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俺は俺のままで強くなりたい

作者: 水無月 宇宙

こんにちは。水無月 宇宙です。

本作品を選んでくださり、ありがとうございます。

この作品を読んでくださる人に、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


本作品は、途中、目線が変わることがあります。

読みにくいかもしれませんが、ご了承ください。

「かい~!学校行こ~!」

「ちょっと待ってー」

「あら、奏ちゃん。おはよう」

「あ、おはようございます!かいのお母さん」

「よし!奏行こ!」

一見普通の会話。

私、かいと親友の奏の、二人の女子高生が一緒に登校しようとしてるだけ。

でも、普通じゃない。

「かい、できた?」

「うん、行こ」

学校に行く前に絶対寄るところ。

それは人気のないトイレ。

セーラー服を着た私が入って、学ランを着た俺が出てくる。

そして、学校に行く。

「おはよー」

「はよ」

奏と俺が同時に教室に入ると、ヒュー!と誰かの口笛が聞こえてきた。

「今日もまた一緒に登校ですか?仲良しだな!」

「いいなー、俺も彼女ほしいー!」

「かい、ずりーぞ」

そう、俺らはクラスでカップルだと思われているらしい。

「うっせーな。違うって言ってんだろ。しつけーぞ、おめーら」

俺と奏は付き合ってない。親友だ。

「朝から人気者だね、かいくん」

「ったく…朝から疲れるぜ」

こいつは颯太。クラスの中心的人物。

明るい男子。男女問わず人気が高い。可愛い系。

「なー、数学の宿題やった?」

「もちろん。…かいくんやってないの?」

「だってさ、めんどくせーじゃん!ねー、颯太見せてよ」

颯太は頭がいい。そして優しい。

いつも渋々ながらも見せてくれる。

「もー、ちゃんと自分でやりなよ」

「まあまあ。お願い!」

「…先生にバレても、僕知らないからね!」

「ありがとー!」

ほらね?やっぱり見せてくれた。

そんなんだから俺は……颯太が好きなんだ。


俺と奏は付き合ってない。

俺が好きなのは颯太だ。

そしてそれを知っているのは、ただ一人、奏だ。

まあ、颯太は俺のこと仲良い男友達としか思ってないと思うけど。

ここで一つ、確認しておこう。

俺の性別は、女だ。けど、男子のふりをしている。

いわゆる…男装女子ってやつ?

家では女なんだけど、学校では、男。

このことを、親は知らない。

クラスの奴らも知らない。

だから、さっきの反応になるんだけど。

奏は知ってる。

毎朝一緒に登校してるのは、そういう理由だ。


「はーい、席に着けー。って、こら、かい!」

「やべっ」

「課題は一人でやれ!誰から借りた?」

クラス中、くすくすと笑いが起きる中、奏は爆笑、颯太は頬を膨らませながら睨んできた。

…まずいな。

「さあ?なんかー、天から降ってきたんです。これは写せってことかなって。ちょーどやろうとしてたとこだったんで!」

「開き直るな!」

もう、クラス中大爆笑。奏は椅子から落ちて転げまわっている。

とそのすきに颯太の課題をしまおうと手を伸ばしたが、同時に先生の手も伸びてきた。

「ちょっと見せろ」

「無理です」

「なぜだ?」

「…僕の課題、シャイなんですよ。俺以外の人間に触られると、恥ずかしがっちゃうんです」

笑い声がうるさすぎて、他のクラスの人たちも見に来ちゃった。

「お前の課題は、こっちだろう。それは誰のだ!?」

「…先生、笑いこらえてません?」

さっきから肩が震えているように見えるのだが。

「うっ、うるさい!質問に答えろ!」

図星かよ…。

「だから、最初から言ってるじゃないですか!天から降ってきたんだって!」

他クラスの人たちも大爆笑してるせいで、先生の声が聞き取りにくく、俺の声が大きくなっていく。

「天から誰の課題が降ってきたんだ?見せろ」

「天から降ってきたんだから、神様の課題でしょう、きっと」

あっ、良いこと思いついた!

