第四章 1
十四歳で大学生になったショウ達三人は、別々のクラスで勉強をすることになった。学生生活の中で、二度目の出来事だった。大学生は、基本自分でクラスを選ぶことができる。好きな勉強だけをしていいってことだ。基本的な教養は、高校までに終えていることになっている。
ショウ達三人は、自らの意思でそれぞれの道を歩み始めた。チャコとジョージは、やりたいことを見つけ、まだ迷いのあるショウは、自分にはなにが出来るのかを、真剣に模索し始めていた。
とは言っても、やりたいことを見つけるのは難しい。そう簡単には見つけられない。チャコとジョージが見つけることが出来たのは、それなりのきっかけがあったからだ。ヨーコの爺さんの死を目の当たりにしたことで、チャコは医療関係を目指し、ジョージはスティーブが間接的にではあるがヨーコの爺さんを助けたことに興味を持った。ショウは、形のある本の解読とヨーコの爺さんの死により、半ば燃え尽きてしまったようだった。
大学での四年間は、あっという間に過ぎようとしていた。勉強に夢中だったチャコとジョージは敢えて飛び級をせず、なにかを探し求めていたショウは、飛び級なんて言葉すら忘れていた。
学校の授業が終われば、チャコとジョージには研究室での仕事が待っている。大学生にとって、研究室に入るってことは、半分は就職をしたことになる。当然、給料も貰える。
ショウは一人でよく、横浜駅周辺をぶらついていた。ときにはあの建物の中に入ることもあった。形のある本で溢れる部屋だけではなく、他の店などにも顔を出す。どうすればいいんだと悩んでいたとき、一人の男と出会うことになった。双子の置物のあるあの場所で、ショウが置物を撫でているときの出会いだった。
あんたさ、いつもそのおっちゃんを撫でているけど、なんか意味あるの?
この場所で突然声をかけられるのには慣れている。しかし、若い声を聞くのは珍しい。それまではたいていが年寄りだった。
意味がなくても息はするだろ? それと同じだよ。こうすることは、僕にとっての呼吸と一緒なんだよ。
ショウの言葉を受けた若い男は、面白いこと言うんだな。笑いながらそう言った。
俺のこと、知っているか? この街じゃ、そこそこの有名人なんだけどさ、あんた暇人なんだろ? ちょっと手伝ってくれよ。
男はそう言い、ショウの返事を待たずに歩き出す。ショウはため息を一つその男の背中に零して、ゆっくり後をついて行く。
聞き屋って、聞いたことあるか? この街で生まれたなら知っているだろ? なんせ聞き屋は、文明以前から続いている仕事だからな。俺で確か、五百代だったんじゃないか?
聞き屋を名乗る男は、ショウに背中を向けたまま声を出す。大きな独り言だなと、ショウは鼻で笑った。
駅前にある箱型の建物の裏が、聞き屋の仕事場だ。橋を渡って真っ直ぐ駅に向かった右側にあるその建物は、表側は地下への入り口になっている。
椅子はないけどさ、適当に座ってくれよ。俺のこと、本当に知らないのか? まぁどうでもいいか。俺はさ、ミッキーって呼ばれている。あんたもそう呼んでくれよ。




