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最低でもビートルズ  作者: 林広正
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3

 形のある本で溢れる部屋で、ショウはミッキーから頂いた本を眺めていた。文字数も少なく、ショウにとっては馴染み深い言葉が多く、そのほとんどの意味が理解できたようだ。

 本の中の言葉で、その意味よりも、文字の感じや読み方のニュアンスがいいと感じることがよくある。ショウはそんな言葉を集め、紙に書き記していた。そんな言葉の中に、nowhere manの文字があったんだ。この世界の言葉では、ノーウェアマンと読む。

 バンド名なんだけどさ、ノーウェアマンってのはどうかな?

 上の部屋で楽器の練習をしていたチャコとジョージに向けて大声を出す。

 それってどういう意味? チャコの声が聞こえてくる。

 どこにもいない男。かな? 意味よりもさ、なんかノーウェアマンっていい響きじゃない?

 ショウがそう言うんなら、それでいいだろ? 正直俺さ、バンド名には興味がないんだよね。どうでもいいんだ。名無しだっていいくらいだよ。俺たちが楽しくてさ、それを見てくれた誰かが楽しくなる。最高じゃない?

 ジョージがそう言いながら階段を降りてくる。

 確かにそれが基本だよ。けれどさ、聞いている側が困るだろ? あの人達いいよねって会話をしてもさ、あの人達誰ってなっちゃうじゃん。スティーブでの検索にも困るしね。そのうちに僕達、あの人達ってバンド名にされちゃうよ。まぁ、それもありなんだけどね。

 ショウの言葉にチャコとジョージが笑う。チャコが階段を降りてくる足音が聞こえてくる。

 それでノーウェアマンなんだね。いいセンスしているじゃん。

 チャコの言葉にショウは頷く。しかし、その意味が分からない。まぁ、納得してくれたのならどうでもいいかと思う。あの人達って呼ばれているショウ達三人が、どこにもいない男だっていうのが面白いと言いたいようだが、ショウだけでなく、ジョージにもそれは伝わらなかったようだ。不思議そうにチャコを見つめていた。

 それじゃあ、ノーウェアマンで決まりだな。ジョージがそう言った。そして、ノーウェアマンっていう言葉の意味が分かるのって、俺達くらいなんだけどな。そう呟いた。その言葉を耳にしたチャコは、それこそが最高なんだよと、笑った。

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