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ノーウェアマンのショウ。それが俺の父親だ。死んでから三十年が経つっていうのに、いまだに有名人だ。俺は一度も会ったことがないが、その存在を感じない日はなかった。ノーウェアマンの曲は今でも毎日のようにどこかの街で流れている。俺はそんなノーウェアマンが大好きだが、正直に言って、ショウが俺の父親だってことにはずっと違和感を覚えていた。身近な存在ではあるけれど、一度も会ったことがないんだから仕方がない。俺はずっと、母親がショウの大ファンなんだって思っていた。家のあちこちで感じるショウの面影は、母親のコレクションだと考えていたわけだ。あなたのお父さんなのよと言われても、はいそうですかとは信じられなかった。
しかし、父親の血ってのは強いもんだな。俺の顔は、いつの頃からか、部屋のあちこちに飾られているショウにソックリになっていたんだよ。
少しずつではあるが、俺は身体の中にあるショウの存在を感じるようになっていた。新しいことに対して血が騒ぐ。誰もやったことがないことへの興味が強い。結果俺は、こんな時代にも関わらず、冒険家なんていう肩書きで仕事をしている。
世界中をこの足を使って走り回っている俺の頭に、ある日突然莫大な量の記憶が飛び込んできた。それが三十歳の誕生日だったってことに気がついたのは、その記憶を全て確認した後だったよ。
俺は父親であるショウが生きていた頃のことを、当然のことながら全く知らなかった。その伝説や残された記録は見聞きしていたが、本当のことは知らない。上辺だけを知っていただけだ。記憶が送られてきたことにより知ったショウの姿は、俺がイメージしていた姿とはまるで違っていた。俺だけが知ったショウの本当の姿を、俺は心にしまおうかとも考えたけれど、そうは出来ない。なんせショウは、世界で最高のロックンローラーだ。この世界を作り出したヒーローでもある。真実を知りたい連中は多い。俺はその期待に応えるべく、ショウの物語を語る決意をした。