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最低でもビートルズ  作者: 林広正
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 沖縄の戦場を利用することは、案外すぐに承諾を得た。会場使用料はとらないと言われたが、代わりに戦地に在留している兵士を招待してほしいと言われた。ノーウェアマンはそれを了解した。ステージの設営のことを相談すると、兵士達が手伝うと言う。道具の手配も任せてくれと。それはとてもありがたいことで、ショウ達三人は深く御礼を言い、当日の時間やら詳しい場所やらの打ち合わせをし、後はどうやって世間に伝えるかを相談した。

 兵士達に噂を流してもらいます。それであっという間に広がることでしょう。そう言われた。

 徴兵前最後の興行は、作品の発表と同じ徴兵前日に決まった。今回もレコードの発売が決まったが、日程が短すぎたため、千枚の限定販売となった。しかも、会場限定だ。今では当たり前になっているが、これが会場限定商品の始まりだった。これをきっかけに、ライクアローリングストーンが発展をさせた。ライクアローリングストーンは、バンドを象徴するマークを考え出し、それを洋服などに描き売り出した。俺の時代でも大人気だ。年寄りから赤ん坊までが、そんなマークの服を着ている。

 ノーウェアマンの三人は、三日前に会場のある沖縄に入った。沖縄には、本島以外にもいくつかの島がある。本島に住んでいるのは軍人と政府の関係者やそれを商売にしている連中しかいないが、島にはまだ人が暮らしている。以前は沖縄県の一部だったが、今では行政上は神奈川県になっている。沖縄はすでに県ではないし、戦争が終われば神奈川県の一部になるって噂だ。だから横浜とは兄弟とも言える。ショウはこの日、そんなことを言っては喜んでいた。

 ノーウェアマンには、その興行や作品の販売をするための仕事をする人材がいない。以前はシンシアがその役をしていたが、シンシアの死後、全てを三人でこなしていた。一時はヨーコが手伝っていたが、みんなの目の前でチャコと喧嘩をしてからは、一度も顔を見せていない。チャコとヨーコは結婚していて、いまだに離婚には至っていない。二人は完全に仲違いをしてはいないってことだが、人間の心は案外と嘘つきで、ときにはスティーブをも騙すんだよ。チャコとヨーコは、すでに心を通わせてはいなかったんだ。ノーウェアマンの最後の興行にも、姿を見せなかった。

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