27. イノシシに助太刀
「あれ? イノシシが3頭いる!?」
『あの男性が魔物ですの?』
「うん、そうだよ」
私達は上空から、魔物とイノシシ達を見つけた。向こうは戦闘中で、まだこちらには気づいてないようだ。
魔物の放った岩の槍が、イノシシ達の頭上に降り注いだ。
『ブギギギギー!』
後ずさって避けるも、広範囲に降り注ぐ岩を全部避けることは出来ない。
イノシシ達の体に何本もの岩が突き刺さった。傷口からは、血が流れ出した。
『どうして魔物とイノシシが戦っているのでしょう?』
マリアさんが首を傾げる。
「うん……。イノシシは、『森に何をしに入った?』って聞いて来たの。この森の主なのかなぁ。多分、あの魔物は何かイノシシを怒らせる事をしちゃたんじゃないかと思うんだけど……」
『何や? イノシシがしゃべったんか?』
「あれ? うーん……何かそんな気がしただけ?」
『ワイに聞かれても分からんわ!』
ん? 何でそう思ったんだろう……?
『イノシシ達が劣勢のようですわ』
様子を見守るマリアが、深刻そうに呟いた。
イノシシ達は血を流しながらも、果敢に体当たりをしようと向かっていく。
しかし、全て簡単に避けられている。
負けじと、3頭が土の槍を飛ばすが、魔物は自身の持つスピードを生かし、巧みに避けている。
『お! あの魔獣、魔法も使えるんか!? 強い奴らや! ……けど、このままやと、難しいやろうなぁ』
イノシシが放った土魔法は、魔物にかすりもしなかった。
「よし! イノシシに助太刀しよう!」
私は背中からライディを抜き取った。
「いくよ! ライディ、シェル!」
『よっしゃー!』
『……分かった』
あんな危ない奴に遠慮なんてしないからね!
私は剣を掲げ、いきなり雷魔法を放った!
ガガガーン!!
「わっ!」
頭上の光に気付いた魔物は、咄嗟に飛び退いて、雷から逃れた。
「あ、お前!」
魔物は上空にいる私に気付いて指を差した。
さすがに素早いな。
「もう一発、行けー!!」
ガガガーン!!
「うおっ!」
またも魔物は避けた。
「うへー、やるじゃん! そいつらは……フィアリーズか!?」
イノシシ達もジリジリと魔物との距離を詰めて、攻撃を仕掛ける隙を伺っている。
「あーあ……ちょっと、面倒な事になったな。はぁー仕方ない、出直すか」
魔物は首を振ると、イノシシ達から距離を取った。
「今回は諦めてやるよ。……ったくー!!」
魔物は腹立ちまぎれに、周りの木々を数本なぎ倒すと、長い緑の髪を翻し、北の方角へと疾風のように走り去っていった。
はぁ、とりあえずは助かった……。
「今回は」って、もう来なくていいよ。
イノシシ達は、私達を警戒してか、こちらを見上げて鼻をヒクヒク動かしている。流れ出る血が痛々しい。
「傷を治しましょうかー?」
私は上空からイノシシ達に声を掛ける。
イノシシは戸惑うように仲間と顔を見合わせていたが、ゆっくりとこちらに顔を向けた。
「はーい、分かりましたー! ミント、下に降りて」
『え!? スイ様、危険では!?』
マリアが驚いて声を上げた。
「え? 大丈夫だよ?」
私達が降りると、イノシシ達はのっしのっしとゆっくりこちらに歩いてきた。
「じゃあ、マリアさん、お願い出来るかな?」
『スイ様、どういう事ですの? まるで、イノシシと会話が出来ているようですわ』
「うーん……それがねぇ、何か考えてることが分かっちゃうみたいなんだよね。こっちの言う事も相手に伝わるみたいだし。なんでだろう……?」
『まあ! さすがスイ様ですわね! ……では、治療いたしますわ』
あれ?「さすが」で片づけられちゃった。
魔獣の考えてる事が分かるなんて、これも異世界人だからなのかなぁ……?
マリアによる治療が終わり、イノシシ達の傷は完全に塞がったようだ。
私達は王都へ向けて飛んだ。
まもなく王都に着こうかという森の外れで、馬でこちらに向かって来るクラウディオの姿が見えた。
「あ、おーい! クラウディオさーん!」
「スイ!」
「スイー!」
あ、マークも一緒だ!