もう、取られても大丈夫。と思った瞬間、先生に取り上げられた。

「こらあ!これ、颯太の課題じゃないか!」

よし。

「だから言ったじゃないですか。神様の課題だと。神谷様、略して神様です。俺、嘘ついてないですよ?」

颯太の名字が神谷で助かったー。

「なあ、そうだよな?みんなー?」

爆笑してる、クラスメイトと、他クラスの人たちへ問いかける。

「そーだ!そーだ!嘘ついてないぞー!」

やったー!俺の勝ち!

先生の方へ向き直ると、頭をたたかれた。

「ドヤ顔すんな。写してることに、変わりはねえ」

「な、殴るなんて!先生、クビになっちゃいますよ!?」

「クービ!クービ!」

わざと悲しげな声を出せば、クビコールが沸き起こる。

「課題一つでこんな大騒ぎになるなんて…前代未聞だよ、全く」

先生がため息をつきながら、文句を言う。

「俺もです」

同意すると、また頭をたたかれた。

「誰のせいだと思ってるんだ!?」

「先生のせいでしょう!?課題写してるだけでこんな怒ってるんだから」

「 “だけ”って…。もう怒る気もなくなってきた…」

「じゃあ、先生!あれやりましょう!」

「あれってなんだ?」

映画とかでよくある…。

「良い戦いだったぜ!」

「いや、やんねーよ!」

「えー、戦いあったら、握手してもっと仲良くなる、みたいなさー」

「言いたいことは分かるけど、やらねーよ」

「やろーよー!つまんないー!」


こういうバカ騒ぎがうちのクラスではよく起こる。

かいを中心として。


「先生ってめっちゃおもろいよなー」

「かいも大概だけどね」

「もぉ、かいくんのせいで、僕もちょっと怒られちゃったじゃん!」

「私、パン買ってくるね!」

「おっけー。じゃ、先屋上行っとるわー」

「ねえ、きいてる!?」

「ん?なんだっけ?」

「もぉー!」

俺、奏、颯太の三人はよく一緒に昼食を食べる。

この時間は、すっごく楽しい。

「ただいま~」

「おかえり」

「早く食べよー」

「にしても、今日の先生はほんとに面白かったな…!」

「先生が可哀想…(笑)」

「笑ってんじゃん」

「だって…先生明らかに遊ばれてたじゃん」

「それはそう」

…と、こんな風に先生をからかってる俺だけど、先生は良き理解者だ。

俺の性別のことも知ってるし、悩んだときは相談に乗ってくれる。

それに、三者懇談のとき、俺がセーラー服で行っても、いつも通り接してくれる。

親にも言わないでいてくれるし、本当に良い先生だと思う。


「かーいっ!かーえろっ!」

「んー、何かテンション高いね、どした?」

「だって金曜日だもんー」

「あー、そっか」

「かいくん、また月曜日に!」

「うん。じゃあねー、颯太」


「ねえ、かい?」

「何?」

今日は土曜日。

退屈で、つまらなくて、窮屈で、苦しい日。

土日は女子でないといけない。

学校に行きたくない日もあるけど、家にいるよりかは、遥かに楽しい。

「ちょっとスーパーまで、買い物してきてほしいんだけど」

「めんどいから、やだ」

「買うものは紙に書いてあるから。よろしく」

きいてない。

母は、紙を私の近くに置くと、キッチンに行って、昼ご飯を作り始めた。

私はため息をついて、紙を持ち、必要なものをリュックサックの中に入れ、背負った。

「ありがとねー」

なにが「ありがとう」だよ。

押し付けてきたくせに。

私は返事もせずに、家を飛び出し、自転車に飛び乗った。

…スーパーで知り合いに会ったらどうしよう。バレたらどうしよう。

それが怖くて、休日は出かけないようにしてたのに。

でも、バレないよね。

服も女子っぽいし、声も出さなければバレないでしょ。

てゆか、スーパーなんかにいないよね。

思い浮かんだ不安を打ち消す。

これ以上考えても、何にもならない。


「いらっしゃいませー」

あとは面倒くさい買い物を済ませるだけだ。


―颯太side―

今日は土曜日。

僕は急に甘いものが食べたくなって、スーパーに向かっている。

僕の家からスーパーまでは、すごく近い。

「何買おっかな~!」

僕は鼻歌を歌いながら、スーパーの自動ドアをくぐる。

「…?」

きょろきょろしている、同い年くらいの女の子がいる。

不安そうな顔で視線を下げ、周りを見ている…はっきり言うと、挙動不審だ。

「ど、どうしたんですか?」

おそるおそる声をかける。

放っておいても、いつか通報されてしまいそうだし。

「あ…」

女の子は目を見開くと、パッと頭を下げて、小走りで逃げるようにいなくなった。

どうしたのかな。


―かいside―

えーと。最初は…豆腐?

