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最低でもビートルズ  作者: 林広正
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 音楽を始めたきっかけはなんですか?

 そんな言葉からインタビューが始まった。

 確実に変わりゆく世界のきっかけとなったショウの元には、多くの取材が申し込まれた。それはそうだよな。聞きたいことは山程だ。こうしてショウの記憶を覗いている俺にだって、聞きたいことは山程なんだ。

 きっかけなんて覚えていないよ。本来僕達の周りには、音楽が溢れている。それを感じないわけにはいかないんだよ。たださ、僕達は数千年もの長い間、音楽という概念を捨てて生きてきたんだ。身体では感じてもいても、心が理解をしていなかった。僕達は、そこに気がついただけだ。身体が心を解放させたんだよ。

 体内で脈打つ鼓動ってさ、そもそもが音楽なんだよね。僕達はそれを、母親の胎内にいるときから感じているんだ。空気の流れも、風の音も、虫の鳴き声だって音楽だよ。誰かの足音だって音楽になる。きっかけなんて、あちこちに転がっているってことだ。僕達は、運が良かったんだね。

 世界中で今、音楽が溢れていますが、自分達が始めたことが世界中で愛されていることについて、どう思いますか?

 音楽が溢れている世界は、素敵だと思っているよ。うるさいって感じる人もいるみたいだけど、それってさ、音楽に限ったことじゃないからね。音楽がない世界でも、うるさいと感じることは多々あったんだ。ざわめきだってさ、考え方によっては楽しめるんだ。それと同じなんじゃないかな? うるさいと感じるかどうかは、心の問題が大きいんだよ。音楽がこんなにも受け入れられているのは、きっと心に直接届いているからなんだよ。僕達の音楽は、そこを一番大切にしているからね。

 僕達が始めたって、世間では思われてるけどさ、それはちょっと違うんだ。 遠い西の果てでも音楽は生まれていたし、知られていないだけで、僕達よりも早く音楽を生み出していた人はいるかも知れないしね。たださ、音楽が愛されていることは確かだし、嬉しいことだよ。何度だって言うけど、音楽は生まれる前から心で感じているんだ。誰が始めたかなんて、どうだっていいと思わないか?

 西の果てという言葉が出ましたが、それはライクアローリングストーンのことですよね? 正直に言って、彼らについてどう感じていますか?

 それは彼らの音楽性について? それとも人間性について? どっちでも構わないけど、カッコいいの一言だよね。僕はさ、こんなに有名になる前に、ニックとは連絡を取っていたんだよ。ライクアローリングストーンの映像を呟きで見つけてさ、こいつは凄いなって感じたんだ。直ぐにどこの誰かかを調べて、僕の方から連絡を入れたんだ。ニックの方も僕達のことは知っていてくれてたみたいでさ、大いに盛り上がったよ。ニック達はさ、僕達とは違うアプローチで音楽を生み出している。使っている楽器も、似てはいるがまるで別物なんだ。正直に話すけど、僕達の音楽は、横浜って街の背景を存分に利用しているんだ。横浜の文化は世界でも少しばかり独特だからね。けれどライクアローリングストーンは違うんだ。スコットランドの空気を感じることはできるけど、あっちは完全なオリジナルなんだよ。全てがニック達の手作りなんだよ。どんなに僕達が評価を受けても、それは上辺だけだ。ライクアローリングストーンのように中身が詰まった評価じゃないんだよ。音楽性では、完全に僕達は負けている。僕達には、あんなに心を揺さぶられる音楽は生み出せないよ

 人間性についても同じだよ。決してニックのようにはなれない。一度話してみれば分かるはずだよ。僕とは違ってさ、ニックには裏表がない。今はまだノーウェアマンの方が人気があるように感じるけど、数十年後も世界でも愛されているのはライクアローリングストーンの方だと思うよ。

 ノーウェアマンの興行はとても評判がいいですよね。ああいったパフォーマンスは、どうやって考えているんですか?

