お願い、協力して
「大体、その初恋部?っていうのは、何をする部活なんだ?」
これは少し落ち着いて話をした方が良さそうだと悟り、俺はとりあえずそう切り出した。実際は小指の先ほども興味がなかったが。
「それはもちろん! 真実の愛を探し求める部活よ!」
「ああ、聞き方を変えよう。具体的な活動内容は?」
「運命の人に出会って、真実の愛にたどり着くにはどうしたらいいか語り合うの!」
きゅっと拳を握り、熱弁する上坂。
……うん、なんていうかさ、
「友達とファミレスとかで話すんじゃダメなの、それ」
「ダメよ。私遠野くん以外に友達いないもの」
トータル一時間も喋ってないのに、もう友達認定されている。
「いや、だからって……」
「逆に、どうしてそんなに渋るわけ?」
「そりゃあ、そんなワケのわからない部活に所属してるなんて、それこそ友達にバレたくないだろ」
「大丈夫よ、私友達いないから」
「いや、アンタじゃなくて俺の話だけど……」
ことごとく会話がかみ合わない。がっくりと肩を落とす俺を見て、上坂は不服そうだった。そして、何かよからぬことを企んでいそうな……。
「……そう、わかった」
「わかってくれたならいいんだよ」
「初恋部設立に協力してくれないのなら、貴方が転入初日から校内案内をするという名目で、私にいやらしい命令をしてきたと周囲に悪評をばらまくわ」
「いや、なんで?!」
立派な脅迫だろ、それ。口の端がぴくぴくと引きつるが、上坂は至って本気のようだった。
「あまり頓着してないけど、どうやら私の容姿は皆に評判がいいみたいだし」
「嫌味かよ」
「きっとみんな味方についてくれるわね」
そんなに自信があるというのなら、回りくどいことをせずにご自慢の容姿を使って協力者を募ればいいものを。俺以外の男なら喜んで協力してくれるだろうに。
しかし、このまま放っておいては、先程の恐ろしい発言を本当に実行に移しかねない危うさがある、この女には。
「どうする?」
悪魔的な笑みを浮かべて、上坂は問う。
「……わかったよ」
「本当っ?!」
渋々、ほんっっっとうに渋々首を縦に振ると、途端に上坂はぱあっと顔を綻ばせて、ハイテンションで俺の手を取った。
「遠野くんっ! ありがとう! これで真実の愛に近づいたわ!」
「ああ、そりゃあよかったよかった」
もうこうなったらヤケである。
「しかし上坂……さん、喜んでるとこ悪いんだけど」
「え?」
「新しい部活動の設立には、少なくともメンバーが3人は必要なんだ」
これは諦めさせるための嘘でもなんでもなく、本当の規則だ。あわよくば断念してくれないかなと、淡い期待を込めていたのは間違いないが。しかしこんなところでへこたれる上坂ではなかった、残念ながら。
「それなら、遠野くんが知り合いに声をかけてみてくれない?」
「なんで俺?!」
「だって、私友達がいないから」
「それは何回も聞いたけどさ……」
だって、おかしいだろ。初恋部として活動したいのはアンタのほうなのに、どうして巻き込まれた側の俺が、部員集めに奔走しなければならないんだ。普通の部活ならまだしも、こんなトンチキな部活、誘ったところで鼻で笑われるのがオチだと思う。
「でも安心して、初恋部の活動を通して友達をたくさん作るつもりだから」
「いや、アンタの友達作りの心配はしてなくてね、部員集めの心配をしてるんだけど」
「誰でもいいのよ! とりあえず創設のときに名前さえ貸してくれれば、あとは幽霊部員だって構わないから!」
「意外と志低いね」
なんとしてでも初恋部を立ち上げたいという、上坂の必死さが伝わってくる。なんだかんだでそれに絆されてしまう俺は、お人好しというか、ただのバカというか……。
「……わかった。誰か探してみるよ」
「本当っ?! ありがとう! 遠野くんって最高!」
そんなとってつけたような評価をもらっても、嬉しくなんかないけど。
「あ、それから」
「ん?」
「私のことは、絢星って読んで。名字で呼ぶの、呼びづらそうだし」
「あー……」
参ったな。
「よろしく、絢星……」