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最低でもビートルズ  作者: 林広正
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5

 さすがは有名人じゃな。初めてなのに、わしより上手に弾きよる。よかったらそいつをあんたに譲っちゃるよ。

 本当に! ありがとうございます! 大事にしますよ。明日の興行で、早速使おうか? 興奮のままにショウが言った。

 はっはっ、そいつは嬉しいこっちゃな。あんたならわかっちょると思いが、ここで手に入れたってことは内緒じゃよ。

 そう言うと、じいさんは派手に笑い声をあげた。

 ショウはその楽器を、サンシンと呼んでいる。三本の線だから、サンセンだね。そう言ったんだが、じいさんはこう答えた。そうなんじゃよ、サンシンなんじゃよ。多分だけど、じいさん自身はサンセンと言ったつもりなだろうね。

 チャコとジョージもまた、別の楽器を手に入れていた。ジョージは床に置いて座って弾く十本以上もの弦が張られた楽器で、チャコのはちょっと変わったリズムを鳴らす打楽器だった。それに加えて三人は、指笛を教わった。

 洞窟の中の会館で、酒盛りが始まった。沖縄のお酒はアルーコル度数が強い。沖縄の人は、お酒に強い。島の人間も、文化的には沖縄本島と変わりがない。

 お酒を飲み、食事をし、音楽を楽しむ。洞窟の中の会館は、そんな楽しみで一杯の場所だった。

 朝まで続いた酒盛りを楽しみ、昼前には沖縄本島の会場に戻り、直前の簡単なリハーサルを行った。その間に発売された作品は、これが最後かも知れないとの煽りもあり、大ヒットしていた。

 飛行型スニークでの睡眠のおかげで、ショウ達三人は、とても目が冴えていた。リハーサルの中で、前日に頂いたばかりの楽器を使用し、曲のアイディアを固めていた。

 会場の周りには、開演前から多くの観客が集まっていた。聞いたことのない音色が会場から漏れ聞こえてくる。またなにか新しいことをするのかと、観客の興奮が高まっていく。

 集まった観客の中には、チケットを持っていない者も多くいた。野外の特設舞台なら、音漏れだけでも楽しめると考えたのだろう。その判断は正しかった。ショウ達三人が、なんのサプライズも用意していないはずがない。

 会場内に観客が埋まりきる前に、ショウ達三人は舞台に登場する。普段の興行ではあり得ないことだが、本人達ですら待ちきれなかったようだ。

 いきなりの登場に戸惑った観客も、そこにノーウェアマンの音楽が流れれば、自然と身体を動かし、気分がよくなる。楽しい時間の始まりだ。

 夕方から始まった興行は、おおいな盛り上がりの中進んでいった。初期の曲から現在の曲まで、ショウ達三人の気分のままに演奏していく。曲順なんて予め決めたりはしない。観客の中からのリクエストがあれば、応えることもしばしばある。この日もすでに、数曲のリクエストに応えていた。

 開演から二時間が過ぎた頃、ショウが突然話を始めた。ノーウェアマンの興行では、挨拶程度の言葉は交わしても、長々と話をするなんてことは滅多にない。この日は珍しく、五分間も話をしていた。

 内容としては大したことがない。徴兵されるチャコとジョージへの餞の言葉と、これまでの活動についてを少し述べた程度だが、観客は大いに盛り上がっていた。

 その盛り上がりを受け、ショウは突然とんでもないことを言い出した。

 今から会場を解放する。全ての外枠をバラすから、外にいるみんなも自由に楽しんでいって欲しい。

 その言葉を合図に外枠が動き出した。突然の出来事に、会場はざわついた。外枠はあっという間に一箇所に集められ、バラバラに分解された。

 その後は完全なるフリーライブで、スティーブの呟きを目にした者が慌てて動き出し、一時は転送装置が混線状態に陥ったほどだ。すぐに復旧をしたが、順番待ち状態が続き、それは興行が終了してからも治らなかった。

 フリーライブとなってから、ノーウェアマンは三時間ぶっ続けで演奏をしていた。そして最後に、沖縄の島で戴いた楽器で新曲を発表し、興行を終えた。

 またね! ショウは最後にそう言った。

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