。
改めて振り返ると、……本当に昨日は最悪だったな。そりゃあそうだ。サルと一緒に寝て、警察やら変態集団やらに追いかけられて、女子の制服を着て学校に登校したら先生に生活指導と特別指導をされて、部活仲間のお見舞いに行ったら女装させられそうになったり一番されてほしくない奴らに誤解されたりで本当に疲れた。
さてそんなこんなで朝らしい。まだ寝たいという願望があり、全然夢を見れなかったので昨日を振り返っていたが、体内時計は7時だとほざきやがっている。いつもこのくらいの時間になったら母親が叩き起こしに来るのだが、なぜか起こしに来ない。俺は睡眠欲に負けてまだ寝ることにした。そう思った時だった。
「お前ら。そろそろ山にするか海にするかちゃんと決めろよな」
知らない男の声が聞こえた。なぜ俺の部屋で山と海のどっちに行きたいか決めてるんだ?
「山しかないだろ!適当に穴を掘れば簡単に実行できるだろ。」
『穴』?
「いや海だったらおもりをつけて適当に投げてやればいいだろ」
『おもり』?『投げる』?
「この辺は山が近いから山にしようぜ!」
「穴は掘った痕跡がバレそうだし海のほうがいいんじゃないか?」
マジで何の話だ?
「もう埒が明かない。多数決だ!山がいい奴は手を挙げろ!……50人か。手を下せ!海がいい奴は手を挙げろ!……こっちも50人か。お前ら手を下ろせ。さて、どうしたものか」
「弐星に聞けば?」
「それはありだな。おい弐星起きろ」
俺はまだ寝たい。だからまだ目をつむってると、
「おい、バールを持ってこい。こいつを無理やり起こしてやる!」
「はいすみません!今起きました!」
そう言って起きたら学校の教室にいた。もっと詳しく説明するなら部室棟の今は誰も使ってなさそうな教室。そして、俺は椅子に座らされ、ごついチェーンでぐるぐる巻きにされて俺と椅子が一体化して身動きが取れない状況なのだが。周りを見渡すと、大陸、詫楼、模武、そして何度か見たことあるような連中がいた。つまり、この集団は『小白ファンクラブ』だということがわかった。……どういう状況だよ。
「弐星。山と海、どっちが好きだ?」
この集団をまとめていたリーダーみたいな奴に質問された。この質問にどういう意味が込められているのだろうか?一緒に遊びたいからどっちがいいか選んでくれとかそういうことか?
「……山かな」
もし一緒に遊ぶとかなら、俺は泳げなくて海は少し嫌いだから消極的に山を選んだ。
「そうか。山が好きなのか。じゃあ弐星が嫌いな海にしてやろう!」
「は?」
「野郎ども!椅子ごとこのクソ野郎を運べ!」
「会長。車の用意が整いました!」
「よくやった。よし、そのまま弐星をトランクに押し込んで海に行くぞ!」
「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」
俺は後ろにいた詫楼に声を掛けた。
「おい詫楼。どういう状況だ?」
「ああ、お前をどうやって殺すかみんなで話し合って、海に投げ捨ててやろうってことになったんだ」
「なんでだよ!」
「お前忘れたのか?」
そう言って俺に1枚の写真を見せてきた。その写真は……パンツ一丁の俺がちょっと服がはだけている小白さんを押し倒してるシーンを写されていた。なんでこんな写真があるんだ?あの場にいた人は………………そういえば東村ってカメラを持ってたよな。…………クソがあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
「それは誤解なんだよ!」
「「「「「どこをどう見たら誤解なんだ?」」」」」
「あれは俺が転んで偶然ああなっただけなんだ!」
「「「「「そんな偶然あってたまるかああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
そう叫びながら俺は椅子ごと変態どもに持ち上げられた。どうにかして逃げなければ死んでしまう!
