終章 1
終章
上手くいかなくなると、ショウは聞き屋を頼る。演劇と音楽の融合に失敗をしたと感じていたショウは、一人で聞き屋の元に向かった。
カオリはショウとは違い、それほどには落ち込んでいなかった。評価されないことは悔しかったが、元々周りから期待なんてされていなかったぶん、失った自信も少なかった。とはいっても、落ち込んでいるショウを慰めることはできず、普段通りの生活に戻り、ショウを影で支えようとしていたんだ。余計な口出しをしない愛もある。平穏を装うために距離を置く愛もあるってことだ。
横浜の街を歩くと、気が紛れる。特に双子の置物を撫でる瞬間は心が落ち着く。そういえば・・・・ こうやって神様に触れるのは久し振りだな。ショウはそう感じた。横浜の街を歩くと必ず双子の置物を撫でるショウだったが、転送装置が建物内にできてからは、外を歩く機会が一気に減ってしまい、すぐ側にある双子の置物に顔を見せることもなくなっていた。
聞き屋のいるはずの場所に向かったが、その日のその時間、聞き屋の姿は見えなかった。しばらくの間、普段は聞き屋が座っている椅子に座って待っていたが、一向に聞き屋は現れない。その間にショウは、聞き屋として二人の話を聞いていた。不思議だが、その椅子に座るショウを、誰もが本物の聞き屋だと、少しの疑いも持っていなかった。
なかなか現れない聞き屋に、ショウは腰を上げた。向かった先は、地下を走る連結型スニーク乗り場の更に下の休憩所だった。そこには聞き屋がいると、ショウはなんの疑いも抱いていなかった。
扉の前まで辿り着き、鍵を持っていないことに気がついた。しかしショウは、その取っ手を掴み、回した。するとドアが開く。やっぱりここにいたんだなと、いると決めつけていた聞き屋に向かって声をかけた。
しかし、返事はない。部屋を覗いても、聞き屋の姿は見えなかった。ショウはその場でしばらくソファーに腰をかけて聞き屋を待っていた。ソファーの下にあるはずの本を探したが、そこにはなかった。聞き屋が持っていったんだろうと、勝手に納得をする。
その部屋は、思いの外退屈だった。本もなく、スティーブの機能も使えない。スティーブが全く思考を停止するのは、この場所だけだ。誤魔化すことは、完全なる停止とは違う。とはいっても、なぜこの場所だけはスティーブの思考が停止するのかは分からない。きっとそれが、過去へのタイムスリップと関係があるんじゃないかと、ショウは勝手に想像する。
どれだけの時間が流れたのかは分からないが、さすがに待ちきれなくなったショウは、諦めて家に帰ろうと決めた。ドアを開け、地上へと戻った。
なんだ、ここは・・・・
地上に広がる景色に、ショウは驚いた。そして、そういえばと思い出す。ほんの少し前のことだが、地下スニーク乗り場でも、地上への道程でも、ショウは誰一人ともすれ違わなかった。そんなこと、冷静に考えればあり得ない。こういうことなのか・・・・ あり得ない現実を素早く認めるのは、ショウの才能が故だ。
ショウが見た景色は、表現には難しい。いくつかの建物はあるが、その全てが見たことのない建物だった。人の姿は全くない。文明が果てた世界。ショウはそう感じる。過去なのか未来なのかは分からないが、ショウが生きていた現実とは違う世界であることは確かなように感じられた。
頭が混乱していたショウだったが、ジッとしていてもなにも始まらないと、その足を動かした。取り敢えずは人影を探そうとした。しかし、その街には人影どころか生き物存在すら感じられなかった。方向だけを頼りに双子の置物を探したが、それさえ見当たらなかった。
困ったショウは、聞き屋に頼るわけにもいかなかったが、その場所には足を向ける。当然というかどうか、そこにはいなかった。箱型の建物だけは残されていたが、聞き屋がそこに腰を下ろす椅子はなかった。
ショウの行動力は抜群にある。建物の中に足を踏み入れるのに、躊躇なんてなかった。そこに行けば必ず誰かに会えると信じていた。
しかし、そこには誰もいなかった。別の建物もいくつか覗いたが、人影は見えなかった。そんな中、ショウは動く影を確認した。その影は、ゆっくりとだがショウに近づいてくる。
ここでなにをしている? この街は危険だ。すぐに避難を致しましょう。
そんな声を発したのは、まん丸のボールだった。空中をふらふら飛びながらやって来た。
お前は誰だ? ショウは案外と平然にそう言った。
僕のこの外見のこと? それとも中身? 外見はボール。中身はコンタクタだよ。
その言葉には、ショウも俺もクエスチョンマークしか浮かばなかった。




