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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
95/127

35. 監獄の要塞

 

 桃色の長い髪を持つ少女のフィアリーズと、水色の短髪の少年のフィアリーズ。その二人を値踏みするように、オルーアはじっとりと睨んだ。

 出した結論はスパーリよりも、現実的なものだった。

「逃げましょう、スパーリ!」

 即座に撤退を決断したオルーアを、スパーリは無視して身構えた。

「逃げるなら、勝手に一人で逃げろよ」


 可愛らしい少年のフィアリーズは、その姿に似合わず、落ち着いた口調で目の前の魔物に話しかける。

「この奥に異世界人がいるのは分かっています。何故、あなた達が異世界人を必要としているのですか?」

「教える筋合いはないなぁ。力ずくで聞き出したらいいんじゃないか?」

 挑発するようなスパーリの物言いに、少女のフィアリーズがいら立った。

「こんな奴らと話すことないわ! さっさとあの子を助け出しましょう!」

 少女は小さな手に魔力を溜めると、瞬時に凄まじい威力の塊となり、それをスパーリに向かって放った。

 ドドーン!!

「うっ!」

 一瞬、はじき返してやろうと構えたスパーリだったが、とっさに無理と判断し、ギリギリで避けた。

 スパーリの速さでなければ、避ける事は不可能だっただろう。家の壁が一面、綺麗になくなっていた。


「無理よ、スパーリ! 逃げるのよ!」

 建物の外へ出たオルーアが、スパーリに声を掛けるが、彼の返事を聞かず彼女はその場から逃げ去った。


 距離を取ったスパーリは、風の刃を仲良く並んで浮かんでいるフィアリーズに向けて放った。

 彼らは顔色一つ変えることなく、風の刃を見つめている。

 少年のフィアリーズが手を前に出すと、彼らに当たる直前に、風の刃は、跡形もなくフッと消えた。

「なんなんだよ、お前らは……! こんなフィアリーズ、見た事ねえよ!?」

 スパーリは、今度は岩の刃と風の刃を織り交ぜながら、何十と放った。

 二人のフィアリーズは両手を前に出すと、全く避けることなく、全てを消し去っている。


 スパーリはその僅かな隙に奥の部屋へと移動すると、扉を蹴破り、驚く稜を肩に担ぎ上げた。

 そして、その部屋の窓を蹴破り外へ飛び出すと、後ろを振り返ることなく、全速力で走り出した。

「ありゃ駄目だ! 俺一人じゃ、とても敵わねえ!」

「何だよ!? 何が来たんだよ!?」

 稜は激しく揺られながら、必死に問いかけたが、スパーリの返事はない。

 ただ、彼は全力で走り続けるだけだ。



 数分後、息を切らせながら、スパーリは稜を下ろした。

 そこは、見通しのいい草原だった。

 この数分で、彼らはかなりの距離を移動していた。


「ここまで来れば大丈夫か……?」

 スパーリは、しきりに後ろを気にしている。

「誰だったんだよ!?」

 稜は肩が当たっていた腹を押さえながら聞いた。

 腹も痛いし、激しく揺られていたので、頭もフラフラする。

「………」

 いつも軽口をたたいているスパーリが、言いにくそうに顔をしかめた。


 俺に知られたら都合が悪い相手か……?

 稜は、ドラゴンや魔物たちが自分に隠し事をしているのは知っていた。この世界の事も、あまり詳しく教えてくれない。


 その時、スパーリはハッと周りを見回した。

「ああー……、やっと追いついたー……」

 可愛らしい少女の声がする。

「え!? 誰だ!?」

 稜は周りを探すが、自分とスパーリ意外、誰もいない。

 すると、稜たちから少し離れた所に、突然、二人の小さな羽の生えた妖精が、パッと現れた。


「わっ! 妖精!?」

 稜は目を大きく開けて、二人を見つめた。

「あら!? 違うわ、人違いよ!?」

「本当だ!……でも、異世界人なのは間違いないようだよ」

 フィアリーズ二人と稜は、お互いに驚いて相手を見つめている。


「こいつらはフィアリーズだ」

 スパーリが苦々しい声で言った。

「フィアリーズ!? 妖精じゃないの!?」

 桃色の髪のフィアリーズが稜に近寄った。

「ええ、私達はフィアリーズ。妖精のようなものよ。久々に日本語を聞いたわ。あなたは日本人よね。いつこっちに来たの?」

「えっと……5カ月くらい前かな?」

 稜は考えながら答えた。

 と、その時突然、スパーリは稜の腕を引っ張った。

「こいっ!」

 強引に連れ去ろうとするスパーリに向け、攻撃を仕掛けようと身構えたフィアリーズだったが……


 パキーン!!


