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この装置は結構古くから存在している。ショウが子供の頃にはすでにあったはずなんだが、利用しなかった理由はきっと、そこには木製の物が多く存在していたからだろうな。形のある本もそうだ。紙っていうのは大抵は草木が原料だからな。光っていうのは、案外とその扱いが難しいんだよな。身体に埋め込んであればスティーブが勝手に制御をしてくれるが、携帯型では自分で制御をして使用するんだ。光装置を身体に埋め込むには免許が必要となる。十六歳にならないと取れないんだ。学校なんかで使用する場合は、周りがチタン製だから問題はない。しかも、コーティングまでされている。チタンの加工にも光を利用するんだが、携帯型ではそこまでの出力を上げることは不可能だ。間違って机を切ってしまう恐れはない。しかし、木製となると、その制御が難しい。よほど慣れていなければ、あっという間もなく全てを燃やし尽くすだろう。
やってみるか? 爺さんにそう言われ、ショウはすぐに新しい棒を手に取り、板状の棒を使用して削り始めた。爺さんが削った見本を見ながらだが、器用に削っていくショウの姿を見て、爺さんが呟く。流石になんでもこなしてしまうんだな。
結構難しいと思うよ。ほら! なんとか形にはなったけど、爺さんのに比べると全然だよ。
ショウは笑顔でそれを差し出した。確かに歪だが、使用目的にはなんの支障もない。爺さんもそう感じたのか、笑顔だけを返していた。
しばらくは無言で、ショウは本を捲っては紙になにかを書き記すって行動を繰り返していた。そして突然、あっ! なんて叫んだ。
なんかあったのか? ショウの向かい側の椅子に腰を下ろし、じっと一冊の本を眺めていた爺さんが、顔を上げもせずにそう言った。
間違えて書いたんだけど、消すことってできるのかな?
あぁ、そういうことか。今まで一度も書き間違えていないのか? 線を引いて消したり、塗り潰したりしてもいいんだぞ。
俺だったらそうするが、ショウはそんなことはしたくないと言った。紙が汚れるのって、なんだか寂しいよ。そう言ったんだ。
それならこれを使うといい。そう言って、爺さんはポケットから白い小さな塊を取り出した。
これはゴム製なんだ。ちょっとした汚れは消すことができる。なにより、紙が痛まないってのがいいんだよ。そう言いながら、その塊をショウに向かって投げ飛ばした。
そのゴムを受け取ったショウは、間違えて書いた文字を擦った。すると綺麗に文字は消えたが、擦って汚れたゴムのカスが生まれ出た。
これはどうするの? 捨てちゃえばいい?
まぁ集めて再利用もできるが、一度汚れてしまうと綺麗に消すことはできなくなるからな。私はいつも、集めてから最後に捨てるようにしているよ。爺さんの言葉に頷き、カスを集めて邪魔にならない場所に置いた。ゴムってのも、元は木だ。木の液を固めたのがゴムだからな。紙とゴムは相性がいい。俺の予感だが、丸い棒に埋め込まれている黒い芯も、きっと木製なんじゃないかと思うんだ。どうでもいい予感だけどな。
それからまた、ショウは黙々と作業を続ける。爺さんは時折ショウに顔を向けては笑顔を浮かべるが、基本は本を読んでいた。ページを捲るスピードが遅く、文字が読めているのかどうかは微妙だった。
もうそろそろ帰った方がいいなと爺さんが言ったときには、すでにそこへ来てから五時間は過ぎていた。飲食もせずに、たいした集中力だと、爺さんだけでなく、俺さえも呆れたよ。
爺さんは、隣のカフェで簡単な食事をご馳走してくれた。そして帰りには、二人乗りスニークで送ってくれた。
明日もまた行っていいかな? そんなショウの言葉に頷きながらも爺さんは、明日からはちゃんと時間を見ながらするんだぞ。と言いい、あまり遅くなると家族が心配するだろうしな。居場所を検索されて乗り込んで来られては困るんだよ。と言って笑顔を見せた。
分かったよと、ショウもまた笑顔を見せる。明日は友達を連れて来てもいいかな? そんなショウの言葉に、好きにするといいよ、と頷き、スニークに跨ってどこかへと消えていった。今日はありがとうね。本当に楽しかったよ。とのショウの言葉を背中に受けながら。
次の日から毎日、ショウ達三人は、その場所に通っている。そして、文字の解読に夢中になっていったんだ。




