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初めは単純な思いつきで音を並べていただけだった。けれど次第に、規則的な音を出すようになる。そしていくつかの形の曲を完成させたんだ。
形のある本の五本戦をそのままに弾くと、形のある曲になる。ショウは、そんなモノマネを楽しんでもいた。しかし、そんな曲だけでは、ショウ自身も満足ができず、好き勝手な曲を混ぜながら演奏をする。
そんなところで遊んでないで、あなたも舞台に上ってみる? 突然彼女に話しかけられた。
僕はまだ、そのレベルじゃないよ。こいつはまだ、ただの趣味だよ。あなたようにはまだ、舞台の上では輝けないんだ。
ふーん、そうなんだ。ショウ君ってさ、なにを求めているの? あなたの音楽、私は好きだし、ここに来る常連さんはみんな気に入っているわよ。舞台で聞いてみたいって、よく言われるのよね。
彼女の言葉に嘘はないが、ショウ自身も、ただギターを弾くだけの現状に納得してはいなかった。
僕はさ、あなたのように唄いたいとも思うんだけど、そうじゃないとも感じているんだ。このギターには確かに僕の感情が伝わっているんだけど、もっとなにか、楽しくなれるって思わないかい? 色んな形のある本を参考にはしているんだけど、どれもいまいちなんだよね。
試しに私が唄うってのはどう? ショウ君のギターを背に、いいアイディアだと思わない?
うーん・・・・ ショウはいつもにも増して深くため息を零す。
悪くはない話だよ。けれどきっと、そうじゃないんだ。だって、よく考えてみなよ。あなたの唄は、その声だけで成立しているんだよ。バックの演奏なんてなくても、観客が勝手に手拍子や足踏みをしてくれる。それがなくたって、聞いている者には、唄以外の音楽が聞こえているんだ。僕の演奏なんて邪魔でしかないんだよ。
そんなの実際にやってみないと分からないわよ。
確かにそうだね。けれどさ、僕は何度も試しているんだ。あなたの唄を思い描き、僕の感情を背後に乗せる。今のままではそう、上手くはいかないよ。残念だけど、僕達はさ、まるで違う方向を向いているんだ。
ショウ君の言うことも、なんとなくは分かるんだけど、やってみる価値はないかな? 彼女のそんな言葉に、ショウは即座に首を振った。
そのうちきっと、お世話になるよ。もう少しなんだよね。なにが足りないのか、それさえ分かればきっと、僕はあなたのように輝けるんだ。
そんなショウの言葉に、彼女は笑う。
なにを言っているのよ。あなたはすでに輝いているじゃないの。初めて会ったあの日から、今でもずっと輝き続けているわよ。あなたになにが足りないのかって、それはきっと、勇気じゃないかしら? 新しいことを始めるのって、怖いじゃない?
彼女のそんな言葉を聞き、ショウの頭にある閃きが起きた。そうか! なんて叫び、ギターを壁に立て掛け、店を出て行った。ありがとう! やっぱりあなたは素晴らしいよ。彼女に向かってそう叫んだ。
ショウは二階の形のある本で溢れた部屋へ行き、紙を使って文字を書き記していく。頭でギターの音を感じながら、言葉を重ねる。唄が歌になった瞬間だよ。詩が歌詞になった瞬間でもある。
ショウはそのまま部屋に篭り、数曲の歌詞を仕上げた。そしてすぐにボブアンドディランに行き、ギターを弾いてイメージ通りの音を探り、奏でていく。




