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最低でもビートルズ  作者: 林広正
52/99

6

 あんた今いくつになる?

 僕は今年で十七だよ。

 俺よりは若いんだな。知っているか? 彼女はあれで十九なんだ。俺より若いんだよな。いい女だが、俺には役不足だ。

 ミッキーはいくつになる? 僕よりはおっちゃんでも、まだまだ若者でしょ?

 そりゃそうだ。俺は若者だよ。聞き屋ってのは、若者の仕事だからな。歳をとると動きが鈍くなる。

 で、いくつなんだい?

 二十二だよ。これでもまだ大学生でね。俺は勉強好きなんだよ。飛び級なんて勿体無いことはしないんだ。そんなことよりそろそろだな。彼女が登場する前に、なにか飲むか? 二人とももう学生じゃないんだろ? 今日は飲み食いがタダだからな。酒でもなんでも飲んでいいんだぞ。俺は仕事があるし、そもそも学生だからな。

 残念だけど、僕も学生なんだよ。ミッキーの同級生ってとこだよ。ヨーコはもう卒業しているけど、酒は飲んだことないよね?

 ショウの言葉にヨーコは頷く。俺達の国では、年齢には関係なく、学生でなければ酒を飲むことができる。言い換えれば、卒業するまでは飲めないってことだ。

 あんたと俺が同級生か。なんてミッキーが独りごちていると、店内の照明が、すうっと明かりを減らす。ライブが始まる合図だ。この日の出番は彼女一人きり。たった一人で十五分間の興行が始まった。

 彼女は登場するなりいきなり唄い出す。俺には聞いたことのない詩だが、店内は意外なほどに盛り上がっていた。聞き屋のミッキーは足を踏み、音を出していた。客たちの中には、手を叩く者さえいる。そこには確かに、音楽があった。

 彼女の音楽は、聞いていて楽しくなる。音楽に溢れた時代に生まれた俺でさえそう感じるんだ。当時は尚更強く感じたことだろう。

 言葉の間に生まれる空白も、彼女がそこに立つと音楽になる。身体全体を使って表現する様は、後の音楽家達と変わらない。楽器の演奏がなくとも、これほどに音楽を感じられるのは、彼女だからこそだろう。

 彼女は四つの詩を続けて披露した。言葉の内容だけでなく、どれもがまるで別物の曲に聞こえた。ただ詩を読んでいるだけじゃないってことだ。ショウは彼女の音楽を、真剣に見入っていた。この瞬間こそが、音楽を始める気かっけだったんだ。音楽という文化が誕生した瞬間であると言っても過言ではない。ショウの頭の中では、別次元の音楽が、すでに流れ始めていた。

 最後の詩は、今夜始めての披露になります。愛する父親が大切にしていた本の中の一節を引用しています。どうか最後まで楽しんでいって下さい。

 彼女はそう言うとすぐ、最後の詩を唄い出した。

 楽屋で聞いたときよりも、その言葉が強く胸に響いてくる。彼女はショウが書いた言葉を、完全に自分のものにしていた。

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