涙
柔らかいパンに、塩気の効いた燻製肉とチーズ、シャキッとした葉野菜が本当に美味しい。
さっきまで、床に落ちたカチカチのパンを水で流し込もうと思っていたのに……。
かなり大きなパンだったけれど一気に食べきり、ワインも水かのようにゴクゴクと飲み、わたしは久しぶりにお腹が満たされ、幸せな気持ちになった。
「……最後にちゃんとした食事ができて、嬉しいわ。料理長にお礼を伝えてちょうだい。ローラも、お義母様にばれたら辛くあたられるでしょうに、よく来てくれたわね、ありがとう」
「わたしはエリスお嬢様の侍女です! 当たり前の事です!」
ローラはそう言ってくれたけれど、決して、そうではない。
「本当にありがとう……これまで、いくら皇太子の婚約者とはいえ、実母ではない侯爵夫人が取り仕切るこの侯爵家でわたしの侍女をするのは、肩身の狭い思いを沢山したでしょう」
「いえ、いえ! わたしはエリスお嬢様にお仕えできて、本当に幸せでした」
ずっと、わたしに仕えてくれていたローラ。
剣術の稽古で傷をつくったり、アレクシ様がシャルロットに心変わりしたり、戦争に行くことになったり……心配ばかりかけてしまった。
「……あなたを連れて、宮殿へ行きたかったわ」
ふいに出た言葉に、自分自身が驚いてしまった。
そして、初めて涙が出た。
そう。わたしは幸せになりたかった。
これまで努力してきた事を、無駄にしたくなかった。
だって、あんなに辛かったんだもの。
さっきシャルロットは『自分の方が頭もよくて剣術もできると思っている』とわたしを責めたけれど、あれはきっと、周りにそう言われ、比べられたのが悔しかったのでしょう。
でも、だからといって、自分も同じように努力をしようとはしなかったじゃない!
わたしがどれだけ苦労をして、辛い思いをしたか、知ろうともしなかったでしょう。
わたしは、本当に、必死に努力をしたのに!
アレクシ様の愛情が消えても、国の為に出来る事をし、国を発展させたかった。
民達の生活を良くするためできる事も沢山考えていた。
良い皇后になれると思っていた。
そして、ずっとわたしに良くしてくれたローラに、美しい宮殿で、皇后の侍女として、誇らしい思いをして欲しかった。
それが、アレクシ様の心をシャルロットに奪われてからの、わたしを支えていた希望だったのに……、
「ごめんなさい……ローラ……一緒に……」
「何を仰るんですか、お嬢様。わたしは、本当に幸せでした。でも……エリスお嬢様が、なぜこんな辛い目にあわなければならないのか……わたしは絶対に、納得できません」
悲しくて、辛くて。
わたし達は抱き合って、ただただ泣くしかなかった。
美味しい物を食べれば、ちょっと気持ちが上向きます。