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最低でもビートルズ  作者: 林広正
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 バンド名のノーウェアマンは、聞き屋から手に入れた本の中にあった言葉だ。ショウが解読した結果によるものだが、それは曲名だそうだよ。ビートルーズっていうバンドの曲だそうだ。後にそのバンドの名前が間違っていたことを知るんだが、この時点ではそう呼んでいた。

 ウーク三大ロックと表紙に書かれていたその本には、その言葉通り、三組のバンドが紹介されていた。ウークっていうのは、イギリスの別名だそうだよ。今では使われていない言葉だ。そのバンドの一つが、ビートルーズだった。これもショウが言うにはだが、当時の世界で最高のバンドだったそうだ。今でもこの世界で崇められているクリストっていう神様がいるだろ? クリストの名前は形のある本の中でも多く見かけられるようなんだが、ビートルーズってのは、そのクリストに迫る人気だったそうだ。

 ロックっていうのは、音楽を楽しむって言う意味だという。物事にも人にも使われるそうだ。ショウはこの言葉がお気に入りで、よくこんなことを言っていた。僕達はさ、生き方そのものがロックなんだ。ってね。

 その本に紹介されていた他のバンドにも、ショウは大きな影響を受けている。その見た目や曲名はもちろん、その言動に対しての影響が強いようだ。その本には、それぞれのバンドのメンバー達のインタビューが掲載されていた。

 バンド名が決まると、ショウはすぐに次のライブを決行した。聞き屋に許可を取り、場所と日付を決める。そしてその情報を、スティーブ上で呟いた。

 しかし、その日のライブは中止になったんだ。予想を遥かに超えた人数が集まり、身動きが取れない状態になってしまった。ショウ達三人がその場に移動をすることさえ不可能な人集りに、政府の連中が動き出した。数時間をかけて人集りは落ち着いたが、ライブを再開することは許されなかった。

 呟き上では、残念がる言葉と、ふざけるなとの言葉が溢れた。ショウ達三人はまだ、バンド名を紹介しておらず、次のライブを早く決め、そこで世界に紹介したかったようだ。しかし、政府からの許可はおりず、ボブアンドディランで興行をするには問題が多すぎた。ボブアンドディランはレストランだ。百人単位での興行をした経験はない。テーブルを全て取り除けば入るかも知れないが、前日の様子では、それでも人が溢れ出すことは容易に想像できた。それに、これはショウ達三人にとっての拘りだが、どうしても駅前でバンド名の発表をしたかったようだ。

 いくら俺でも、こいつは難しい相談だな。あいつらには一応頼んでみるが、あいつらだけの力じゃ弱いな。おばちゃんとボブアンドディランの彼女の父親に協力して貰うか。まぁ、それでも可能かどうかはわからない。あんた達さ、今や呟き上で一番の有名人だからな。

 聞き屋の前にショウ達三人が揃ってしゃがみ込む。周りを歩く数人が、ちょっとばかりの反応を示すが、立ち止まる者はいない。

 そんなこと言ってもさ、こうして三人揃ってここにいても、誰も反応を示さないじゃんよ。別に有名になってちやほやされたいわけじゃないけど、今のままじゃ、僕達がやっていることはただの暇人の遊びだね。それじゃなにも始められないでしょ? なんとしてでもバンドとしての興行を続けないとね。

 ショウの言葉にミッキーは立ち上がった。ちょっと本気になってみるか。そう言い残し、どこかへと消えて行く。

 ショウはその場で、突然歌い出した。立ち上がり、壁を叩き、地面を踏み鳴らしながら。

 チャコはしゃがんだまま、ミッキーが座っていた椅子を叩いたり動かしたりして音を鳴らす。ジョージは身体を叩いたり口笛を吹いたり、口から物音を出したりしている。

 突然始まった興行に、その場の数人が足を止める。やっぱりそうだよ。なんて声も聞こえた。

 ショウ達三人が一曲を終えると、駅前は相当な人集りになっていた。演奏に夢中だったショウ達三人は全く気がついていなかったようだ。しかし、その現実に目を向け、驚いた。こいつはやばいなと感じ、慌ててその場を走り去った。人集りを掻き分けながら。

