表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最低でもビートルズ  作者: 林広正
74/99

4

 駅前をうろついていたショウは、一つの店の前で足を止めた。食べ物屋っだってことは分かるが、その食べ物を見るのは初めてだった。お腹が空いていたのは事実だが、それだけが理由で足を止めたわけではなかった。中で働く店員に、わけのわからない親近感を覚えたからだ。それは決して、過去の人物に恋をしたなんて話ではなかった。どうしてもこの人を知りたいと感じたんだ。

 店の前で中を覗いていると、ショウが見つめていた店員がドアを開けて顔を出した。

 お腹空いてるの? なんて声をかけてくる。俺が見ても感じられる。顔は似ていないが、醸し出すその雰囲気が、ショウにそっくりだった。

 その店員は、ショウと同じ雰囲気を身に纏った、それでも可愛らしい女性だった。彼女がなにを言っているのかは分からなかったが、ショウは、うん、と頷いた。

 しかしなぜか、彼女にはショウの言葉が伝わっていた。単純な返事だからだとこのときは感じたが、そうではないとこの後すぐに気がつくことになる。

 ショウは店の中に入り、案内された席に腰を下ろす。彼女は一度、店の奥に引っ込んでいく。ショウは彼女のお腹に目を向けていた。ちょっぴり膨らんだそのお腹に、妊娠しているんじゃないかと感じる。それは予感ではなく、確信だった。

 戻ってきた彼女は、食べ物をおぼんに乗せていた。美味しいから、ちゃんと食べてよね。なんて言ったんだ。ショウはその言葉を自然に受け入れたいたが、俺には違和感があった。その後、全てを食べ終えた後、ショウは、美味しかったと告げた。ついでにお腹の子供についても言及する。お腹の膨らみ具合から、男の子だよねと言ったんだ。

 おかしいと思うよな。俺はそこまで聞いてようやくその違和感の正体に気がついたんだ。文明以前と今では、その言葉がまるで違うはずなんだ。ショウはこの世界に来てからずっとそう思っていた。街で聞こえてくる騒めきなども、異世界の言葉に聞こえていたはずだった。その後に確認したが、確かにそうだった。なにを言っているのかまるで分からなかった。だったらどうしてって思うが、それは俺にも分からない。なにか不思議な力が働いたのか、彼女が俺たちの世界の言葉を話せたのか、街で聞いた言葉が単純に聞き辛くて、その先入観から違う言葉だと早とちりしていたのかも知れない。感情のある言葉は伝わりやすいが、感情がないと伝わらない。それはよくあることだよ。この後に出会った奴とも、ショウは普通の会話をしていたからな。

 店を出た後、ショウはおかしな連中を見かけた。怪しい雰囲気で店の中に視線を飛ばしていた。ショウはそれが気になり、ちょっとばかり調べてみようと考えた。その日から一週間、彼女とその怪しい連中を尾行した。

 なんだか僕って聞き屋みたいだなと感じ、ショウは喜んでいた。

 一週間の調査で、ショウは怪しい男達の素性と目的に気がついた。自分の手でなんとかしたいとも考えたけれど、万が一が起きたら困ったことになる。過去の世界に干渉ができるのは、過去の世界の人間なんだと考えた。そして、横浜の駅前で、顔の違う聞き屋が座っていたことを思い出した。この街でなにか困ったときには聞き屋に任すのが一番だ。

 ショウはすぐに動き出す。スニークに似た乗り物で横浜駅に向かい、聞き屋の姿を探した。いつもの場所にいた聞き屋は、ギターを抱えて歌っていた。聞いたことのない歌だった。ショウが作る歌とも、ライクアローリングストーンの歌とも違う。ショウはじっと、聞き屋の歌に耳を澄ましていた。

 一曲を歌い終えると、聞き屋はギターを壁に立てかけ、椅子に腰掛ける。ショウは目の前に近づき、しゃがんだ。

 いい歌だね。なんて声をかける。少しの音楽話を終えると、この人を助けて欲しいと、紙に書いた似顔絵を手渡した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