6
ライブ終了後に一人の女性がショウを訪ねてきた。
私のこと、ずっと見てたでしょ?
楽屋で寛いでいたショウの前に仁王立ちし、上から睨みつける。
誰だっけ? ショウは笑いながらそう言った。
見覚えなんてない。きっと観客の一人だろう。そう思ったようだ。
あんなに私のことだけ見ていたのに? 信じられない最低男ね。ライブ中私だけを見てたのを忘れたの? 本物の馬鹿なの?
その言葉を聞いてショウは大笑いをする。周りにいたみんなもまた、同じように大きく笑った。
その女性が誰なのかは、俺には一目で理解できた。派手好きなのは知っていたが、ここまでの馬鹿だとは知らなかったよ。悲しい現実だが、その女性は、俺の愛する母親だった。当然、俺の母親になる以前の話だけどな。
俺の母親は、楽屋に入るときも、騒々しかった。知り合いがいるのよ。私に会いたがっているんだから。そんな言葉を喚き、ズカズカ入り込んだんだが、彼女が入り口で本気で立ち入りを拒否されなかったのにはちゃんと理由がある。ショウが興行中にずっと見つめていたっていうのは嘘だが、可愛いと感じていたのは確かだ。ショウの記憶には、そんな彼女の姿がきちんと映し出されていたからな。強引な彼女の態度に、スタッフの誰かがショウに顔を向けた。ショウは連れてきてもいいぞと手招きをしていたんだ。
可愛い子だね。こっちの子かな?
ショウの言葉に、彼女は膨れる。
今度はガキ扱いして遊ぶつもり? こう見えてもさ、十八なのよ! 当然学校だって卒業しているしね。
なんだ、そうなのか? 見た目通りじゃないか?
ショウの言葉を聞き、彼女はさらに膨れていったよ。頬まで膨らんだその顔は、自分の母親ながら可愛く感じられた。
島生まれでしょ? その顔は。こんなに可愛い子は、都会じゃ見かけないからね。
なんで分かるのよ・・・・ それ言われるの、一番嫌いなんだけれど?
そうか? 僕は君のこと、好きだけどね。
ショウは彼女を引き寄せ、隣に座らせた。
今日はこれから予定があるんだ。明日島まで迎えにいくよ。
ショウは彼女のことに気がついていた。島での酒盛りの場に、彼女もいた。ショウはそのときも、彼女をしっかり見とめていた。
嫌だよ。予定があるなら付き合うよ。私ね、これってチャンスだと思っているんだから。もう島には帰りたくないのよ。
それは困るな。僕はあの島が好きだからね。
私だって困るわよ。今日は帰らないって言ってあるし、おじいちゃんはあなたと一緒なら安心だって言ってたのよ。サンシンもあげたし、一晩の面倒くらいは見てくれるだろうってさ。
彼女の言葉に、ショウは驚きより前に呆れてしまった。
あのじいさん・・・・ まぁいいか。これから横浜に戻るんだけど、それでも構わないか?
嬉しい! 横浜って、三番目に行きたかった街だよ。ちなみに二番が東京で、一番がニューヨークなんだ。
あぁそうかい。なんて気のない呟きを零していたが、その言葉はしっかりショウの心に住み着いていた。だからこそのニューヨークで、東京なんだよ。