 甲高い音が鳴り響くと、稜とフィアリーズの間に、透明な壁が出来ていた。

「えっ!? 何これ!?」

 桃色の髪のフィアリーズが焦って目の前の壁をペタペタと触る。

「こっちに!!」

 水色の髪のフィアリーズが、桃色のフィアリーズの腕を引いた。

 しかし、動いた先にも透明な壁が出来ていた。

「ええっ!?」

 フィアリーズ二人の周りは全て、透明な壁で覆われていた。

「下がって!」

 水色のフィアリーズは壁に向かって、手に溜めた魔力を放った。


 ドガーン!!


 大きな煙が上がるも、壁はヒビ一つ入っていない。

「今度は私が!」

 桃色のフィアリーズが両手に魔力を溜めると、「とりゃあーー!!」と気合を入れて壁にぶつける。

 しかし、やはり壁は壊れない。


『フフフフ、安心したわい。我の牢獄からは逃げられんようだ』 

 上空から声がする。

 稜らが上を見ると、ドラゴンが遥か上空から、ゆっくりと降りて来た。

「クラフティ……」

 それは、よく見なれた青いドラゴンだった。

『自分達の力を過信し、油断していたようだな。あっさりと我の魔法に囚われおったわ』

 その後ろから、今度は鮮やかなクジャクが降りて来た。

「私が連れて来てあげたのよ。感謝してよね」

 クジャクはくすくす笑いながらスパーリを見た。

「ケッ!」

 スパーリは面白くなさそうにそっぽを向いた。


「ここから出しなさい!」

 桃色のフィアリーズが壁をドンドンと叩いている。

『ふん。これは我の牢獄の要塞。誰にも破れはしない鉄壁の壁だ。本来は自分の身を守る為の魔法だが、こうも使える』

 ドラゴンはフィアリーズ達に手の平を向けると、ゆっくりと手を握っていく。すると、フィアリーズを取り囲んだ壁が、だんだんと小さく狭くなっていく。

「きゃあ!」

「ぐっ!」

 フィアリーズは迫って来る壁に、恐怖の声を上げた。

『このまま、押しつぶされてしまえ!!』

 ドラゴンは伸ばした手を、ギュッと握りしめた。


「そうはいくか!」

 水色の髪のフィアリーズは、桃色の髪のフィアリーズの手を取る。

 お互いに見つめ合うと、頷き合い、目を閉じた。

 すると、二人の体が眩い光に包まれた。

『何!?』

 ドラゴンは何度も何度も手を握りしめる。

 稜は光の中のフィアリーズを、目を細めてよく見た。

 二人を包む光が、迫って来る壁を押し返しているように見える。

 しばらくドラゴンとフィアリーズの攻防は続いたが、結局、ドラゴンは諦めて手を下ろした。

『ふん、まあいい。どうせお前らはそこから出ることは出来ないんだからな。魔力が尽きて死ぬまで、永遠にその中だ!』


 稜は、フィアリーズに近づいた。

「………」

 なんと声を掛けたらいいか分からず、二人の前で立ち尽くす。

 この人たちは、俺を異世界人だと、日本人だと言った。

 この人達なら、帰る方法も分かるかもしれない。

 ……でも、クラフティ達にとっては敵になるようで、こんな所に閉じ込められてしまった。


 俺は、そっと透明な壁に触ってみた。

 グッと力を込めて押してみたが、ビクともしない。プラスチックやガラスとは違うようだ。

 目の前に手掛かりがあるのに……!

 稜は泣きそうな顔で二人のフィアリーズを見た。

 桃色の髪のフィアリーズは、意を決したように稜を見つめ返した。

「……あなたの他にも異世界人はいます。きっと助かるから、諦めないで」

 稜にだけ届く小さな声で、そう告げた。

「え……?」


『帰るぞ』

 クラフティ達には、フィアリーズの言葉は聞こえなかったようだ。

 有無を言わさず稜を後ろ脚で掴むと、空を飛んで元居た集落へと帰っていく。

 フィアリーズ二人は、そこから動けないまま、稜たちを見送った。


 俺の他にも異世界人がいる……?

 稜の頭の中は、その事でいっぱいだった。


 

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