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エイガの話を聞き、ショウは横浜に残されている一つの文化を思い出した。活動写真と呼ばれている、巻物状の絵物語だ。日本でも、横浜の街では今でも愛されているんだ。日本には書道の文化があるからな。墨汁を使って紙に書いていくんだよ。細長い紙に絵を描いていく。右から左に物語が進むように絵の中の景色や人物などを動かして描くんだ。順を追って絵を見ると、物語を感じられる。片付けるときは、紙を左から丸めて巻いていく。
ニックはエイガに夢中になった。ショウを主役のエイガを作ると宣言していた。ショウはそれを受けたが、現実にはならなかった。ニックがショウのために生み出した物語は、後にジョージが代わりになり完成させている。それはこの世界で初めてのエイガとして、大ヒットをした。
エイガの存在を知り、ショウの興味は別の方向に向かっていった。エイガの中で物語を演じる側に興味を抱いたんだ。
ニューヨークって街には、演劇が文化として根付いていた。舞台に立って、物語を演じる。それだけのことだが、面白いんだ。エイガとも似ていなくはないが、全てをその舞台上だけで表現するんだ。エイガと同じで二時間程度が標準だが、中には五時間も続く演劇もある。
ショウは妻である俺の母親に、映画についての話をした。すると彼女は、それなら今夜演劇を見に行こうと誘ったんだ。彼女はニューヨークの街で遊び周っていたから、当然演劇にも手を伸ばしていたんだ。ショウはそのことを知らなかったようだが、特にはなにも言わなかった。彼女が自由に遊ぶことを、ショウは喜んでいたんだ。しかも、そこで知った楽しみを彼女から学べるなんて、最高だと感じていた。
演劇の存在はショウも当然知っていた。演劇はなにもニューヨークだけのものじゃなかったからだ。あちこちの国に、それぞれの演劇が存在している。残念なことにその存在を知りながらも見にいく機会がなっただけだ。忙しかったことに加え、興味を持つきっかけがなかった。
今日の作品はね、私も初めてなんだけど、とても評判がいいだよ。今年一番の舞台だって言われているんだから。
演劇は、劇場と呼ばれる専用の建物で行われることが多い。ライブハウスを使用したり、街の講堂や学校なんかでも行われているという。俺の母親は、劇場へと向かう途中、楽しそうにショウと話をしていた。ほぼ一方的にではあったが。
ショウはきっと、演劇にも向いていると思うわよ。だって、ショウは顔もいいし、ノーウェアマンの興行って、ちょっと演劇っぽいところあるじゃない。
彼女の言葉に、ショウは微笑む。カオリが言うなら、そうかもね。
こうやって二人でデートするの、久し振りだよね。ショウは最近部屋にこもってばかりだったから心配してたんだよ。
彼女はそう言いながらショウの腕に絡みつく。久し振りのデートといっても、二人は毎日何度かは一緒に出かけていた。部屋にこもっていたのは夜の時間だけだし、実際には彼女が知らない時間に一人で出かけてもいた。彼女の言うデートは、夜の遊び限定のようだ。
カオリは演劇が好きなんだね。なんか嬉しいよ。
えぇー、なにそれ? どういう意味? よく分かんないけど、私も嬉しいよ。いつかこうして一緒に観たいなって思ってたんだからね。
劇場の前には人集りができていた。ショウに気がついて集まったわけではなく、演劇を見るために集まっていた。まだ開演前だったが、多くの人が演劇を楽しんでいることが感じられた。彼女はその人集りを避け、入り口へと歩いていく。劇場の人間が彼女に近づいてくる。
今日は主人も一緒なんだけど、構わないわよね? 彼女のそんな言葉に、劇場の人間は顔を上げてショウに向けた。
まさか・・・・ あのノーウェアマンのショウが・・・・ 力なく呟き、絶句する。
あら、私は初めからそう言ってたわよ。
彼女の言葉に劇場の人間は、口をアワアワ動かし、いや・・・・ しかし・・・・ なんて言葉を発するのがやっとだった。
信じてなかったのね。けれどそんなこと気にしていないわよ。今日は二人なんだけど、ダメなの? 個室なんだから問題ないでしょ? 椅子だってあるんだし。
もちろんですよ。あの・・・・ その前に一つ、握手をしてもらえませんか?
劇場の人間はそう言うと、ショウに向かって手を伸ばした。ショウは快く彼の手を握りしめた。そして中へと案内される。ショウの存在に気がついた人集りの数人がほんの少し騒いだが、大きな騒ぎにはならずに収束した。
彼女は劇場の観覧席を年間で買い占めていた。お金さえ払えば誰でも可能だが、場所によっての差はあるが、二階の個室の料金は高く、なかなか一般的には手を出しにくい。彼女は当然、ショウのお金を使って購入している。夫婦間ではお金の管理が共通化される。自由に使えるってわけだ。




