30.古代の記憶
「ギルス、お前最近頑張ってるみたいだな。魔王軍の幹部を倒したって聞いたぞ。何か欲しいものとかないの? 俺が用意してきてやるよ」
「え? アレンコード様、自分に褒美をくれるんですか!? そんな恐れ多い……あなたには父と母を失った自分を育てて貰った恩がある。褒美まで貰ったらずっと恩を返せないままだ」
お、おおお俺じゃん!! 黄金と銀で出来た体にエメラルドの瞳、蒼炎の髪と剣の翼、俺ってばなんてイケてるんだ。ギルスの記憶の世界を見るって時点で俺が出るだろうとは思ってたけど、まさか初手で来るとは……確かこれはギルスが大手柄を上げたから、祝うために顔を出したんだったな。
ギルスは森で狩りをしてるって聞いて、探しに行ったら森の中にある湖にいたんだ。複数の血抜き処理をされた獣の死体が見える。そうそう、ギルスは狩りが上手くて、こうしてよく獣を獲ってきては人々に分け与えていたんだ。ギルスが幼い頃は俺も一緒に狩りをしたものだが、ギルスが狩りの達人となってからはそういうこともなくなった。ギルスが一人でささっと行って、ささっと帰ってくる。
「恩だなんてそんなの大げさだ。俺は予備神だ、失われた神の役割を完全でないにしろ再現するのが俺の役目だし、俺は……魔神……ザ=マンがお前の父、エリル様を裏切って殺すことを止められなかった。ずっと後悔が続いてる……俺は、ザ=マンが怪しいと分かってた。他の神々にもずっと警告してきた、けれど……説得できなかった。俺がもっと強く言っていれば、もっと上手く伝えられたら……そう思って今までやってきた。だからギルス、俺はお前にできるだけのことを、全力でやってやりたいんだ!」
『父と母を失った自分はアレンコード様に育てられた。神々の指導者と半神の子である自分は、特殊な生い立ち故に、他の神々からは扱いづらい存在で、敵対する魔神勢力からも狙われていた。そんな自分を守り、育てることのできる神はアレンコード様をおいて他にいなかった。感謝しても感謝しきれない大恩人、結局自分は恩を返しきれなかった』
ギルスの心の声、おそらく偽りのない本心。本心からここまで感謝されてると思うと、やっぱり可愛く思えてくる。やっぱ親心的な? そういうアレが俺にも芽生えるってわけ。
「ありがとうございます。分かりました……では、自分も、己の神性を宿した神器が欲しいです。自分は半神なので、完全な神器ができるかは分かりませんけど、自分はもっとみんなの役に立ちたいんです。自分の神器があれば、人々も強くなれる」
『おー、ギルスいいヤツじゃん。でも猫っぽくないな、ただの白髪イケメンだ。それよりアレンコードだぜ! こいつ、こんなカッコよかったのかよ!!』
『あ、そっか。アレンコード教でも神器教でもアレンコード神が神器を人々に授けたってあるものね。この金ピカ銀ピカしてる神が、アレンコード様……言い伝えは本当だったんだ……』
『ドラゴンに盗まれそうな感じのピカピカ具合だにゃ。バラバラにして売ったら高く売れそうだにゃ』
なんか女子勢の俺の見た目への反応が芳しくないな……なんかいつもそうなんだよな。男はみんな俺の見た目を褒めてくれるんだけど、女で俺の見た目を褒めるのは稀、宝飾品的な扱いで褒められることはあるけど……
「そうか、お前の神器を作る……か。半神の神器は今まで作ってこなかったが、今は神々も減ってしまった。確かにそろそろ半神に頼るべきなのかも……ギルスは半神といっても人間要素は三分の一ぐらい。これならお試しに丁度いいかもな! よし分かった! ギルス、お前の神器をこのアレンコードが創ってやろう! ギルス、魔力を貰うぞ」
うんうん、神器造り、懐かしいなぁ~。人々の魔力と神の魔力を俺の中で混ぜ合わせて、魔法の粘土を作るんだよな。できた魔法の粘土を口から吐き出して、神に触れさせると、その神の力を宿した神器が出来上がる。
