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僕のことを知りたいって顔をしているね。だったら教えてあげるよ。見た所君はこの時代の人間じゃないようだね。中身がスティーブだなんて、時代遅れもいいとこだよ。
ショウはその物体に多くの疑問を感じていたが、敢えて口にはしなかった。ただ愛想よく頷いてみせた。
僕はさ、簡単に君の感情が見えているんだ。愛想笑いは嫌いだよ。思ったことを口にしないと、後で後悔するんだよ。
確かにそうだね。僕の今の感情は一つだよ。随分とお喋りな奴だなって思っているだけだよ。ショウは嬉しそうにそう言った。
僕はね、スティーブの代わりとして働いているんだ。正確にはちょっと違うんだけど、そう言えば君には伝わるよね。この身体は、この星にはない成分で作られているから、君には説明をしても意味がないから辞めておくよ。ここは君がいた世界から数千先の未来だね。と言ってもさ、僕のこの中身は、気がいた世界で生まれているんだよ。しかも、君の時代から数十年後だよ。僕の歴史はそれ程に古いんだよ。まぁ、そんなことはどうでもよかったよね。この時代の人間はね、多くが宇宙に旅立っているんだ。この星にもまだ生存者はいるんだよ。この街にはいないんだけど、この国にも少しはいるんだ。東京にはそんな街が存在しているからね。君はさ、この街の現状を見てショックを受けているよね。それは当然だって僕は思うよ。だって、この景色は破滅の後だからね。けれど勘違いはしない方がいいよ。これはね、敵対する宇宙連合軍による仕業なんだよ。地球はね、この時代のニ千年程前に戦争を辞めたんだ。世界が平和になっていたんだよ。まぁ、詳しく話すと問題点はあったんだけど、人間同士が生きていればそれは避けて通れないからね。争いを一切せずに一生を終える人間なんていないよ。地球はね、宇宙の政府軍に加盟をしたんだ。地球上の戦争は終わったというのに、今度は宇宙戦争を始めたんだ。と言っても、巻き込まれただけなんだけどね。これが現状だよ。もっと詳しく知りたいなら、僕と一緒に宇宙に旅立とうよ。君はなんだが、とても魅力的だからさ。
得体の知れないその物体の言葉に、ショウは興味を惹かれた。宇宙を旅するなんて、魅力以外にはなにもなかった。けれどショウは、すぐに現実に帰らざるを得なくなってしまったんだ。
僕も君を連れて行きたかったんだけど、やっぱり無理だね。色々調べて見たけど、君は元の世界に戻らないといけないんだ。と言うか、後数分で自然と引き戻されてしまうんだ。君はその現実に納得がいかないようだから、カラクリを少しだけ説明するよ。君がタイムスリップする秘密はスニーク乗り場の地下にあるんだ。鍵を開けたり閉じたりする組み合わせで未来や過去に行けるんだよ。君は今、自分の意思とは関係なくここに来ているんだね。鍵の操作もしていない。部屋の鍵が開いていたのは、別の誰かが閉め忘れただけなんだ。その誰かさんは、鍵のかけ忘れに気がついて、慌てて扉の前に向かい、今まさに鍵をかけようとしている。鍵をかけた瞬間、君はそこへ引き戻される。当然、その部屋の外にだよ。ほら・・・・
その言葉が途切れた瞬間、ショウの体が捻れたように見えた。そして次の瞬間には休憩所のドアの前に立っていた。しかも、鍵を閉めたばかりの聞き屋の背後に。
背後に突然の気配を感じた聞き屋は、躊躇なく勢いをつけて振り返る。
うわぁ! ・・・・どうしお前がそこに? 聞き屋がそう言った。
・・・・その説明は難しいな。ショウは首を捻り遠くを見つめてそう言った。まぁ、そんなことどうだっていいよ。僕はただミッキーに会いに来ただけだからさ。ショウはそう言い、聞き屋の前を歩いて地上へと出て行き、箱型の建物の裏のいつもの壁に寄りかかる。
俺になにか用があったのか? 聞き屋は珍しく椅子には座らずにショウと肩を並べて壁に寄りかかった。
あったはずなんだけど、忘れちゃったよ。なんだかさ、ミッキーの顔って、落ち着くよね。ショウはそう言って笑った。
なんだよ、それ。そう言って聞き屋も笑う。二人は顔を見合わせ、しばらくの間意味もなく笑い続けていた。




