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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
98/127

38. 粋華と稜、異世界人同士の出会い


 魔獣の群れから充分離れた私達は、影から出た。


 連れ去って来た男性を確認し、私は固まる。

 目の前の青年も、驚いた顔で私を見た。

 連れ去る前は遠くからしか姿を見てなかったから、こんな顔だとは分からなかった。

 マークが言っていた、私と同じ魔力って、そういうことか!

 私は緊張しながら口を開いた。


「初めまして。私は丸井(まるい)粋華(すいか)っていいます。あなたは……日本人ですか?」


 日本語で話しかけると、青年は、あははは……と、力ない笑い声を漏らした。

「……もう、来てくれないかと思ってた」

 ペタンと地面に座り込んだ青年は、下を向いて肩を震わせている。

「ねえマーク……。どうしたんだろう」

 マークは青年へとフワフワ飛んでいき、顔を覗き込む。


 青年はマークを見ると顔を上げた。

「フィアリーズか」

 そう言った顔は笑っていた。

 ほっ……泣いていたんじゃなかった。

 安心して笑顔を向けた私に、青年は失礼な事を言い放った。


「ププッ、なあ、“丸いスイカ”って、本名か?」


 !!!


 青年の暴言にプンスカ怒りながら、私は鼻息荒くする。

「本名ですよ! 親が付けてくれた名前に、失礼ですよ!?」

 悪い悪いと笑う青年に、ムッとしながら問うた。

「私が名乗ったんですから、あなたも名乗ったらどうですか!?」


「ああ、そっか。俺の名前は丹参院(たんさんいん)(りょう)。高校生だ」


 ん?

 炭酸飲料……?

 私は首を傾げながら聞いた。


「……それって、人の名前ですか?」


「お前の方が失礼だろうが!! 炭酸飲料じゃない! 丹参院、稜だ!!」


 稜は漢字を地面に書いてみせた。

 ああ、丹参院、稜ね!

 ややこしい……

「稜くんね……。えへ、ごめんごめん」

 私はいつものように、笑って誤魔化しておくことにした。


 稜くんは、キョロキョロと周りを見回し、不審そうにミントとマリアに目をやった。

「なあ、こいつら何なの?」

「ああ、この子達もフィアリーズなんですよ。私が作った粘土の中に入ってもらっているんです」

 へ? どういう事!? と首を捻っている。

 稜くんはどうやら、異世界人の能力を知らないらしい。


 そんな事より!! と私は稜くんに詰め寄る。

「どうしてドラゴンの背中に乗ってたんですか!? あいつらとの関係は!?」

 稜は、うっ……と、気まずそうに目を逸らした。

「えっと……どこから話そうかな……」

 稜は、どんどん険しく辛そうな顔になっていく。

 何か嫌なことがあったのかな?


「……稜くん、大丈夫ですよ。ゆっくりでいいから話してください」

 私は座っている稜くんの肩に手を置くと、なるべく穏やかに話しかけた。

 稜は優しく笑う粋華を見上げた。

「……スイカ……さんって、あのフィアリーズにちょっと似てるな」

「あのフィアリーズ?」

「ああ、水色の髪のフィアリーズ、って言っても分からないよな。……悪い、全部話すよ」

 稜は首を横に振ると顔を上げ、ぽつりぽつりと話し始めた。


 すべてを聞き終わった粋華は、辛そうに顔を伏せた。

「……そんな事があったんだ。稜くんが魔王……」

 なんでお前がそんな顔するんだよ?

 稜は再び粋華から目を逸らした。

 粋華は稜の背をゆっくりと撫でた。

「……大丈夫。稜くんのせいじゃないから。そのドラゴンに逆らったら、殺されていたかもしれないんでしょ? ……でも、そっかぁ。うん! それって、そういう事だよね」

「そうだね!」

 粋華とマークはお互いを見て頷き合う。


「何がそういう事なんだよ!?」

 声を上げた稜に、マークはニッコリと微笑んだ。

「初めまして、僕はフィアリーズのマーク。よろしくね!」

「え!? ああ、初めまして。……よろしく」

 丁寧なお辞儀をしたマークに、稜も頭を下げた。


「ふふ。君はそのドラゴンの……クラフティだっけ? そいつに利用されていたんだよ。君がいなくなって、今、魔獣の群れは大混乱だと思うよ」

 稜はキョトンとした視線で返す。

「は!? 俺がいなくなっただけで大混乱!? 待って、そんな訳ないだろ!? だって、クラフティやオルーアもいるんだし!」

 そんな稜に、粋華とマークは頭を横に振った。


「稜くんは知らなかったみたいだけど、私達、異世界人が作った料理は魔獣や魔物にとって、すっごいご馳走みたいなんだよね」

「うん! フィアリーズにとってもね! もう虜になっちゃうくらい!!」

 マークが力説する。

「はあ? 俺の作った料理が?」

 不思議そうに稜は首を傾げる。


「そう! 毎日、毎日、料理を作らされていたんでしょ? そのおかげで、奴らは群れを保っていられたんだよ。大体さぁ、そんな種類もバラバラの魔獣たちが群れになるなんて、僕、見た事も聞いた事もないもん!」


