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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
89/127

29. 混乱する魔導士たち


「うえっ、うえっ、うっ、うっ……」

 泣いている少年、ブレージの周りをオロオロしながらうろつく私。

「ど、どうしたの? えっと、どうしよう……?」

 チラッとレオンに視線を送ると、はぁー……とため息をつかれた。


「と、とりあえず座ろっか……」

 私はブレージの肩を掴んで、レオンのベットに連れて行く。

 彼は涙を流しながらも、大人しく座ってくれた。 

 私は泣きじゃくる彼の背中を撫でながら、涙が収まるのを待った。

 えっと……何故、こんな事に?

 ちょっとレオンの様子を見たら、すぐに部屋に戻って休む予定だったのになぁ……

 今朝からいろいろあって、今はとても疲れている。

 ……でも、泣かせちゃった原因は多分、私だもんね。

 泣いている子供を放置して帰る訳にはいかない。


「私が何か気に障る事を言っちゃったんだよね。ごめん。よかったら訳を話してくれないかな?」

 涙の収まってきたブレージに優しく話しかけてみた。

「うっ、うっ……ふぅ……取り乱して、ごめんなさい……」

 おや?

 割と素直そうな子じゃないか?

「……この王宮にいる魔導士の中で、僕だけフィアリーズが見えないんだ。最近、ここへ来たばかりのこいつでも、ずっと前から見えてるっていうし。僕よりも年下なのに」


 へえー、王宮の魔導士の中で、この子だけが見えないんだ……

 あれ?

 でも前に確かマークが……

「魔力が大きくても、相性が良くないと見えないって聞いた気がするんだけど……?」

 ブレージはコクッと頷いた。

「みんなは気にする事ないって言ってくれる。……でも、こいつより僕のが魔力が多いのに、見えないなんて納得いかない!」

「ああ、うん……そうなんだ」

 ん? あれ? でも、そういえば……

「でもさ、クラウディオさんも確か見えるようになったのって、最近だよね」

 ブレージはパッと顔を上げ、私を驚いた顔で見た。

「何でお前が知ってるんだ!?……そう、前はクラウディオ様も見えてなかった。だから気にしてなかったんだけど……」

 そっかぁ……

 前は仲間がいたんだもんね。

 最近入ったばかりのレオンにも負けてる気がして焦ってたのかな?


 私は彼の背中をポンポンと叩いた。

「見えてない人でも、見えるようになる事もあるんだし、そんなに焦らなくてもいいんじゃないかな? 君はまだ若いんだし」

「でも、お前は魔導士じゃないんだろ? なのに、フィアリーズが見えてるんだな……」

 彼はまた頭を下げてしまった。

 うーん……

 何か力になれるといいんだけど。

 ハッ!!


「……思い出した! いい方法があるよ! 試してみようよ!!」

 私はブレージの手を握ると、ベッドから立ち上がった。

 驚く彼の手をぐいぐい引っ張って、廊下へと連れ出す。

「おい、待てって! どこへ行くつもりだよ!?」

 焦るブレージ。

「お姉さんに任せなさいって! とりあえず私の部屋へ行こう!」

「は!? 意味分かんないし! ちょ、止めろよ!」

 嫌がるブレージを引きずりながら、廊下を歩く。

「だ、誰か! 助けて!!」


 クラウディオは自室のバスルームにいた。

 今日は疲れた。

 湯船に浸かりながら反省をしていた。

 スイの事が、遠くに住む魔物たちにも知られてしまっていたとは……これからは、気安く連れ出さない方がいいのかもしれない。

 いや……ずっと城に閉じ込めておくのは可哀そうだ。これから出掛けるときは、フィアリーズ達にもついて来てもらう事にしよう……

 考えながらゆっくりと湯に体を沈めていたが、部屋の前の廊下から、言い争う声が聞こえて来た。


「放せって!」

「ダメですよ。放したら逃げちゃうでしょ!? もう、観念してついて来てよー!」

 この声は、スイ!?

 何故、こんな時間に、こんな所に!?

 クラウディオは慌てて湯船から上がると、とりあえずそこにあったタオルを腰に巻き、急いで廊下へと出た。


「もう、何も怪しくないって……。早く行こう!」

 ブレージの腕を引っ張る粋華。

「だから、止めろって言ってるだろ!? 放せって!」

 どうやら嫌がるブレージを粋華が何処かへつれて行こうとしているようだ。

「おい、お前たち、何をしている!?」

 え!? その声はクラウディオさん!?

