表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
92/127

32. 死地への旅立ち


「うむ、上手いぞ」

「あー良かった! 昨日はありがとうね」


 昨日はせっかくレオンとソイルにマドレーヌを持ってきたのに、なんやかんやでイスメーネさんに全部食べられてしまった。改めて今日作ったクッキーを持ってきた私は、二人に誘われ一緒にお茶の時間を楽しんでいる。

 ソイルはジンジャークッキーを気に入ったようで、パクパクと食べ続けている。

「それにしても、昨日の夜はあんな騒ぎになっちゃってビックリしたよ~」

「お前、強引だったもんな」

 レオンはクッキーを頬張りながら、恨みがましい目で見てくる。

「うん。後で考えたら、疲れすぎてて、冷静な判断力を失ってたんだと思う。巻き込んじゃってごめんね」

 えへへと笑って誤魔化しておく。


「それは、まあいいんだけどさ。お前、大丈夫なのか? 魔物に目を付けられてるんだろ?」

 私は、うっ、と言葉に詰まる。

 うーん……そうなんだよね。

 どうしたらいいのかなぁ。

 向こうは私の居場所が分かってるんだし、また魔物がいつ王都に現れてもおかしくない。魔物が入れないように、ちゃんと結界は張ってあるみたいだけどね。

「とりあえず、王都から出なければ大丈夫みたいだけど……」

「それか、こっちから仕掛けるかだよな」

 レオンはニッと笑った。

「う、うん。そうだね……」

 相手は多分、何人もの魔物たちだよ!?

 それはご勘弁願いたい……


 重い足取りで部屋へと戻る途中、ベットが慌てた様子で飛んできた。

「ああ! スイさん、ここにいたの!?」

「ベット!」

 そんなに慌ててどうしたんだろう?

 ベットは深刻な顔で私の耳に近づいた。

 何か嫌な予感がする……


「スイさん、心して聞いてね。フィアリーズ達の情報によると、北の国境付近に、魔獣の大群がいるらしいの。そして、どんどん数を増やしてるみたい。どうやら魔物がそれを指示しているようなのよ」

「魔獣の大群!?」

 驚いて声が大きくなる。

 ベットはシッと口の前に人差し指を立てた。

「もしかしたら、王都に侵攻して来る気かもしれないわ」

「ええ!? じゃあ……それを王都で迎え討つの?」

 ベットは、うーん……と考える。

「……それは、王が判断すると思うけど……。それより問題は、奴らの狙いはスイさんかもしれないって事よ」

 !?

 わ、私……?


「……えっと、それって、私がいるせいで王都が襲われるかもしれないって事?」

 ベットは困った顔で小さく頷いた。

「あ、やっぱり……」

 ああ、頭がグワングワンする……

「とにかく、魔物や魔獣の群れの対応は私や王が考えるから、スイさんは心構えだけしておいてね」

 力強く私の目を見て言った。

 私は無言で頷く。

「スイ……」

 マークが心配そうに私の顔を覗き込んだ。


 部屋に戻りと、元気のない私をフィアリーズのみんなが心配してくれる。

「マーク……このまま私が王都にいてもいいのかなぁ……」

 部屋の中を飛び回るマークを眺めながら呟く。

 マークはピタッと動きを止める。

「でも、どうするっていうの?」

 私はマークを黙って見つめ返した。



 ----------



 翌日、今日も休みの私は、いつもの厨房で、昨日失敗したパウンドケーキを作ってみた。

 型から取り出し切り分けて、一つ試食してみる。

「うん! これなら大丈夫そう!」

 ここの薪オーブンにも随分慣れてきて、まるで自分専用のキッチンのようだ。

 私はぐるっと厨房内を見回す。

 ここには、何度もお世話になったなぁ……

「あ、早く包んで持って行こう!」

 バスケットを抱えて、イスメーネさんのいる研究室へと向かった。


「スイです。お菓子をお持ちしました」

「おお! 入ってこい」

 研究室の扉を開けると、今日も昨日会った若い魔導士たちが、やつれた顔でこちらを振り返った。

 また、昨日のように一緒にお茶をして、その後、イスメーネさんと二人になった。

「昨日の話だがな。お前にはいずれ新たな孤児院を作り、そこの院長になってもらおうと思う」

「えっ!? 私が院長!?」

「ああ、上手くいくようなら、各町にも同様の物を作っていこう。王家から資金は多少出るが、あまり期待はするな。私が出資しよう」

「ええっ!? イスメーネさんが!?」

「ああ、でも、お前も資金を都合してくれると助かる。後は、風呂か。町に大衆浴場を作りたいんだったな。それが上手く行けば、多少資金は稼げるか……」

 イスメーネさんは一人でうんうん頷いている。

 そんなサクッと昨日の今日で決めちゃって大丈夫なの!?

