絶望
「ああ……なんて事……」
薄暗い部屋の中で、わたしは耐えきれず、声を出した。
「アレクシ様……なんて事をなさったのです……婚約を解消したいのなら、言ってくれれば良かったものを、話もせず、戦をしてしまうなんて……」
なんと短絡的で、浅はかな考えだろう。
皇帝となるべき人物がする事ではない。
アレクシ様は優しく、聡明な方だと思ってきたけれど……、
「なんと愚かな……」
大切な兵が、民が、この戦で大勢亡くなった。
戦に負け、多額の賠償金を払い、大切な領地を失った。
シャルロットは大した損害ではないと思っているようだけれど、そんなことはない。
なにより皇太子殿下が、先見の明を持たず、統率能力が無く、操りやすい人物だと侮られてしまった。
そうなると、自分に都合が良いように利用しようとする者が増えるだろう。
血筋の良い者は、自分がとってかわろうとするかもしれない。
「つけこまれる隙を、与えてはいけないのに……」
戦がおきそうだと知った時、どうにか止めなければと思い、アレクシ様に会いに行って面会を断られた後は、何度も手紙を送ったり……そうやってわたしが必死になって止めようとしていたこの戦が、邪魔な皇太子妃候補のわたしを亡き者にしようと仕組まれたものだったなんて……。
「戦などするより、何か理由をつけてわたしを修道院にでも送る方が簡単だったでしょうに……」
アレクシ様は、わたしと向き合い、話し合う事が嫌で、こんな愚かな選択をしてしまったのだ。
そしてシャルロットは、戦によって利益を得たい者に、いいように使われてしまった。
ああ、今後の事が心配だ。
深く物事を考えず、目の前の事をとりあえず自分に都合のいいようにしようとする皇太子に、何もかも、自分の思い通りになると思っている皇太子妃なんて、貴族達からしたら、なんと取り入りやすく、利用しやすい存在か。
皇后となるまでに、シャルロットがしっかりと責任と自覚を持てばいいけれど。
「……いくらなんでも、結婚前にはお后教育はされるわよね……」
そんな事を考え……わたしは、大きく息を吐いた。
……もう、いいだろう。
努力しても認められず、裏切られ、疎まれ、捨てられ、賠償金を減らすために差し出される。
それなのに、死を目前にしてまで、裏切った相手の事を心配し、わたしを捨てた帝国の未来を憂い、どうにかしようだなんて……そんな事、もう考えなくていいだろう。
息を吐き、わたしは目を閉じた。
……少し……少し休もう。
もう、疲れた……。
何も考えたくないほどに……。
……。