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VS 生徒会執行部

「却下だ。そんなくだらない活動をするだけの集団を部活動とは呼べない」


 一蹴。


「くだらないなんて! この世で一番大切なのは愛よ!」

「知らん。学生の本分は勉学だろう。そんな浮ついた気持ちで学校に来られては迷惑だ」


 絢星が食ってかかるも、にべもない。

 

 初恋部創設の許可を得るため、俺たちは放課後の生徒会室を訪れたが――案の定、というかなんというか、現実はそう甘くなかった。

 初恋部という集団は、正式に活動を始める前から、親の敵のごとく生徒会役員に嫌悪されているのである。役員……というか、正確には副会長である宝華 美琴(ほうか みこと)が、創設に対し猛反対を示していたので、他の役員もその意見に乗った、というふうな具合だったが。


「あ、あはは……美琴ちゃん、厳しいなあ」

「この転入生にどんな思惑があるのか知らないが、まさかお前たちもやる気になっているわけではないだろうな? 遠野に七縞」

「うっ……!」


 宝華は形の良い眉をキッとつり上げ、絢星の後ろで突っ立っている俺たちを睨み付ける。赤いポニーテールが勝ち気に揺れていた。

 彼女は俺たちと同じ2年生ながら、生徒会副会長の座についている優秀な学生だ。とにかく責任感が強く、自分にも他人にも厳しい。ただでさえふざけた部活だというのに、超がつくほど真面目な宝華の性格を考えたら、なおさら認められないに決まっている。


「そんなこと言って、宝華さん? だったかしら。貴方は身を焦がすような大恋愛の経験があるの?」

「なッ! 馬鹿を言うな! 私はお前たちのような愚か者とは違う! 恋愛にうつつを抜かすなんてありえない!」


 絢星の挑発(?)に、真っ赤になって反論する宝華。彼女は口調こそ男勝りだが顔立ちは整っており、「女性の尻に敷かれてみたい」系男子からひそかな人気を集めていることを、俺は知っている。といっても、告白するほどの勇気を持ったヤツはいないので、宝華自身は自分の人気に気がついていないだろうが。


「大体ッ! 運命など存在しない! そんなことに夢中になって勉学を疎かにしていいものか!」

「……はい、ごもっとも」

「転入生のことは置いておいても、遠野に七縞! お前たちはこの間の定期試験の成績も振るわなかっただろう? こんなことに時間を割いていていいのか?!」


 これ以上機嫌を損ねないよう大人しくしていた俺たちだったが、宝華の猛攻は止まらない。こりゃあ、部活動の創設をお願いするどころじゃないな……。

 今日のところは適当にいなしてまた出直そう、と後ずさりをした瞬間、まさかの助け船が。


「美琴。そのように頭ごなしに否定するものではありませんよ」

「ッ、白波会長……!」


 この生徒会室で唯一、宝華美琴を窘めることができる存在。それが、この百恋学園の生徒会長、白波 稀里(しらなみ きり)だ。

ゆるく波打つ色素の薄い髪に、ラベンダーの瞳の持ち主。柔和な雰囲気ながら、どこか逆らうことが躊躇われるような、意志の強さをうかがわせている。


「初恋部、初恋部ですか。面白そうではありませんか」

「正気ですか会長?!」

「はい。私はいつでも本気ですよ」


 白波会長は細い指先で自身の唇をなぞると、くすくすと興味深そうに笑ってみせた。その言葉に宝華が驚いて振り返るも、会長の不敵な笑みに思わず気圧されてしまっている。


「遠野くん。七縞さん。それに上坂さんでしたね」

「は、はい……」

「いいですよ。初恋部の創設を認めましょう」

「会長!!」

「ありがとうございます!」


 絢星が途端に目を輝かせ、深々と頭を下げた。


「そんな……いいんですか?」

「ええ、私がいいと言ったらいいのです」


 ウチの生徒会長である白波会長は、それはそれは絶大な権力を持っていて。噂では、教員ですら彼女には意見できない場面もあるとかないとか。なので、彼女が許可したということは、つまるところ初恋部が誰にも邪魔されず、正式に活動を開始できるということ。


「あ、ありがとうございます!!」


 副会長である宝華に真っ向から否定された時点で諦めかけていたが、まさか、白波会長に救われるとは。まさに、鶴の一声というヤツだ。俺と小鳩は絢星に続いて深く頭を下げた。


「く……ッ!! 認めない! 私は絶ッ対に認めないからな!!!」


 耳をつんざくような宝華の怒号を受けてなお、白波会長は穏やかに笑っていた。


 この人、只者ではない。

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