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今では当たり前になっている転送装置だが、当時はまだ実験段階だったんだ。その開発は、スコットランドっていう国が中心になっていたそうだ。しかもその転送装置は固定式だったんだ。決められた箱の中に入り、行き先を指定する。指定の仕方は色々あるが、スティーブを通せば余計な操作はしなくてもいい。頭の中でスティーブに行き先を伝えるだけでいいからね。すると、指定場所に設置されている箱へと移動ができるっていう仕組みだよ。ショウが言うように、テレポとよく似ている。テレポは基本、服や食べ物などの実体のある物だけを転送する。用途によって大きさは様々あるが、箱型で設置式になっていた。小さなテレポは、各家庭に一台は設置されていたよ。
そんなテレポも、今では持ち運び式が開発され、主流になっている。しかし、箱型であることは変わっていない。箱なしでのテレポは可能だが、危険が多い。少し考えれば分かることだ。突然目の前に食べ物が現れるなんて、知っている本人ならば問題はないが、知らなければ驚く。食べ物ならまだしも、大きな物も移動できるんだ。突然現れれば、事故につながることもある。やり方によっては、命を奪うことも可能なんだ。これは俺達の世界での話だが、実際にそんな使い方をしている連中もいる。当然違法行為だが、違法をするのが俺達一般人だけじゃないっていうのが問題なんだ。
初めは固定式だった転送装置も、十数年後には携帯型が誕生し、その後すぐに主流になっている。身につけているだけで、いつでもどこにでも移動ができる。決まった場所へ向かう必要もない。スティーブの機能を利用することにより、事故防止対策も万全だ。俺達が想像できる心配事は、いまだかつて現実にはなっていない。
スニークの存在が消えたのは、この転送装置が発展をしたからに他ならない。しかし、転送装置にもたった一つの難点がある。ほんの少しだが、身体への負担があるってことだ。若い時分は問題ないが、年を重ねると、一日に何度もの転送は身体に堪えてくるそうだ。俺達の時代では、平均寿命が毎年下がっているんだが、転送装置が原因だと言われている。
それでチャコはさ、なんの勉強をしているんだ?
チャコとヨーコの会話が一段落したその隙に、ショウが言葉を挟んだ。
僕はさ、相変わらずだよ。
チャコの言葉のトーンが一気にさがる。
楽しくないのか? ショウがそう聞く。
まぁ、それほど楽しくはないよ。なんせさ、医療技術はほぼ確立されているんだ。僕たちはさ、ただそれを覚えるだけだからね。研究っていてもさ、新しいことは一切なしだよ。
それじゃあなんで勉強を続けているんだ? 遊んでても金が貰えるからか?
確かにそれもあるよ。僕には両親がいないからさ、国への借金も返さないといけないしね。
当時は学費については無料だった。ショウ達三人のように飛び級を重ねたり、チャコとジョージのように研究所に出入りしたりすれば給料さへ貰えていた。今の時代とは少し、事情が違うんだけどな。
しかし、施設で過ごしていたチャコは、その費用を返さなくてはならないんだ。施設利用料は高くはないが、無料ではない。毎月幾らと、積み重なっていく。それに加え、生活費の支給があるんだが、支給という名にはなっているが、実際には貸与であり、それもまた返さなくてはならない。
だったら僕と、音楽で稼ぐか? 色々アイディアはあるんだよ。ジョージも誘ってやってみないか?
そんなショウの言葉に最初こそ戸惑ったが、その内容と、その場で歌い出したショウの歌に感銘を受け、チャコは参加を決意した。
医療の勉強ならここでもできるだろ? 形のある本で、そんなようなのがいくつかあったからな。文明以前の医療を勉強するのは必ず役に立つ。分かるだろ? 今とは違う考え方から生まれた技術だからな。
それは当然続けるよ。ここの本だって利用させてもらうけどさ、ジョージはどうする? 僕も最近は全く会っていないんだ。卒業式の日以来だよ。学校でも見かけていない。研究所には残っているって噂は聞いたけどね。
その日は結局、ジョージは姿を表さなかった。連絡さえ寄越してはこなかった。
チャコは三階で様々な楽器を触っていた。その中で一つ、ショウがドラムと呼んでいた打楽器が気に入ったようだ。見た目が派手なドラムは、チャコのイメージとは合わない。しかし、チャコがドラムを鳴らすと、その派手さがチャコに乗り移り、派手な音を鳴らしてくれるんだ。チャコがドラムに向いているのは、その派手さを表現できるからだけではない。その物静かだけれど芯の強い性格故だった。派手なだけのドラムはつまらない。チャコは、静かな空間さえも表現ができるんだ。
チャコはその日、学校にも戻らず、家にも帰らず、朝までドラムを叩いていた。




