花のようなシャルロット
『一緒にこの国の事を考えてくれるのがエリスで良かった。ずっと一緒にこの国の為に努力していこう。君となら、僕はきっと良い皇帝になれる』
そう言って下さったアレクシ様は、社交界デビューしたシャルロットを一目見て、すぐに彼女を愛するようになった。
……仕方のない事。
闇夜のような色の髪と瞳のわたしと、光り輝く髪と瞳のシャルロットは、比べものにならない。
いくら所作が美しくても、ダンスが上手でも、シャルロットの笑顔には敵わない。
だからアレクシ様にとって、皇后となるための勉強をし、剣術まで学んだわたしより、何も学んでいなくても妖精のように愛らしいシャルロットの方が大切で、必要な存在となったのも無理はない。
「戦で死んでいれば、こんな惨めな思いしなくてすんだのに。ねえ、お姉様?」
「…………」
何とも言いようがないので、わたしは再びパンをちぎって食べようとしたのだけれど、
「無視してるんじゃないわよ!」
パシッとパンを叩き落された。
「なんか言ったらどうなの? 悔しいでしょう? 今まで努力してきたことが、ぜーんぶ水の泡。馬鹿にしていたわたしに負けたのよ。いい気味だわ」
「……シャルロット、わたしはあなたを馬鹿にしたことなんてないわ。あなたの事は、ずっと、大切な妹だと思っていた」
「嘘よ! 死んだ自分の母親の方が身分が高かったとか、自分の方が頭がいいとか、剣術もできるとか、皇太子の婚約者だとか……そう思って、ずっとわたしを馬鹿にしてきたんでしょう?」
「誰に言われた事を、わたしの言葉だと、わたしの考えだと思ったの?」
「ッ……だ、誰に言われたわけでもないわ!」
「では、あなたの勝手な思い込みね。わたしの考えとは違う」
「うるさいっ!」
癇癪を起したシャルロットが、わたしの顔をめがけて手を振り下ろしたけれど、幼い頃から剣術を習ってきたわたしには、簡単に避けられるものだった。
避けられた事で、苛立ったように唇を噛み、睨んでくるシャルロット。
やがて、フッと表情を緩め、花が咲くかのように笑った。
「なんとでも、言えばいいわ。腹が立つけど、あなたのその不細工な顔を見るのも今日で最後だものね。フフフ、アレクシ様は、わたしの言う事ならなんでも聞いてくれるのよ。ドレスだって宝石だって、なんだって買って下さるわ。お姉様は、何ももらえなかったでしょう? 愛されていなかったのよ」
「そうかもしれないわね」
わたしの答えに、シャルロットは満足しなかったらしい。
「そういうところがムカつくのよ。本当は悔しいくせに、すました顔して……じゃあ、これはどう? 今回の戦は、わたしがアレクシ様に提案したのよ」
「えっ?」
……何を、言っているの?
「あなた、一体何を……」
動揺するわたしを見て、シャルロットは嬉しそうに微笑んだ。
パンがっ!