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僕がメイと初めて会ったのは中学一年の春、どぶくさい高架トンネルの中でだった。メイは転校してきたばかりで、待ち合わせ場所といったらそこしかわからないと言った。他にもいくらだって、例えばコンビニだとか公園だとか、待ち合わせをする場所なんてあるのに、メイはその場所を選んだ。その前日、僕はメイに電話をかけた。その時初めてメイの声を聞いた。不登校の生徒にしてはハツラツとしていて堂々とした声だった。メイは転校してきたくせに一度も学校に来ない不登校児だった。僕は担任からメイに大切なプリントを渡すように頼まれていた。入学してすぐだったし僕は担任に嫌だと逆らうこともできずそのプリントを受け取った。僕の家からが一番近いらしい。紙ぐらい郵送で遅れよと思ったが、後々知ることになるがメイは学校から届いた紙類は全て燃やすか破るかして捨てていた。
それで僕はとにかく自分が住むマンションの下の階の605号室に住むというメイの部屋まで行ってインターフォンを押してもうんともすんとも言わないから郵便受けにプリントを入れようと思ったのだけれど、郵便受けはガムテープで塞がれていて、どうしようもなくなった。そこまでする必要は無かったのに何でそんな行動をとったのか今では不思議ではあるが僕は管理人室に行って管理人に605号室の電話番号を聞いた。管理人は殆どまだ小学生みたいな背丈の僕を怪しめなかったのかすんなりと電話番号を教えてくれて、自分の部屋にいったん戻って電話をかけた。それでメイと話し、メイはその場所を選んだ。
メイは金髪だった。細い足を黒くて細身のジーンズで覆い、よれよれのバンドTシャツを着て肩が見えていた。足元のブーツにはトゲトゲが付いていた。
「あれえ、いなかったんだ」メイが言った。何が?と僕は聞く間もなくメイはまた話し始めた。
「ここにホームレスが住んでるの、知らない?友達なの、ヤスさん」
ホームレスが最近ここに住み着いたことは知っていたし、学校から通らないように注意も受けていた。落書きだらけの壁沿いには段ボールとブルーシートで作られた小屋もあって異様な雰囲気で、女子は怖がって通らないけど気にしない人は気にせず通っている。
「知ってる。友達なんだ。怖くないの?」
「ヤスさんはオネエだからわたしみたいな小娘には興味ないの」
君みたいな男の子のほうが危ないかもね。メイはそう言って僕に白い歯を見せて笑った。
メイはブルーシートを捲って段ボールハウスの中を窺ったがやはり誰もいなかったのか、物足りなさそうな顔でこっちを見た。
「ヤスさん探すの手伝ってくれない?」
「なんで?待ってれば戻ってくるよ」
「ヤスさんは方向音痴なの。せっかくいい家を作ってあげたのに、帰れなくなっちゃう」
「これ、桂木さんが作ったの?」僕はこの時まだメイを苗字で呼んでいた。
「そうだよ、上手でしょ」
「学校で問題になってるよ。ホームレスが住み着いたって」
「ヤスさんに家がない方が問題でしょ」
僕はこれ以上話していて何か得をする気がしなかったから何か言うのをやめた。それでメイが僕を言い負かしたぞみたいな勝ち誇った顔をしてもいいやと思っていたがメイはそんなことには興味がなさそうでとにかくヤスさんというホームレスが心配なようだった。
「ヤスさんはお酒の飲みすぎで記憶力がちょっとよくないの。だからわたしが見ててあげなきゃダメなんだ。この辺のことよくわからないし、君も着いてきてよ」
僕はメイと一緒にヤスさんを探すことにした。メイが今にも泣きそうな顔をしていたからだ。