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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第一章
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9. 旅立ち


『私はこの村に残ることにする。今日から私がこの村を守るのだ!』

 

 粘土ロボ……改め、“正義のヒーロー・ヒック”は村に残ると言い張った。


「まぁ……このくらいの力なら、放置しても支障はないだろう。 村長、何かあった時は、すぐに王都に知らせるように」


 クラウディオは村長に釘を刺す。


「フィアリーズのヒック様がこの村に残ってくださるのは、大変嬉しいことでございます! 今夜も祝いの宴を開かせていただきます!!」


 連日の宴!

 元気だなー……


 村長や村人、そして例の女の子も大変な喜びようだった。


「正義のヒーロー・ヒック様は、この村の守り神になっていただいた! なんと、ありがたいことだ!」


 村人や女の子は涙を流して喜んだ。

 大興奮な村人たちに引き留められたが、騎士たちと私は王都へ向けて早々に出発することとなった。

 まあ、最初からすぐに出発予定だったからね。

 粘土ロボ事件で少々遅れてしまっていた。


「ねえ、ヒック。大丈夫なの? あんまり調子に乗って、羽目を外しすぎないようにね」


 マークからの忠告に、ヒックは笑いながら答えた。


『マーク様! 私のことを見くびらないでいただきたい! この私が、羽目をはずしたり、調子に乗ったりするなどと! 私がいるからには、この村はもう安全! マーク様がいなくなっても、それを上回るパワーを得た私にかかれば、もう怖いものなど何もありませんぞ! 安心して旅立ってくだされ! ワーハッハッハッハ!!』


 マークは目を吊り上げてプルプルと震え出し、全身からブワッと魔力が立ち昇った。


「何が、僕よりパワーが上回るって!? それが調子に乗ってるっていうのー!!」


 そう叫びながら、ヒックに飛び蹴りをくらわした!


『グワーッ!!』


 派手に吹き飛ばされたヒックは、その勢いのまま壁にぶつかりめり込む。

 周りはあっけにとられている。

 崩れる壁からはい出したヒックは、ニヤッと笑うと、『……さ、さすがマーク様……』と言って意識を失った。

 

 私は気になったことをマークに聞いてみた。


「ねえ、マークは粘土ロボに触れるんだね」


「うんっ! 今はフィアリーズが宿って、一体となってるからだと思うよ! それよりも……スイが作った体はすごいね。全然壊れてないや」


 マークは感心したように呟いた。



 すぐに目を覚ましたヒックは、村人達と共に私たちを見送りに出て来てくれた。

 旅支度を終えた私たちは、いよいよ王都に向けて出発だ!

 旅の支度っていっても、私は服を着替えたりするだけなんだけどね。

 村人たちに動きやすそうな服をいただいた。

 私は150センチ代と小柄なので、子供用の服だそうだ。

 いや、この世界の人たちは、全体的に大きすぎだと思う。

 180センチ以上の男の人が、普通にちらほらといる。

 女性でも、160センチはゆうに超えている。

 これから向かう王都には、たくさん人がいるんだろうなぁ。

 ちょっと、緊張してきた。



「聖女様は馬に乗ったことはありますか?」


 一人の若い騎士が私に近づいてきて尋ねる。


「いえっ、ありません。私、馬に乗れないんですが……」


 私は馬の魔獣を見上げた。

 当然のように、頭には立派な角がある。

 馬に角があるのはカッコイイね!


「大丈夫ですよ。申し訳ありませんが馬車の用意はしていませんので、私と一緒に乗っていただきます」


 若い騎士は優しそうな笑顔を見せた。

 茶色の柔らかそうな髪に、綺麗なグリーンの瞳を細めている。


 あ……なんかホッとする顔だなぁ。

 やさしそうな人で良かった。


 若い騎士は、私を持ち上げて馬に乗せてくれる。

 マークは私の肩に座ってワクワクしている。


 馬が走り出すとさすがに緊張したが、1~2時間も乗っていると、だんだん緊張もほぐれてくる。

 この若い騎士は気さくな人で、私を気遣ってかいろいろ話をしてくれた。


「私の名前は、アルフレッド・バートンといいます」


 これでも一応、貴族なんですよと彼は笑った。

  

「聖女様はどんなところに住んでいたんですか?」

 

「あの……聖女様っていうのは、やめてください。私は、丸井粋華(すいか)といいます。“スイ”って呼んでください!」


「いいんですか? では、スイさんと……」


「いえ、ただのスイで大丈夫です」


「ハハッ、了解しました。では、スイ。私のことは“アルフ”って呼んでください」


「分かりました。よろしくお願いします、アルフ。あと、敬語もやめませんか?」


 私たちはお互いを愛称で、敬語もなしで話すことになった。

 私はけっこう人見知りなんだけど、マークやアルフは不思議と親しみやすいんだよね。

 こんなことは今までなかった。とても珍しい事だ。

 私は嬉しくなって、お互いのことを教えあった。

 日本にいた時のこと。叔父さん、叔母さんのこと。大学のこと。

 時々マークも会話に加わった。

 マークの声はアルフには聞こえないので、私が伝えながら。

 彼はこの世界にいる魔獣や魔物、魔法のことを簡単に教えてくれた。


 歳も聞かれたけれど、そこは曖昧にしておいた。

 背が高く、頼りがいのある感じがするアルフなので、当然、年上だと思ったのに、まさかの20歳!

 ついこの間誕生日が来た私より、2つ年下だ!

 向こうは絶対私のほうが若いと思ってるんだろうなぁ。

 まあ、あえて言わずにおこう。

 ……発育悪いと思われちゃうし。


 ……とまあ、歳の話はともかく、他にも王都のことやらを教えてもらいながら、慣れない馬での旅も楽しく過ぎていった。

 だんだんと空が赤く染まり、夕暮れ時にさしかかった。


「スイ。王都までは、まだもう少しかかる。今日は野宿だよ」


 アルフに言われ、私は小さく頷いた。

 うーん、初、野宿! 緊張する~!



挿絵(By みてみん)

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