 俺の作らされてた料理に、そんな意味があったなんて……!!


 愕然としている稜に構わず、粋華とマーク、その他のフィアリーズ達は顔を合わせ、今後の作戦を考える。

「……まずは、魔獣の群れが、今後どうするか……だよね」

 粋華は顎に手をやり、頭を傾げる。

「多分、王都へ行くのは中断して、リョウを探し始めるんじゃないかな?」

 マークの言葉を聞き、稜はブルッと身を震わせた。

 もうあいつらの元へは帰りたくない!

 最初はクラフティに助けてもらったと思ってた。

 けど、奴は俺の……異世界人の力を利用したかっただけなんだ。


「スイカ……」

 不安そうな俺に気付くと、粋華は力強く頷いた。

「任せて稜くん! もう魔獣たちの元へは返さないから! ……でも、協力は……してもらいたいなぁ……」

『そうですわね。リョウ様なら、もしかしたら魔獣たちの侵攻を止めることが出来るかもしれませんわ。あ、私はフィアリーズのマリアと申します。どうぞよろしくお願いいたします』

 優雅にスカートを持ってお辞儀をした。

 稜はお辞儀を返しながらも不安そうだ。


「……俺に何が出来るんだ?」


 うーん……どうする?

 稜くんが言っていた、北の砦の人達も気になるし、襲われた村の人達も気になる!

 もしかしたら、まだ生きている人達がいるかもしれない。

 でも、魔獣の群れをこのまま放置していく訳にもいかないし……


 もう日が暮れかけ、辺りは闇に包まれていく。

「とりあえず、魔獣の群れはこのまま進んでも、すぐには王都には辿りつかないよね?」

「そうだね。あのスピードなら、まだ何日もかかるんじゃない?」

「あっ! でも、王都は大丈夫でも、周りの村が……」

 いいかけた私の言葉に、ミントが口を開いた。

『あの群れの周りには、村はないみたいだったよ。群れを探している時、周りを飛んだけど森ばっかりだったよね』


 おお、そっかぁ……

 じゃあ、とりあえず今日は緊急の事態は起こらないって事だね。


『スイ様、このまま北の砦に向かうには時間が遅すぎますし、一旦、王都に戻ってはどうでしょう。今からなら、夜遅くになりますが、日付が変わる前には辿り着けるかと……』

 マリアさんがおずおずと進言してくれた。


 うっ……黙って出て来た手前、群れを放置したまま帰りにくいんだけどな……

「ねえ、スイ。リョウもとっても疲れてそうだよ。野宿は可哀そうじゃない?」

 マークの言葉に、稜くんを振り返った。


「俺……もう何日も野宿してるから慣れてるし、……平気だよ」

 言葉とは裏腹に、元気のない声で稜は言った。

 確かに疲れてるね……


「……でも、王都に入ったら、もっと疲れることになるかも」


「え!?」


 稜は驚いて粋華を見た。

 粋華は苦笑いをすると、鞄から携帯食料の硬いパンと干し肉を取り出し、稜と共に食べた。

 食べ終えた二人は、ミントに跨る。


「よし、王都へしゅっぱーつ!!」



「うわっ、スゲー! クラフティも凄かったけど、こいつ、物凄く速い!」

 俺は興奮しながらも、思わずスイカの腰にギュッと捕まった。

「そうでしょう、そうでしょう! ドラゴンにだって負けないよ。ミントは凄いんだから!」

 粋華は鼻高々に答えた。

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。ミントの体は安全性重視で作ったから! どんなに早く飛んでも、振り落とされる心配なし!!」

 粋華は自信満々だが、いまいち信じられない俺は、しっかり腰に捕まったままだ。



 深夜、王都に着いた粋華たちは、城壁を越えた行きとは違い、ちゃんと裏門から王都に入る。

 そんな粋華たちは、やはり粋華の予想した通り、ゆっくりと休ませてはもらえなかったのだった。



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