この時は勿論ギルスの魔力を材料として使ったけど、ギルスの魔力が俺の想定よりも多くて、ギルスの魔力を俺が取り込みすぎたんだよな。
「うおえええええ!! さぁギルス、粘土に触るんだ」
ギルスがちょっと嫌そうな顔で俺の吐き出した粘土に触る。俺の魔法の粘土を喜んで触った神は俺の記憶では一人の変態神だけだ。やはり気分の良いものではない、自分で言うのもなんだけど、俺だってちょっとアレだなって思うもん。
『ひええぇ……キモチワルぃ……神器造りってこういう感じだったの? 鍛冶でトンカンしてやるものだと思ってた……』
『マジかよ……アレンコードの腹の中どうなってんだよ……果物とか入れたらジュースになったりすんのかな?』
『ジュース? じゃあみぃはアレンコードの中にお魚を入れて魚ジュースを作るにゃ!』
……ざけるな、ふざけるなよっ!?……っく、俺だって、俺だって好きでこのやり方やってるんじゃないぞ……!? う、うぅ……あの変態野郎、どうして俺の力をもっとカッコいい感じで創らなかったんだ。
って……それはともかくとして、ギルスが魔法の粘土に触れ、神器の構築が始まった。粘土は激しく動き、光り輝いて、ついに神器として完成する。
「っ!? 光が……え? アレンコード様、これが、自分の神器なのですか!?」
「これって言い方はなんだにゃ? 生意気な野郎だにゃ」
「なんだこれ……え? 白いライオン? 猫?」
ギルスの魔力で生まれた神器、それは獣の形、白き獅子の形をしていた。そんなことは始めてで俺は困惑したのを憶えている。白き獅子、それこそが半神ギルスの神器、神器シャルルだった。
「今までも自我を持つ神器はあったが……生き物みたいになるのは始めてだ……これはもしかして、ギルスが半神、人間の要素を持つからなのか? 人が肉を持つ生物であるから、それにより生まれる神器も生体、肉体を?」
「そんな、では自分のせいで失敗したということですか?」
「いや失敗ではないんじゃないか? 力はありそうだし」
「おぃっ! みゃーのことを失敗扱いするとは喧嘩を売ってるにゃ? テメェは殺すにゃ、ガアアアオ!!」
「ぎゃあああああああああ!? なにすんだお前えええ!?」
失敗作扱いにキレたシャルルがギルスの尻に噛みつく。完全に殺る気しかない。
「ははは、そうだぞギルス。勝手に失敗作扱いしたお前が悪い。そいつと、神器シャルルと向き合い、己の力を認めさせろ。お前なら出来るだろ? 狩った獣は俺がみんなの所へ届けておくよ。頑張るんだな」
俺がギルスを見る目は穏やかで、心配なんかまるでしちゃいなかった。俺はギルスの強さを知っていたからだ。神器シャルルからは強い力を感じたが、それでも絶対に負けないだろうという確信があった。
ギルスは強い、それは神の力を持つってだけじゃない。ギルスは俺が育てた、だから知っている。誰よりも頑張り屋で、負けず嫌いで、絶対に諦めない。俺の厳しい修行についてくるどころか、まるで追い越すかのようだった。父と母を失い、決して負けぬという覚悟を決めた、その折れぬ心は、ギルス最強の武器だ。
だから例え神器シャルルがギルスと全くの互角の力を持っていたとしても、ギルスは必ず勝つ。互角であるなら、最後に勝利を掴むのは心の力、諦めない心だから。
『それからシャルルと自分の戦いは不眠不休で一週間が続いた。力は全くの互角、二人共殆ど同時に倒れた』
「はぁ、引き分けだにゃ。ギルス、なかなかやるにゃ。認めてやってもいいにゃ」
「いいや引き分けじゃない。自分の方が少しだけ倒れるのが遅かった。だから自分の勝ちだ! お前の負けだシャルル」
『おおー、ギルスいいね。その負けん気、それでこそ戦士だ。本当にお互い殺す気だったら、実際ギルスが勝っていたしな』
『えー? バスター、ギルスを庇うの? こんなのどう見たって引き分けでしょ。心の広さではギルスはシャルルに負けてるから、ギルスの負けよ』
