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最低でもビートルズ  作者: 林広正
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5

 聞き屋にはいくつかの質問をされたが、ショウは、それを調べるのが聞き屋の仕事だろと言い、余計な情報は与えなかった。ショウが調べた程度のことは、聞き屋なら簡単に調べられると思ったからだ。余計な情報を与えることは、聞き屋を混乱させるきっかけにもなり得る。

 聞き屋は無事に三ツ境の彼女に辿り着いた。様子を知りたいというよりも、音楽やこの世界の話を聞きたくて、二、三度聞き屋の前に顔を出した。解決にはまだ至っていなかったが、そろそろ帰るべきかと考えていたとき、見知らぬおばさんが万引きで捕まった。自分も捕まってしまうとの恐怖から、ショウはとんでもない行為を取ってしまった。

 おばちゃんを問いただしていた若者を突き飛ばし、行くよ! なんて声をかけながら手を掴み引っ張った。突然の出来事に唖然とした表情で床に倒れている若者を飛び越え、人混みの中に消えていく。誰も追いかけてこないことを感じ、ほんの少し人影の少ない角で足を止める。泥棒はよくないよ。おばちゃんにそう言うと、ショウは笑顔を作り、じゃあね! そう言い残して再び走り出した。

 ショウはそのまま、聞き屋の休憩室まで走った向かった。このままここには二度と戻ってこられないんだろうな。なんてことを考えながら。

 鍵を開けて部屋の中に入る。懐から取り出した本を眺め、ソファーの下に。僕はこれからどうなる? きっと、役目は終わったはずなんだ。僕は彼女を助けるためにこの世界に来たんだ。ショウは自分がタイムスリップした理由をそう考えていた。聞き屋が全ての解決に向かって動いている。時間の問題で解決するのは間違いない。僕がここにいても、迷惑なだけだ。僕がどこから来た誰なのかを聞き屋にはほんの少し話してしまったけれど、きっと信じてはいないだろうし、僕と彼女の繋がりについてはなにも話していない。このまま消えるのが一番なんだ。この先彼女が無事に赤ん坊を生み、育てたってことは、僕の存在がそれを証明をしている。彼女はきっと、僕の祖先なんだ。僕は彼女を危機から救うためにやって来たってわけだ。聞き屋のミッキーは、それを知っていた。長く聞き屋の間で語り継がれて来たのだろう。話の詳しい内容は崩れても、その大事な核だけは守ってきたわけだ。だからこそ、僕にそれが伝わったんだから。

 ショウはソファーから腰を上げ、ドアを開けると、鍵をかけて階段を上って行く。空気感が元に戻っていることに気がつき、やっぱり・・・・ ちょっとばかり悲しく感じた。

 ショウは真っ直ぐ、聞き屋の元に向かった。

 この鍵は、返した方がいいよね? 僕は無事にやり遂げた。もう必要ないよ。

 ショウはそう言ってポケットから取り出した鍵を投げ渡した。

 そうなのか? 鍵を受け取り、聞き屋が言った。そうなんだろうな。きっと。実はな、ちょっと前にもう一つの鍵をなくして困っていたんだよ。助かるよ。笑顔でそう言った。

 それじゃあ僕は帰るよ。色々とやることが多くてさ。

 そうみたいだな。まぁ、あまり無理をするなよ。あんたが死んじまったら、それこそ無意味になっちまう。

 そうだねと呟き、ショウはいつもの形のある本で溢れる部屋へと向かう。だいぶ疲れたようだ。また顔を出せよ。なんて聞き屋の言葉を背に受けると、右手を上げて手を振った。

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