第6話 3人目のくみあい員
翌日の午後、昨晩の約束通り高場賢治君は来店した。
その時、私はおばあちゃんに頼まれ、スーパータミットへお買い物に行っていた。
「こんにちは.. あの.. 」
「おお~! 」
「 ....」
「Hello. My name is Aoi Iroha. Welcome to Aoba Bookstore. Excuse me, what country are you from? Are you in the UK?」
「えっ? えっ?」
「Hello, are you okay?」
「ただいま~! メイトープリンの安売りしてたからさ、買って.. あ、賢治君!」
「What?」
その時、賢治君は目を白黒させていた。
「おばあちゃん、賢治君は日本人だよ」
「えーっ、そうなの! ごめんね」
・・・・・・・
・・
おばあちゃんは『午前の紅茶』と『メイトープリン』を持ってきてくれた。
「ごめんなさいね」
「いや~、おばあちゃん、英語が上手ですね。それもブリティッシュ英語だよね」
「凄い。よくわかったね。おばあちゃんは昔、この笹塚に住んでいたイギリス人の人とお友達になって英語を覚えてしまったらしいのよね」
「そうなんですね。でも、俺をイギリス人と思うのは勘がいいね。万理望さんも思ったでしょ? 俺が外国の子供だって。俺の両親はハーフの母とイギリス人の父なんだ。だから、ほら見た目もこんな感じ。でも困るのは、英語で話しかけられることなんだ。俺は英語が話せないから」
「そうなんだ..」
「ああ、間違えるのは当たり前のことだし、ナイーブな事でもないから気にしないでいいよ」
そういう賢治君は屈託のない笑顔を見せてくれた。
賢治君は英語が話せない理由を説明してくれた。なんでも父親が浮気性で賢治君が幼い頃に離婚したらしいのだ。賢治君はこの辺の事情を話しておくのが、まずは友達になる人とのルーティンになっていると言っていた。そうしないと本当は英語が話せるのではないかと思われるからだそうだ。
「でさ、万理望さん、『玉川上水魚協くみあい』って何人いるの?」
「2人だよ」
「万理望さんだけなの?」
「あっ、違う、違うの。私は『玉川上水魚協くみあい』のメンバーじゃないのよ」
そう説明すると賢治君は残念そうな顔をした。
「何言ってるの?万理望ちゃんもメンバーでしょ。だから私はこの青葉書店を拠点として貸してるんだよ」
そんな天の声がレジの方からした。
「えーっ、おばあちゃん!」
いろはおばあちゃんはニカっと笑いながらサムズアップする。
「だってさ、万理望さん。ということは3人だね。じゃ、もう一人は?」
ああ、何てことであろうか!
『玉川上水魚協くみあい』の組合員にされてしまったのだった。