ギルス派のバスターとシャルル派のカトリア、ちなみに俺はシャルルが勝ち派。勝負はギルスの勝ちだけど味方をしたいのはシャルルだ。
「みゃ!? お前、みゃーが歩み寄ってやったのに! 真面目そうな顔しといて、とんだ不良だにゃ。はぁ、もういいにゃ、疲れたにゃ。もうライオンモードも保てないにゃ……」
長い長い闘いが終わって、疲れ果てたシャルルは魔力を使い果たし、戦闘形態を維持できなくなる。シャルルは淡く光って、徐々に小さくなっていき──
「──え……? お前、女だったのか……」
魔力を使い果たしたシャルルの通常形態は猫耳がついた人型。白髪の猫耳美少女だった。確かに改めてこう見ると、シャクリンとシャルルは似てるかもしれない。シャルルの方がキレイ系な感じだが、目元は似ている。
「文句あるかにゃ? お前が男だから反対の女になったんだにゃ。お前が女だったらみゃーが男だったにゃ。っておい! えっちな目で見るにゃ!」
「……実はもう、限界だったんだ。悪いな」
「はぁ? ちょ──ぎにゃあああああああああ!?」
『えええええええええええええ!? ギルスお前……全然真面目じゃないじゃん!』
『最低……』
『最低だにゃ……』
『シャルルはエロかった。一週間ずっと闘い続け、性欲を持て余した自分は、我慢の限界でシャルルを襲ってしまった。よくよく考えると自分から生み出された存在、自分の半身のような存在に欲情するのはどうかと思ったが、エロいもんはエロい』
エロいもんはエロい……じゃないんだわ……ギルス……そう、ギルスは俺の前では真面目そうにしていただけで、その下半身は不真面目、不良そのものだった。ギルスはイケメンな上に強いので、人気があった。魔神や魔王との戦で荒れた時代では、顔も守る力も一流のギルスは女にとって最高の男だった。こいつがヤリチンになるのはとても簡単だったことだろう。
こういった話がある。ギルスが近くに来る時は女を隠せ、ギルスの女にされてしまうから──と。
事実ギルスは一つの街の女全てを抱いたことがある。三日程で街の性を征服した。とんでもない性欲の強さである……
「……っく、おいギルス。みゃーを抱いたからには責任を取ってもらうにゃ。お前はもう二度と他の女を抱いてはダメだにゃ」
「ええええええええッ!? そんな、そんな……」
「この約束が守れないならみゃーはお前にも人間にも力を貸してやらないけど、それでもいいのかにゃ~?」
「っく……わ、分かった。他の女はもう抱か……ん? 他の女はダメってことは、シャルル、お前ならいいってことか?」
「……まぁ、そういうことになるにゃ。しょうがないにゃあ、みゃーは大人だから妥協を知ってるんだにゃ。世の女達を守るためにはみゃーが、尊い犠牲となるしかないんだにゃ」
シャルルは顔を赤らめながらそう言ったが俺は知っている。実はシャルルも性欲モンスターだった。性欲モンスターであるギルスから生まれたのだからある意味当然と言えるのかも知れないが、シャルルは夜の英雄であるギルスを独占するために、こうした約束をギルスにさせたのだ。
シャルルは他の女性の心配などしていない。単にギルスとするのが滅茶苦茶気持ちよかったので独占したかっただけなのだ。
ま、そんな真相はともかくとして、ギルスはシャルルとの約束をきちんと守った。あの約束からギルスは一度たりともシャルル以外の女を抱いていない。強すぎる彼らの性欲は彼らの中だけで完結することになり、ギルスは他の男から嫌われることもなくなった。それからギルスは誰もが認める英雄、リーダーとしての資質を開花させていくことになる。
参拾話、読んでくださった方ありがとうございます! 神話の神様ってめちゃくちゃやってるけど、こうした作品内での神話を書く場合、どの程度のめちゃくちゃにするか迷いどころです。
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