定例会議
コツコツコツコツ
ガルシア帝国の皇太子であるアレクシは、先ほどから会議室のテーブルを人差し指でコツコツと叩いていた。
ガルシア帝国の皇帝、皇太子、重臣が集まっての定例会議。
進行役の男が、資料を読み上げる。
「それでは、次の議題ですが、南部の水不足による穀物の収穫量の減少についてです」
「……今年南部の方は日照り続きで、雨が少なかったという報告は受けている。冬は越せそうなのか?」
皇帝の問いに、南部代表の貴族が答える。
「はい、このような事態の為に雑穀の栽培や利用にも力を入れておりましたし、試験的に育てていた小麦はしっかり育ってくれたので、税金を下げていただければどうにかなりそうです」
「それは良かった。期限付きで減税をする方向で調整をしろ。……ところで、試験的に栽培していた小麦とは、例の……」
「はい、えー……皇太子殿下の前の婚約者だった方が支援していた研究所の物でございます……」
「ふむ……」
コツ……
アレクシの指が止まった。
『……またか……』
苦々しく思いながら、足を組み直す。
「やはり、研究は続けた方が良かったのでは?」
皇帝の従弟である公爵の言葉に、重臣達が論議を始める。
「アビシニ公爵、貴方もこれ以上の研究は必要無いと言っていたではないですか」
「あの時はそう思いましたがね、状況が変われば意見も変わるというものですよ。それとも、モトール卿は、一度決めた事は一生そのまま、というお考えで?」
「い、いや、そうではありませんが……」
「あの時は予算を割けなかったから、仕方なく閉所としたんです。もっとも、これほど重要な研究を、帝国の予算ではなく皇太子の婚約者の援助で行っていた、というのですからねぇ、おかしな話ですよ」
アビシニ公爵の言葉に、多くが頷いたが、
「あれは元々、個人の考えで設立された研究所だ。その者が居なくなったから閉所したまで。おかしな事など何もない」
皇帝がピシャリと言い、貴族達は無言になった。
「だが、今回の結果と今後の帝国の為に、あのような研究が必要という事も事実。今すぐにではないが、今後帝国の研究機関として設立する事を検討する事とする。……次」
「かしこまりました。えー、次の議題は、ブロケット国との貿易についてです。先日、ブロケット国より、ガルシア帝国との貿易を停止するとの連絡がありました」
その言葉に、会議室がザワザワと騒がしくなる。
「ブロケットと交易が停止すると、貴族も平民も大きな打撃を受けることになります。どうにか回避しなくては!」
「そうです! そもそも、なぜ停止するなどと……」
「……現、皇太子婚約者様が、ブロケットの姫を侮辱したからですよね? この間の夜会で姫のドレスを『レースが流行遅れ』と言って」
「本当ですか? アビシニ公爵。シャルロット・ルロワ嬢が、ブロケットの伝統あるレースに対してそのような事を?」
「ええ、ちょうど近くにおりまして、耳に入りました。あのレースは我が帝国でも輸入をし、その代わりに絹を買ってもらっているのに……」
「そのくらいならいいですが、ブロケットからは大量の塩を買っているのですよ? それに最近あそこでは貴重な鉱物が出たという噂も聞きますし……それらが全て買えなくなったら、大変な事になりますよ!」
「……まったく……困ったものですなぁ」
自分の方をチラチラと見ながら言われる言葉に、アレクシは再び、指で机を叩き始めた。
イライラ。