場所どこだろ。んー。

「ど、どうしたんですか?」

!?

びっくりした。

急に話しかけられたからじゃない。

いや、それもあるけど。

話しかけてきたのが、よく知った顔だったから。

颯太…!?何でここに…?

「あ…」

まだ私だって、いや、俺だって気付いてないはず。

今のうちに逃げよう。

私は頭を下げて、足早にその場を去った。

「バレて…ないよね?」


―颯太side―

さっきの子、何だったんだろう。

何か見たことあるような…?

「まあ…いっか!」

甘いもの買って、早く帰ろ!


―かいside―

さっきの颯太、見る限り、おつかいではなさそう。

…ってことは、甘いものでも買いに来たのかな。

颯太、甘いもの好きだし。

「はあ…早く帰ってくれるかな…」

お菓子コーナーに寄らないように、紙に書いてあるものをぽいぽいっとかごに入れていく。


「…これで最後か」

ふと、颯太はどうなったか、気になった。

さすがにもう帰ってるよね。

…アイス、買っていこうかな。

自分のお金も持ってるし。よし。

私はアイスコーナーまで小走りで移動した。

あ!カフェオレアイスが一つだけ残ってる。

買お~っと!

手を伸ばすと、誰かの手も伸びてきて、同時に同じ商品を手に取った。

恐る恐る、顔を見る。


―颯太side―

お菓子コーナーにいいのなかったな…。

アイスでも買っていこうかな。

ん~、抹茶ラテアイスはいつも食べてるしな~。

あ、あれ食べたことない。

カフェオレアイス?美味しそう…!

あれにしよ!

と、取ろうとした手は誰かの手と重なってしまって…。

相手の顔を見る。


―かいside―

「あ…っ」

颯太だった。

まだいたんだ。

バレる。これ以上関わるとバレちゃう。

私はパッと手を離すと、さっと逃げ出した。


―颯太side―

「あ…っ」

あ!さっきの子!

不安そうに目を泳がせている。

声をかけようとすると、その子は手を離し、走り去った。


―かいside―

「毎度ありがとうございましたー」

さっさと帰ろう。

きっとすぐ忘れられるから。

もう会わないようにしなきゃ。


―颯太side―

あ…れ?

さっきの子って…?

「か、いくん…?」

歩き方や背格好。声とかもそっくりだ。

けど…?

「何で、女の子の格好なんか…」

かいくんだよね?

でもさっきの子は女の子だったはず。

何で僕はかいくんだと思ったんだろう。

かいくんの声が、少し高めだから?

でもいつも学ラン着てるし…。

着てるだけで、男子じゃなかったら?

さっきのは女の子の格好をしてるんじゃなくて、学校が男の子の格好をしてるんだとしたら?