「あの……とても嬉しいんですけど、いろいろ許可とか大丈夫なんでしょうか?」

「ん? 心配するな。私の言う事に逆らう奴なんていないからな」

 サラッとなんでもない事のように言う。

 イスメーネさんって何者!? どれほどの権力があるんだ!?

 まさか、王様も彼女には逆らえないんじゃ……?

 なーんて、そんな訳ないか。……ないよね?


 話が終わり席を立つと、私は深々と頭を下げた。

「私の願いを聞き入れてくれて、ありがとうございます。無事に戻って来れたら、ぜひお願いします」

 イスメーネさんは、首を傾げ私を見た。

「ん? 何処かに行くのか?」

「あ! いえ。どうぞ、よろしくお願いします!」

 私は顔を上げると、またまた元気よく頭を下げた。

「うむ、感謝するといい」

 彼女は満足そうに微笑んだ。


 廊下に出て、部屋の扉を閉める直前、彼女の声が聞こえた。

「ああ、言い忘れたが、お前は私の養子になるからな」

 私は閉めようとしていた扉を勢いよく開けて、聞き返した。

「はい!?」

「決定事項だ。お前にとっては何も悪いことはない。身分が保証されるんだからな。王だって、勝手に手出しは出来なくなるぞ。いいこと尽くめだろう?」

「………」

 私の為に言ってくれてるって思っていいのかな……?

 イスメーネは、戸惑う私に優しく微笑んだ。

 

 湧魔棟の廊下を歩いていく先に、クラウディオさんの姿が見えた。

 彼も今日は休みのはずだが、しっかりと制服を着ている。彼は立場的に、あまり休めないようだ。

「話は終わったか」

 尋ねられ、私は首を傾げる。

「話って……何か聞いてたんですか?」

「ああ、彼女の養子になるんだろう」

 クラウディオさんも知ってたんだ!


「お前はこの国や他国に利用されやすい立場にある。彼女の養子に入れば、滅多な事がないかぎり大丈夫だ。俺が貴族か、もっと権力があれば俺の養子に入るという手もあったんだが……」

 ええ!?

 クラウディオさんの養子!?

 ……でも、そうなんだ。

 イスメーネさんもクラウディオさんも私の事を心配してくれてるんだね……


 俯く粋華を、クラウディオは心配そうに覗き込む。

「どうしたんだ? 何かあったか?」

「……いえ! ありがとうございます」

 みんな優しい……

 この世界の人達は優しい人ばっかりだ。

 私は顔を上げると、にっこりと微笑んだ。

「みんな、本当に優しいです。私は幸せ者ですね。みんな大好きです」

「ど、どうしたんだ急に」

 クラウディオは戸惑いながら、僅かに頬を染めた。



 ----------



 翌日、日が昇る前に目覚め、用意しておいた服に着替えていく。私が起き出した気配に、珍しく同じ部屋で寝ていたマークが目を覚ました。眠そうに目をこすりながら、黙々と準備をする私に顔を向ける。

「スイ、本当に気は変わらないの?」

 心配そうに私を見上げる。

「うん、アージルが戻って来たらって思ったけど、のんびりしてたら間に合わないかもしれないでしょ?」

『スイ様……』

 私は不安そうな顔をするマリアと、私を取り囲むフィアリーズ達の顔を順番に見る。


「みんなを危険な目に合わせちゃうけど、ごめんね」

『ワイとスイは一蓮托生や! スイが行くところ、ワイは何処へだって行くで!』  

「うん、ありがとうライディ」

『スイが行くなら、僕も行く』

『……しょうがないね』

 ミントとシェルに向かって微笑む。

「ありがとう!」

 マリアは、そんなやり取りを見て、ふっと笑った。

『私もお供いたしますわ。スイ様が心配ですもの』

「ありがとう、マリアさん! マークも、いい?」

 ジッとマークの目を見ると、彼はやれやれと首を振った。

「もちろん! 僕も行くよ!」

 私は、うん!と力強く頷いた。

「……じゃあ、行こう!」


 私は、用意しておいた荷物をミントに乗せると、彼の背に乗る。

 開け放たれた窓から、私達を乗せたミントが、音も立てず飛び立った。

 警備の兵士ら以外はまだ寝静まる早朝、粋華らは誰にも知られる事なく、王都を去った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