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最低でもビートルズ  作者: 林広正
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3

 彼女を呼んでくれないか? ショウは近くを通った店員に声をかける。少々お待ち下さいと、その店員が答えた。

 しかし彼女はなかなか姿を現さなかった。ショウは暇潰しに、出来上がった曲を奏でる。ギターを弾き、唄を歌う。最初は小さな音で、小さな声を出していた。しかしいつしか、ボリュームが上がっていく。

 気がつくと、ショウは出来上がった曲の全てを歌い終えていた。そして周りに目を向けると、多くの人影が目についた。いつの間にかお客や店員がショウの周りを囲んでいたんだ。ショウはあまりに驚き、立ち上がった。本人の気持ちとしては、ギターを壁に立て掛け、逃げ出すつもりだった。

 イエェーイ! なんて声が、店内に響いた。続いて拍手が巻き起こり、そこにいた全員が立ち上がる。

 これは事実上の、ショウのデビューだ。新しい音楽が、生まれたんだよ。ショウの歌には、メロディーがあるんだ。彼女の詩とは違う。しかも、ギターの演奏がショウの歌を華やかに盛り上げる。今に繋がる音楽の基礎を、たった一人で生み出したんだよ。

 やっぱりあなたは凄いわ。大勢の観衆をかき分け、彼女がショウの前に現れた。

 明日からここで演奏してくれないかしら? お金ならちゃんと、払うわよ。他の楽器だって自由に使って構わないんだし。

 彼女の言葉に、ショウは頷いた。お金が欲しくて引き受けたわけではない。ショウには聞き屋の仕事を手伝ったときに得た金が手付かずで残っていた。更に、この国では、二十二歳を前に学校を卒業した者は給付金が貰えることになっているんだ。卒業をした翌年から、本来卒業をする年の年度末まで、毎月支払われている。しかも、国の平均給料と同額が貰えることになっている。

 ショウが引き受けた理由は、楽器を使い放題ってところにある。様々な本を読み、音楽についての知識は得ていたが、やはり一番の勉強は、実践に限る。ショウはボブアンドディランの舞台で、ギター以外の楽器も散々試すことになった。自分で作った曲や、本の中から見つけた曲を演奏しながら。

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