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最低でもビートルズ  作者: 林広正
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5

 三階のお店で出来上がった詩を彼女に手渡した。出番が近づいているため、楽屋を訪ねることになった。そこには聞き屋のミッキーも一緒にいた。

 早かったのね。なんて時計に顔を向けながら彼女が言う。

 その子、恋人か? 随分と余裕があるんだな。ミッキーがそう言う。

 いいや、仕上げた後に会ったんだよ。そんなことよりこれ、まずは読んでみてよ。

 そう言いながらショウは彼女に紙を手渡そうと差し出した。

 恋人じゃないってこと? 彼女がそう聞いてきた。ほんの一瞬戸惑ったが、ショウはすぐに口を開く。

 うん。なんて頷き、今日で恋人は卒業だよ。結婚することに決めたんだ。だから今は、婚約者だよ。そう言った。

 ショウの言葉を聞き、ヨーコが大きく目を見開いた。ショウはヨーコの手を、そっと握る。ヨーコの目から、涙が溢れる。

 あらやだ。こんなところでプロポーズするの? 羨ましいわね。そう言いながら彼女は、彼女に顔を向けた。おめでとう! 幸せになってね。そう言い、ショウが差し出す紙を受け取った。

 凄いじゃない! やっぱりあなた、センスあるわね。

 手渡された紙の文字を読むと彼女はそう言い、何度も繰り返し詩を読み始めた。初めは心の中で読んでいたが、次第に呟きに変わり、最後には唄い出していた。

 目の前で音楽を味わうのは、生まれて初めての経験だった。路上でそんなパフォーマンスを見かけたことはあったが、どれもあまりいい出来ではなかった。ただ言葉を並べて喋っているだけで、ちょっと愉快でお喋りな学校教師のようだった。そんなのしか見たことがなかったから、ヨーコに誘われても覚えがないほどに興味がなかったのだろう。

 しかし、目の前の彼女は、なにかが違うと感じる。文明以前の言葉を、ショウが書き直したはずの言葉なのに、まるで彼女の内側から発せられているように感じられるんだ。ショウは早く、舞台上での彼女を観たくて堪らなくなっていた。

 そろそろ本番だろ? 俺たちはテーブルで楽しむとするよ。

 ミッキーがそう言った。そして、再び詩を呟き始めた彼女を残し、楽屋を後にした。手を繋いで歩くショウとヨーコがドアの前で彼女に顔を向けて頭を下げると、彼女はニコッと笑い、手を振った。

 これで仕事は終了?

 用意されたテーブルには、豪華な料理が並んでいた。椅子に腰掛け、ショウがミッキーに尋ねる。

 さぁ、それはどうかな? 見てみなよ。あそこにいるのが彼女の父親だ。まともな仕事をしているようには見えないがな。まぁ、人ってのはたいていが見た目には騙される。

 とにかく、僕の仕事はお終いってことでいいんだよね?

 ショウはテーブルの上の料理に手をつける。野菜、肉、魚。どの料理も普段は決して食べられないように着飾っている。大きな皿の中心にヘソほどの量しかない。一つまみで消えてしまう料理を、ショウは無造作に摘み、口へと運ぶ。隣のヨーコは、ショウとミッキーの言葉に耳を傾けながらも、味わい料理を楽しんでいる。頭の中では、味や見た目の感想を呟いていることだろう。一方ミッキーは、料理には一切手を出そうとしなかった。

 あぁ、それはそうだな。まぁ、このライブを最後まで楽しんだら帰ることだ。なにかが起きたとしても、それは俺の仕事だからな。

 ミッキーの言葉に、ショウはただ頷いた。

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