 いつもの形のある本で溢れる部屋の三階で、三人は演奏をしていた。練習というよりも、純粋に楽しんでいるだけのようにしか見えない。その場で曲を作りながらの演奏は、見ていてとても興奮したよ。ライブ会場で見せるノーウェアマンの姿とは全く違う雰囲気に満ちていた。

 二時間ほどはそんな演奏が続いていた。あの様子だと、誰かが止めなければ朝まででも続けていそうだった。三階の扉が、ガチャっと開いた。

 形のある本で溢れた部屋へは、勝手に出入りをする連中はいても、三階から入ってくる者は珍しい。ショウがこの部屋を使っているときには、一度もその扉から誰かが現れたことはなかった。

 あんた達さ、本当に音楽が好きなんだな。呟きを見たぞ! またやらかしてくれたな。仕事場に戻ったらあまりの人集りに驚いたよ。またあの人達が現れた。なんて声が聞こえてな、呟きを覗いたらまた映像が載っていた。興行をやることは決定したがな、次で最後だ。あの場所ではな。

 扉から現れたのは、ミッキーだけではなかった。ミッキーの後から五人の男女は姿を見せた。

 あんまり大きな騒ぎを起こすと、この街を追い出すことになるぞ。

 そう言った男は、派出所にいる政府の人間だった。隣にもう一人、同じ格好の男が立っていた。

 まぁ、そんなに怒ることはないだろう。私はこの子達に協力をする。あれだけの人を集められるんだ。それは物凄いことだよ。この街にとっても、言ってしまえばこの国にも利益を生むことになる。

 ボブアンドディランのオーナーがそう言った。隣には娘の姿がある。彼女はショウに向け笑顔を見せていた。

 やりたいようにやればいいんだよ。まだ若いんだ。それでいいじゃないかい。おばちゃんがそう言った。

 そういうわけにもいかないだろ? このままじゃ街がパニックになっちまう。呟き上の騒ぎは異常なんだよ。どっちにしても一度は興行をするべきなんだよ。

 ミッキーがそう言った。

 だったらそうすればいいじゃないかい。

 おばちゃんの言葉にミッキーは苛立つ。

 そうしたいからこそ、こうしてみんなを集めたんだよ。おばちゃんまだ話してないけど、ほぼ計画は固まっているんだ。

 なんだい! だったら早いとこ話しな! なんていうおばちゃんの言葉を素通りに、ミッキーが話を始めた。

 ミッキーの話はこうだ。今回は駅前でライブを行う。ただし、事前に政府に協力を要請する。これが最後のライブになる。駅前ではだけどな。その後は、ここの地下に会場を作り、定期的に興行をすればいい。千人程度の会場なら作れるそうだからな。おばちゃんにはその会場の管理をしてもらうつもりなんだ。もちろんその前に、スティーブの制御などの仕事も頼むんだけどさ。なんて感じだったよ。

 ノーウェアマンとしての初ライブは、無事に成功をした。事前にはなんの宣伝もしなかったが、そこには数万人が集まったんじゃないかと言われている。当然その模様は呟き上にいくつも載せられ、世界中の人が拝見することとなった。

 それをきっかけに、ショウは一つの真実を知ることになった。少しのショックと、大きな喜びを感じる出来事だ。

 日本というこの国を中心に考えたとき、世界の西の果てにある国でも、同時期に音楽を生み出していた若者の存在が確認されたんだ。Like a rolling stone の文字と共に、その演奏が呟き上に載せられていた。

 僕達だけじゃなかったんだ・・・・ ショウの一言目だ。

 いつか会えるかな? それが二言目だった。

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