 振り向く粋華が目にしたのは、腰にタオルを巻いただけの彼の姿だ!!


「なんて格好してるんですか!?」

 驚いた粋華は、顔を赤くして視線を逸らせた。

「ああ、クラウディオ様、助けてください! この訳の分からない女が、僕を連れて行こうとするんです!」

 粋華の手は、ブレージの手をしっかりと握っている。

 クラウディオはいらいらとした口調で進路を遮る。

「おい、こいつを何処に連れて行くつもりだ?」

「もうっ! とりあえず、何か着てくださいよ! ちょっと、私の部屋に来てもらうだけですって!」

「何、お前の部屋に!? こんな時間にか!?」

 クラウディオは粋華の腕を掴んだ。

「とりあえず、この手を放せ!」

「えっ!? 駄目ですよ。逃げちゃうじゃないですか!」

「放せよ! バカ女!」

「むっ! 何ですか!? 人がせっかくあなたの為に~~~!」

「おい、そんな言い方はないだろう!」

 ブレージは粋華とクラウディオから睨まれる。

「え!?……クラウディオ様?」


 言い争う粋華らの後を、レオンがバスケットを持って追って来た。

「おい、どこへ行くんだよ? 忘れ物だぞ」

「あら、レオン。それはスイさんからの差し入れですので、どうぞ受け取ってください」

 ベットがもぐもぐとマドレーヌを頬張りながら答えた。

「あ、そうなのか? ……美味しそうだな」

「ええ、とっても美味しいですわよ! レオンも食べてごらんなさい?」

 とってもいい顔で食べているベットを見て、レオンも思わず一つ手に取った。

 なんだか今まで食べたお菓子とは違う、何か特別ないい匂いがする。

 レオンはゴクッと唾を飲み込むと、大きな口で一口食べた。

「うっ!……これは!!」

 うんうんとベットは頷く。

 


 王宮に建つ建物の中で、一番の歴史を持つ湧魔棟。そこでは長い年月、才能ある者達が魔法を学び、研究し、幾人もの優秀な魔導士を誕生させていた。

 今でも、クラウディオを筆頭に、それに続く若き才能が生活をしている。ここは、魔法を学ぶ地方に住む者達にとって、憧れの場所である。


 湧魔棟の中で、一番広く豪華な部屋を与えられている女史イスメーネは、自身の使い古された机に積み上げられた研究中のレポートを見直すと、疲れた瞳を閉じた。

 今日は予想外の出来事が起きた。

 突如王都に魔物が現れ、町の人々を襲ったのだ。魔物はすぐに王都から出たようだが、その後、魔導士らは結界を見直す為、王都内を駆けずり回った。

 町人が一人犠牲になったが、僅かな犠牲で良かったと思うべきか……

 ちょうどクラウディオが現場近くにいたことが幸いだった。

 魔物と対峙し、無事に戻ったかつての弟子を思う。

 戦闘力だけでいえば当の昔に、クラウディオは私を超え、この国一番の魔導士となった。

 ここに通うようになった当初は、まだ何も知らぬ、小さな子供だったというのに……

 魔法の指導を任せられた私だが、彼に教えた期間はごくごく僅かだった。彼は独自で魔法を研究し、改良し、すばらしい速さで磨き上げていった。そして、私の届かぬ高みへと昇っていった。

 弟子に軽々と追い越されてしまったわけだ。

 ……しかし、時の経つのは早い。

 つい最近、ここへ来たばかりの幼いレオンも、立派な魔導士へと成長を始めている。

 年老いた魔導士たちは、若き才能の成長を見届け、次々と引退してしまった。

 湧魔棟で一番の古株となった、しかしまだ妖艶な美を誇るイスメーネは、眠る前のお供を選ぼうと、自室に備えられた酒瓶の並んだ棚へと足を向けた。


 その時、廊下からこの棟では聞きなれない、人の争う声が聞こえて来た。

「騒がしいな、何事だ?」

 彼女は上着を羽織り廊下へ出ると、声のする方へと足を速めた。

 そして、そこでの光景にしばし絶句した。

 

 ……何をしているんだ? お前達……?

 見た事のない少女が、嫌がるブレージの手を掴んで引っ張っている。ブレージは涙目になりながら、必死に抵抗していた。

 そして、二人を引き離そうとする、何故か裸で腰にタオルを巻いただけの姿のクラウディオ。

 そんな三人に全く関心がないように、夢中で菓子を食べるレオンとフィアリーズのベット。


 茫然とするイスメーネが我に返りみんなを止めるまで、しばらくこの状態が続いたのであった……



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