それだったら、さっきの行動も、合点がいく。

僕にバレないか不安で、怯えてたのかな。

だったら、学校では知らないふりをしてた方がいいよね。

ストレスとか、与えないために。


―かいside 月曜日―

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

私はいつもと変わらない。

またセーラー服を着て家を出て、学ランを着るためにトイレに行く。

「ねえ、奏…。俺…学校にも居場所なくなっちゃうのかな…」

いつも通りだけど、やっぱり不安。

気付かれてないかなって、考えちゃう。

 「気持ち悪い」 「死ね」 「女のくせに」 「消えろ」

「うっ…」

頭に響くいつかの誰かの声に吐き気がする。

「かい…!?落ち着いて…!大丈夫、誰も責めたりしないよ」

奏は俺のことを誰より知ってる。

高校は、知ってる人がいないところを選んだんだけど、奏はついてきた。

俺も、奏ならいっか、って思った。

「かい、深呼吸して。昔のことなんか、忘れちゃおう?」

昔…。奏は小学校から俺のことを知ってる。

小学生の俺は、まだ私で、それでも暴力的で、「鬼ばばあ」、「殺人鬼」なんて呼ばれてた。

私はヘラヘラ笑ってたけど、少し、辛かった。

でもすぐに慣れた。と思い込んでた。

自分が傷つかないように。

次第に感情がマヒしていって、それすら分からなくなった。

自分が今、楽しいのか。苦しいのか。

何も分からなかった。

そんな私を、奏は見ていた。

奏は笑わなかった。

私がヘラヘラしてても、笑わなかった。

何故か、分からなかった。

けど、中学で分かった。

「ううん、忘れないよ。今までがあるから、今があるんだから」

中学校で私は、笑えるようになった。

まあ、小学校でも笑わなかったわけじゃないから、笑うことが多くなった、って言った方が正しいけど。

たくさんたくさん、笑うようになった。

中学校1年生の終わりらへんで、私は俺になった。

私は、俺になったおかげで、楽になった。

自分が自分になれた。

セーラー服だったし、友達もみんな、女だと知っていたけれど。

それでも、感情が少しずつ戻ってきているようだった。

楽しい、嬉しい。

俺が心から笑うときは、奏も一緒に笑ってくれた。

それで分かった。

小学校で、奏が笑わなかったのは、俺が笑ってなかったから。

奏は誰より、俺のことを知っている。私のことも。

俺より。私より。誰より。

「ありがと、奏。だいぶ落ち着いた」

 「気持ち悪い」「死ね」「女のくせに」「消えろ」

かつて、俺が言われていた言葉たち。

小学校でも言われてたけど、あの時のことはあんまり覚えてない。

それより、私が俺になると、急に増えた。

「差別じゃん(笑)」って笑ってたけど、やっぱり少し落ち込んだ。

でも、「辛い」「苦しい」って感情はあんまり戻ってきていなかったから、ほんの少しだけね。

「…じゃあ、行こっか」

「うん」

俺は今の学校が好きだ。

でも、みんなが俺が女だと知ったら?

中学校の二の舞かな…。

「おっはよー」

奏が元気よく教室の扉を開ける。

いつもなら俺も挨拶するけど、今日の俺は少し奏に隠れ気味。

「かい、どーした?」

「あ…べ、別に?何も…ないけど?」

クラスの子はいつもと同じ。

みんなには言ってないのかな。

バレてないのかな。

「かいくん、おはよ」

「……」

どうしても疑ってしまう。

颯太は、何を考えてるの?

俺の、いや、私のこと知ってるの?

「かいくん…?どうしたの?」

気付いてないよね。

「ん、何でもない。おはよ」


―颯太side―

今日は朝からかいくんの元気がない。

やっぱりあの女の子はかいくんだったのかなぁ…。

「かいくん、おはよ」

「……」

どうしたんだろう。

返事がない。

目線を下に落として、手でズボンをぎゅっと握っている。

…本人は気付いてないみたいだけど、これは、不安な時にやる、かいくんの癖。

僕は知ってるんだ。

「かいくん…?どうしたの?」

気付いてないフリしなきゃ。

「ん、何でもない。おはよ」

僕はかいくんの友達なんだから。


―かいside―

「かいー、今日元気ないなー。どうした?」

え…バレないように気を付けてたのに。

「べ、別に…何もないっすけど」

お願い、先生。

気付いてよ。

瞳で訴える。

それだけで、先生は何となく分かったようで、頷いた。

「なら、いいんだ」

俺がほっと息を吐き出すと、先生は続けて言った。

「かい、後で生徒指導室に来い」

「え?」

「かいお前何したんだよー」

「またバトルすんのか?」

「え、ちょ、見に行こうぜ」

友達がからかうように言う。

俺が苦笑いを返すと、突然先生が教卓をバンッと叩いた。

初めて見る、そんな姿に、俺を含むクラス全員がびくっとする。

「いい加減にしろ。いつものようなふざけた話じゃないから、生徒指導室を使うってことが分からんのか?大事な話なんだ。覗きに来るとか、ふざけたことを言うな」

聞いたこともない、低い声。

先生は怒るとすごく怖い。

そんな噂はきいたことあるけど、実際に怒ってるのを見るのは初めてだ。

そんなに大事な話なのか?

俺、何かやらかしたっけ?


