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駅前をうろついていたショウは、一つの店の前で足を止めた。食べ物屋っだってことは分かるが、その食べ物を見るのは初めてだった。お腹が空いていたのは事実だが、それだけが理由で足を止めたわけではなかった。中で働く店員に、わけのわからない親近感を覚えたからだ。それは決して、過去の人物に恋をしたなんて話ではなかった。どうしてもこの人を知りたいと感じたんだ。
店の前で中を覗いていると、ショウが見つめていた店員がドアを開けて顔を出した。
お腹空いてるの? なんて声をかけてくる。俺が見ても感じられる。顔は似ていないが、醸し出すその雰囲気が、ショウにそっくりだった。
その店員は、ショウと同じ雰囲気を身に纏った、それでも可愛らしい女性だった。彼女がなにを言っているのかは分からなかったが、ショウは、うん、と頷いた。
しかしなぜか、彼女にはショウの言葉が伝わっていた。単純な返事だからだとこのときは感じたが、そうではないとこの後すぐに気がつくことになる。
ショウは店の中に入り、案内された席に腰を下ろす。彼女は一度、店の奥に引っ込んでいく。ショウは彼女のお腹に目を向けていた。ちょっぴり膨らんだそのお腹に、妊娠しているんじゃないかと感じる。それは予感ではなく、確信だった。
戻ってきた彼女は、食べ物をおぼんに乗せていた。美味しいから、ちゃんと食べてよね。なんて言ったんだ。ショウはその言葉を自然に受け入れたいたが、俺には違和感があった。その後、全てを食べ終えた後、ショウは、美味しかったと告げた。ついでにお腹の子供についても言及する。お腹の膨らみ具合から、男の子だよねと言ったんだ。
おかしいと思うよな。俺はそこまで聞いてようやくその違和感の正体に気がついたんだ。文明以前と今では、その言葉がまるで違うはずなんだ。ショウはこの世界に来てからずっとそう思っていた。街で聞こえてくる騒めきなども、異世界の言葉に聞こえていたはずだった。その後に確認したが、確かにそうだった。なにを言っているのかまるで分からなかった。だったらどうしてって思うが、それは俺にも分からない。なにか不思議な力が働いたのか、彼女が俺たちの世界の言葉を話せたのか、街で聞いた言葉が単純に聞き辛くて、その先入観から違う言葉だと早とちりしていたのかも知れない。感情のある言葉は伝わりやすいが、感情がないと伝わらない。それはよくあることだよ。この後に出会った奴とも、ショウは普通の会話をしていたからな。
店を出た後、ショウはおかしな連中を見かけた。怪しい雰囲気で店の中に視線を飛ばしていた。ショウはそれが気になり、ちょっとばかり調べてみようと考えた。その日から一週間、彼女とその怪しい連中を尾行した。
なんだか僕って聞き屋みたいだなと感じ、ショウは喜んでいた。
一週間の調査で、ショウは怪しい男達の素性と目的に気がついた。自分の手でなんとかしたいとも考えたけれど、万が一が起きたら困ったことになる。過去の世界に干渉ができるのは、過去の世界の人間なんだと考えた。そして、横浜の駅前で、顔の違う聞き屋が座っていたことを思い出した。この街でなにか困ったときには聞き屋に任すのが一番だ。
ショウはすぐに動き出す。スニークに似た乗り物で横浜駅に向かい、聞き屋の姿を探した。いつもの場所にいた聞き屋は、ギターを抱えて歌っていた。聞いたことのない歌だった。ショウが作る歌とも、ライクアローリングストーンの歌とも違う。ショウはじっと、聞き屋の歌に耳を澄ましていた。
一曲を歌い終えると、聞き屋はギターを壁に立てかけ、椅子に腰掛ける。ショウは目の前に近づき、しゃがんだ。
いい歌だね。なんて声をかける。少しの音楽話を終えると、この人を助けて欲しいと、紙に書いた似顔絵を手渡した。