「華麗に脱皮!」
「「「「「こ〇すばの見通してくる悪魔みたいなことすんな!」」」」」
俺は自慢じゃないが身体が結構細いほうで、中学のときのあだ名は『骨』とかなんとかだった。その細さを生かして服を脱ぐことでここから逃れることができた。欠点はパンツ一丁になることくらいだ。だが、最近よくパンイチになっているから問題ない。
そして俺は逃走した。
「ねえ。なんで弐星はパンツ1枚で優雅に席に座ってるわけ?」
「しかたないだろ。服は奴らに盗られて着れる服がないからさ」
「また指導になっちゃうよ。さすがに今日もそんな姿だとは思ってなかったから弐星用の制服なんて持ってきてないよ」
「いや女装しても指導になるぞ!」
「さすがにその姿はまずいよ」
「でも着れるもんはないよ」
「体育着は?」
「昨日の夜、洗濯機にぶち込んだ」
「じゃあもう、知り合いから借りれば?」
知り合い、知り合い、知り合い、……。周りを見渡したが知り合いがいな……、いた。
「なあ多い島、体育着貸してくれないか?」
「俺は大島だ!体育着貸すのはいいけど、……なんでお前裸なの?」
「かくかくしかじか」
「『かくかくしかじか』って何かわかんないし!」
「ほにゃほにゃごにゃ」
「『ほにゃほにゃごにゃ』って何だよ!」
「ちゃんと説明してんのに何でわかんないんだよ!お前さては国語苦手だろ」
「国語が苦手なのはお前だろ!『かくかくしかじか』とか『ほにゃほにゃごにゃ』で伝わるほうがおかしい!」
「俺たちって意思疎通できる仲だろ?」
「いや、まともにしゃべったの今が初めてなんだけど!」
「……そういえばさ。お前、俺を蹴り飛ばしたよな!そのときの貸しってことで体育着を貸せ」
「マジで何で裸なのか気になるのだが!……まあ、あのときは俺が悪かったから貸してもいいだけどさ」
俺は大島から体育着を受け取った。…………。
「……なあ、あの蹴りのことを思い出したらさ何かムカついてきたんだけど」
「それは本当に悪かったよ。ごめんな」
大島の体育着に視線を向けると、俺は本気で体育着を引き裂いた。
「ガチで何やってんだよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ムカついたから破った」
「ムカついたからって破くな!というかいいのかよ、それお前が着ようとしてたやつだろ」
「あ……」
「気づくの遅えよ!」
「てへぺろ」
「男の『てへぺろ』に需要はないと思うぞ」
俺は自分の席に戻って後ろの迅城に話しかけた。
「体育着借りるの失敗しました」
「私そのときの様子見てたけど、弐星ってバカなの?」
「俺と同じ立場なら誰でもああするって」
「いや、それはない」
本当にあれはただの事故だ。しゃあない。
…………そういえば迅城、いつもと『何か』が違う。何というか少し冷たいような、ちょっとムスッとしているようなそんな感じだ。
「なあ、迅城。なんかあった?」
「何もないよ。本当に何もないよ。本当の本当に何もないよ」
「絶対あるだろ!」
「…………しぃちゃんの体調が良くなってさ。学校来たんだよ」
「それはよかった」
「だからさ私、しぃちゃんが学校に来たところを見た瞬間に会いに行ったんだよ。うれしくて早く話したかったっていうのもあるんだけどさ、もう1つ会いたかった理由があったんだよ」
「もう1つ?」
「この写真は合成で作られたのかそれとも本当なのかっていうのを確かめるっていう理由だよ」
「……」
迅城が机の中から取り出した写真はあの変態集団が持っていたものと同じだった。
「それでさ、しぃちゃんは……本当だって言ってたんだよ」
…………。
「今日はいい天気だね」
「バリバリ曇ってるよ」
「そろそろホームルームが始まるんじゃないかな?」
「まだあと5分くらいあるよ」
「…………その写真、どうやって手に入れたんだ?」
「朝来た時に机にある程度の教科書を入れようとしてたときに机の中に入ってるのを見つけた」
「………………ちょっとその写真貸してくんない?」
「どうせ破って、その写真は存在しなかったことにするんでしょ」
「そそそそそそそんなことはない……よ?」
「弐星って強引にやるタイプなんだね。知らなかったよ」
「ちょっと待て!その写真は見れば見るほど誤解を生むんだ!」
「これのどこが誤解なの?しぃちゃんは『男の人にあんなことされるの初めて』って言ってたけど」
「『あんなこと』をお前は誤解している!本当は俺が『パンツを下すぞ』って脅してたことだぞ!」
「それはそれで引くんですけど」
「違うって!あれは女装されかけたから、防衛手段としてああするしかなかったんだ!……よくよく考えたら結構アホなことをしたなとは思いました。すみません」
「……でも、無理やり押し倒してその…………あんなことや……こんなことを……その……してなくてよかったよかった」
「誤解が晴れて何よりだ」
「で。どうすんの?その姿」
「放課後まで耐えるつもりだけど?」
「いや、無理でしょ」