何もやってないはずなんやけどなー。

さっきからずっと考えてるけど、何も思い浮かばんのだけど。

えー、めっちゃ不安。

「榊原かいです。失礼しまーす…」

「お、かい。来たか。まあ、とりあえずそこ座れ」

あれ…あんまり怒ってなさそう…?

「で…?話って何ですか…?」

先生はドアの隙間から廊下に誰もいないのを確認して、声を落とした。

「今日、元気無かっただろ。何かあったかな?って」

え…まだ気にしてくれてたんだ。

「性別のこととかだったら、みんなの前だと言いにくいかな、って思ってさ」

ほんとに良い先生だよな。

こんなに良い先生見たことないよ…。

先生には全部話しておこうかな。

「先生、あのね。俺、いや、私、颯太にバレちゃったかもしれない」

「え?何で?」

「スーパーで颯太と私、会ってさ。めっちゃ変な動きしちゃったから。バレた気がするんだよね」

「けど、颯太が直接言ってきたわけじゃないんだろ?バレてない可能性だってあるわけだし」

まあ、確かにそうなんだけどさ?

けど、やっぱり不安になるわけ。

「それにお前、颯太の友達だろ?友達だったら分かるだろ?颯太は気付いたとしても、他人に言って悪口を言うような奴じゃないってこと」

まぁ、知ってるけど…でも…中学の時だって、そう思ってたけど。

「でも…人間だし、分かんないよ…。信じたところで、また裏切られるかもしれないじゃん…」

「かい!」

わっ!?びっくりした!

「奏…!?どうしたの?」

「奏…」

「…今日の、かいの態度について、話してますか?」

「…まあ」

「じゃあ、僕もここにいたいです。聞きます」

強引に入り込み、奏は勝手に椅子に座った。

「え、あ…かい、いいのか?」

戸惑い気味に俺に尋ねた。

「…はい。いいです」

「そうか…」

先生はふう、と息を吐き出し、話を続けた。

「だけどな、かい。そうやっていつまでも信じれなかったら、それこそ、学校生活楽しくないだろ?」

「…そーだけど…」

でも怖いもんは怖い。

「じゃあさ、かいお得意の"直接聞く"やればいいじゃん」

「やれたらやってるよ…」

奏に言われて毎回思う。

俺は肝心なところで意気地なしだ。

「“言いたいことは言うのが当たり前。言えないなら、うだうだ考えるな。考えるだけ、時間の無駄だよ”」

「奏…っ!」

先生は奏が俺を責めてると思ったみたい。

慌てて止めようとする。

…それがもし、奏の言葉だったら、どれだけ良かっただろう。

俺は、怒ることも、悲しむこともできる。

けど。

「かい。これ誰の言葉だっけ?」

…そうだ。これは、この言葉を放ったのは…。

「かいだよね」

「…うん…」

この言葉は、俺が放った言葉。

紛れもない、俺の本心。

でも、今はそれができない。

それがひどく、心に刺さった。

「…奏…ごめん、ありがとう」

考えるのをやめるか、直接聞くか。

そんなの、決まりきっている。

奏も、それが分かったみたいで、にかっと笑った。

「頑張れ!」

「うんっ」


「………」

「あ、かいー!何の話だった?」

教室に戻ると、いつものざわついた空気。

俺は友達の言葉を無視して、笑って話している颯太に声をかけた。

「颯太、今、ちょっといい?」

「ん?いいよ?」

「ちょっとこっち来て」

颯太を空き教室に連れていく。

深呼吸。

あー、でも、どうやって切り出そう。

「そういえば、土曜日…」

ぎくっ!

「かいくん、何してた?」

え?

