その日ビショップとルークは砂糖を吐いた
魔法士の魔法は非常に独創的になっていく、というのを、イリスは初めて見た。
見た、というのとも違うのだが、学園で見られる魔法とは違うのだ。
人の五感を脳で考えているだけではないのだ、とジブリナは言う。
基礎魔法実技でさえ授業の一環、それも赤点スレスレで合格してきたイリスでは想像できなかった。
なので、イリスは経験してみたのだ、ジブリナのいう魔法を。
そして今、足をツンツン突かれている。
「うぎぁああぁ止めろォ!阿呆ォォォ!」
「痺れてる?」
「見れば分かるだろ?!」
「そうか〜、やっぱりよく分からんなぁ、人間の構造って」
「魔法をッ止めろ!ッぐ、ッていうか突くなっあッ!」
「何か色っぽい……悔しい……ビショップもそんな感じだし………」
ジブリナは渋々突くのを止めた。
それと同時にジブリナの家の庭先を漂っていた焼き菓子のような甘い匂いが消える。
イリスは、深く息を吐き出し、何ともなくなった足を恐る恐る動かす。
「痺れてない………これって何の魔法になるの?」
「んー?んんー…?何の…何の、ねぇ………人間の走性とか反射とかを魔法に組み込んで対人に反応するようにしてる」
「は?」
「んうぅぅん……つまり幻魔術って事だね!」
「説明面倒くさくなったでしょ?」
「ドグラ・マグラよ」
「小説の?」
「そう!」
「チャカポコチャカポコ」
イリスが小説の一部を言うと、ジブリナが吹き出し、イリスもまた一緒に笑う。
「うふふふふ……まぁ、チャカポコは置いといて。この世界、魔術って言葉を使わないみたいだから、幻魔法って呼んでる」
「ジブリナの論文って王国古代史関係ばっかりだから、魔法論文がなくて分からなかった。グリゴア先生とかワラー先生とかも幻魔法って呼ぶの?」
「グリゴア先生は雷魔法亜種って下に見てくる」
「大人気ない」
「ワラーは外道魔法って言ってくる」
「気持ちは分かる」
何よう、と拗ねるジブリナに、イリスは目を細めて見やる。
「足が痺れてるって分かってるのに突くやつなんか外道だろ」
ジブリナはふいっと顔を逸らし、つば広帽子を目深に被り直した。
すると、イリスがつば広帽子を頭の後ろにずらしてジブリナの顔が露わになる。
またジブリナが被り直す。
イリスが後ろにずらす。
それをもう2回繰り返し、2人は顔を見合わせてケラケラと笑い合った。
と、その2人をジッ……と見ている人影が2つ。
「庭先で何をやってるんだ、あいつらは」
「仲良しだねぇ」