 それってさ、こう言っちゃなんなんだけど、僕達に取っては褒め言葉じゃないんだよ。僕達はさ、芝居染みた興行をする癖が強いんだよね。本当はさ、ライクアローリングストーンのように、感情の全てをぶちまけたいんだ。音楽だけで勝負をしたいんだよ。その日その日の感情をぶつけるのがライブなんだよ。けれどさ、僕達はついつい作り込んでしまう。それを評価してくれるのは嬉しくもあり、苦しくもあるんだよ。もっとスマートな興行ができるようになりたいもんだね。

 とは言ってもさ、楽しんでいる部分も少なからずはあるよ。なにかを演じたりするのって、楽しいんだよね。パフォーマンスを考えているってことは、実は全くないんだよ。その場の思いつきを、その場で終わりにしていないだけなんだよ。こんなことしたら楽しいんじゃない? なんてノリで始めることってあるだろ? 僕達はよく、練習中にそんなことをするんだよね。普通はそこで終わってしまうんだけど、そうはしないで、今度の興行で使えないかなって考えてしまうんだ。それがパフォーマンスに繋がっているんだよ。子供の悪ふざけの延長なんだ。

 ライクアローリングストーンがタブレットで音楽を売り出していますが、そのことについてはどう感じていますか?

 あれは実に画期的だよ。僕達は音楽を宣伝に利用して利益を生んだよ。それってさ、間接的な売り出し方なんだよね。ライクアローリングストーンはさ、そんな面倒なことはしないで、直接に音楽を売り出したんだ。余計なオプションなしにだよ。タブレットの開発を込みでの売り出しなんだから、到底真似なんてできないよね。そんな発想もなかったしさ。けれど今度、僕達もタブレットで音楽を発表するつもりなんだよ。タブレットに一時間足らずの音楽を記憶させ、それを一つの作品として売り出すんだよ。いい考えだと思わないか? 曲ってさ、一曲で楽しむのは当然だよね。それができない曲は、正直につまらないよ。けれどさ、数曲を集めるとまた違う形で楽しめるっていう音楽を目指しているんだよ。これはさ、タブレットの存在無くしてはあり得ないんだよ。

 音楽を食べるっていう発想は、当然僕達にはできないよね。身体に取り込んだ音楽を、スティーブに保存する。一度保存した音楽はいつでも取り出せる。最高だと感じているよ。これからもっと、大勢が真似をするんだろうな。

 ボブアンドディランでの興行は、これからも続けていかれますか? 今の人気を考えると、会場が狭すぎるとも感じます。実際にノーウェアマンのチケットが取れずに悲しむファンは多くいますよね。その辺についての対策とかはありますか?

 大きな会場は当然必要だと考えているよ。けれど、ボブアンドディランでの興行は、やめるはずもないよ。僕達の活動は、常にあの場所を中心に行なってきているからね。それは絶対だよ。チケットが取れないってことについては、責任を感じているよ。これからは世界中を周るつもりでいるから、わざわざ横浜に来なくても観れるだろ?

 本音で言うとさ、大きな会場より、小さな会場の方がいいんだよね。いずれはまた、駅前での路上ライブをやりたいと思っているくらいだからさ。

 ノーウェアマンの人気は、音楽という枠とは関係がないように感じます。世界で一番影響力があるとも言われていますが、そのことについてなにか思うことはありますか?

 僕達にその自覚はないよ。だって僕達は、いまだに多くの人や物から影響を受けているからね。

 しかしその人気は、間違いなく世界で一番ですよね? 世界で一番の有名人だと思います。ノーウェアマンのことを知らない人間は一人もいないと言われていますよね?

 本当にそうだとしたら、嬉しいことだよ。僕達の目標は、最低でもビートルズなんだ。ビートルズっていうのは、文明以前の世界で一番有名だったバンドらしいんだ。最終的にはさ、クリストを超えるつもりでいるからね。

 ショウのこの言葉は、あらゆる方向から非難と攻撃を受けることになった。ビートルズってバンドは、ショウは以前、ビートルーズと呼んでいたんだが、過去の世界にタイムスリップした際、その時代の聞き屋から訂正されたんだ。文明以前の世界の話を持ち出したことで、政府がノーウェアマンに目をつけた。クリストは世界で最も崇拝されている宗教の教祖の名前だ。ショウの言葉は、冒涜とみなされた。

 それでは最後に、ファンの方にメッセージをいただけませんか?

 ありがとうって言葉しかないよね。なんだかんだ偉そうなことを言ってもさ、僕達がこうやって音楽をやっていられるのはさ、ファンがいるからこそなんだ。本当にありがとうだよ。みんなに会える日を楽しみにしているよ。

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