「…家に、いたかな、」

何言ってんの、俺。

聞かないと。

せっかく奏が…勇気、くれたのに。

「…そっか。…あの、スーパーとか、行った…?」

あ……。

バレてるんだ。

そうか、そうだよね。

あぁ…。

膝がガクガク震える。

「…見たんだよね…」

「…やっぱり、あの女の子…かいくんだったんだ…」

…もう、ここにはいられないかな…。

そう思って俯いた俺に、颯太が焦ったように声をかける。

「で、でもっ!他の子には言ってないし、言うつもりもないし、大丈夫だよ!」

「…なんで…?」

「え?言ってほしくないでしょ?」

「まぁ、そりゃあ…」

言ってほしくは無いよ、でも…。

「でも…おかしいじゃん?俺、女なのに男の格好なんかしてさ」

「え?そうかな?びっくりはしたけど…」

…颯太の方が、おかしいよ。

ありのままの俺を受け入れてくれる人なんて、そうそういないし。

奏と先生だけだったし。

「あの、あんまり聞かない方が良いのかもしれないけど…」

「いいよ。もう全部、答える」

「…えっと、女の子、なんだよね」

「…うん…そうだよ」

「…どっちでいる方が、楽しい?」

「え?」

「男子のかいくんか、女子のかいくん」

「そりゃ、男子でいた方が、楽だし、楽しい」

だから男子になってたんだし。

「この学校に来るまでは、女の子だったの?」

俺は頷く。

いや、私…ううん、かいだ。

颯太や奏、先生の前では性別なんか、関係ない。

「奏ちゃんと先生は、このこと、知ってるんだよね?」

「あぁ」

「両親には?」

「言ってない」

「え…」

俺が俺になることを、一番嫌がって、俺を否定してきたのは親だ。

「親は、俺が普通の女子だと思ってる。で、女なんだから、おしとやかにしろとか、女だから口悪くするなとか、そういうことばっか言ってきて…。もう、嫌なんだよ」

元はと言えば、親が原因で、俺になったんだ。

「…かいくん。辛かったね…」

「え…?」

何で颯太が泣いて…。

「頑張ったね…今までよく、頑張ったね…」

気持ち悪いって言ってこないの?

性同一性障害なの?って聞いてこないの?

怖くないの?

どうしてこんなに…あったかいの?

「大丈夫だよ…。僕は、かいくんの友達だから。味方だから」

味方…。

今にも折れそうだった、俺を支えてくれたのは、奏と先生だった。

それでも不安定で、倒れそうになった俺を、掴んで、引き戻してくれたのは、颯太だった。

三人でもまだ不安定かもしれない。

それくらい、俺は弱いのかもしれない。

けど、強くなりたいと、強く思う。

前を向きたいと思う。

そう思えるようになったのは、三人のおかげだ。

「…颯太、あのね」

「ん?」

前を向かなくちゃ。

正直にならなくちゃ。

そのためには、まず言わないと。

「…俺、颯太のこと…好きなんだ」

「え…っ!?」

やっぱり全く気付いてなかったんだね…。

まぁ、颯太らしいや。

「え…え、でも…え…?」

「テンパりすぎ」

思わず笑っちゃう。

「だ、だって…っ」

「ははっ、いいよ。返事はいらない。颯太は俺のこと男だと思ってたと思うし、友達としてしか見てないと思うから」

「…ごめんね」

「返事はいいって、言ったのに…」

「うん…でも、嬉しいよ。ありがとう」

微笑む颯太を見て、やっぱり好きだなぁって思う。

「ねえ、颯太」

「なあに?」

「これからも、友達でいてくれる?」

颯太の透き通った、茶色がかった綺麗な瞳をじっと見つめる。

「うん!もちろん。よろしくね、かいくんっ」

もうちょっと、人を信じてみようかな。

最後まで、お付き合いいただき、本当にありがとうございました。

楽しんでいただけたでしょうか。

もし良ければ、コメント、ブクマ、評価など、していただけると嬉しいです!

誤字等は、見つけ次第教えてくださると幸いです。


本作品で、僕が伝えたいことは、男女差別についてです。

差別は、人の考えの問題なので、0にするのは難しいと思います。

しかし、少し、言動に気を付けるだけで、辛さは減るのではないでしょうか。

普段、何も気にしてなさそうな人でも、もしかしたら傷ついているかもしれません。

そんなことを、少しでも気にしてほしいのです。

本作の主人公、「かい」は、自分がモデルになっています。

いつでもヘラヘラと笑って、何も悩みがなさそうな人間。

でも、本当は、傷ついている時だって、あるんです。

傷ついていないふりをしているだけなんです。

差別は、している側は意外と無意識なものです。

されている側が、ただ、どんどん疲弊していくだけ。

気付いてほしいんです。

知ってほしいんです。

この作品で、男女差別について考える人が少しでも増えてくれたら、僕は嬉しいです。


それではまた、他の作品で会えることを楽しみにしています。

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