「マーク!」
マークは私の所まで飛んで来て、私の顔に抱きつく。
「スイー、良かった!」
「マーク……私、今回はダメかと思っちゃったよ」
私もそっと抱きしめ返す。
「ごめんね。守れなくて……」
マークはしょんぼりと下を向いた。
私は勢いよく首を横に振り、マークの手を優しく握った。
「ううん。マークは頑張ってくれたよ! みんなのお蔭で助かったんだよ!」
「スイー!」
「マークー!」
またも抱き合う私達。
ゴホンとクラウディオさんの咳払いが聞こえて、私達はやっと離れた。
「大丈夫か? 魔物はどうなった?」
あ、そうだよね。早く報告しなくちゃ!
「はい! 魔物は逃げて行きました! ……でも、気になる事を言っていたんです。北に、魔王の住処があるとか。そこには彼の仲間がたくさんいるそうです」
「……魔王だと?」
「はい、そう言ってました」
「そうか……。とりあえず無事で良かった。……スイ」
クラウディオは馬を降りると、私の方へと手を伸ばす。
?
私もミントから降りると、クラウディオさんに手を差し出した。
彼は私の手を取ると、手首についたロープの後に気付いた。
「これはひどいな。赤くなっている。他にはどこか痛い所はないか?」
「えっと……大した事ありません」
首を横に振って、笑って答えた。
「痛い所があるんだな。……マリア殿、お願いします」
そう言うと、クラウディオはマリアに頭を下げた。
『もちろんですわ。お任せください』
マリアは優しく微笑むと、生暖かい目で私を見た。
……何? その顔。
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私とクラウディオさんは、本日2度目になる、王の執務室に入った。
いつもとは違い暗い顔の王は、椅子に座ったまま私達の報告を聞いた。
すでに他の者からも報告は受けていたようで驚きはしなかったが、あからさまに不機嫌な顔をした。
「はぁー……頭が痛い。どうして町の中に魔物が出没した?」
王は眉間に皺を寄せ、片手で額を押さえた。いつもの美しい笑顔はない。
「……分かりません。他の魔導士たちは何と?」
「結界に穴はないそうだ」
「そうですか。……では、やはり、隣国の訪問時しかないかと」
隣国の訪問……?
ああ、そういえば、ラバドル王達が来た時に、一度、結界を解除したって言ってたな。
「うむ、そうだな。とりあえず1体は追い出したんだな?」
「あ、はい。逃げて行きました」
私は頷く。
「入り込んでいたのは、そいつだけだといいんだがな……しかし、魔王だと!?」
いつもの余裕を失くした王は、少々声を荒げた。
「あ、はい。そう言ってました」
王は深刻な顔で、クラウディオを真っ直ぐに見つめた。
「……実はな、5日前に定期連絡が届くはずの北の砦からの連絡が来ない。天候等の理由で遅れてるのかと思ったが、何か問題が起こっているのかもしれん。前回の報告は35日前だからな。何事もないといいんだが……」
王は考え込むように腕を組んだ。
「北の砦というと、前隊長のダニロ殿が居られるんですよね?」
「ああ、そうだ。……そういえば、お前の剣の師匠だったな」
「……ええ」
クラウディオは俯いた。
へぇー……前隊長が師匠さんなんだ。
すごい人に教えてもらってたんだね。
彼の様子からすると、その人の事を慕っているみたいだ。
とても心配そうに見える。
「よし。とりあえず分かった。何か決まったら通告を出す。準備しておけよ」
王は意味深にニヤリと笑った。
クラウディオは無言で頷く。
部屋を出たクラウディオの顔は暗い。
彼は無言のまま、私を部屋まで送ってくれた。
「疲れただろう。ゆっくり休め」
「はい……クラウディオさんも」
「ああ、おやすみ」
元気のないクラウディオさんをなんとか励ましてあげたかったが、掛ける言葉が見当たらず、黙ってその背中を見送った。
部屋に戻ると、マリアが待ち構えていた。
『さあさあ、横になってくださいませ。クラウディオ様に頭を下げてお願いされてしまいましたからね。入念に治療いたしますわよ』
マリアさんの張り切りように、少々気後れしながらもベッドに横になる。
「ありがとう、マリアさん。お願いします」
マリアはコクンと頷くと、粋華の全身を隈なく光で覆った。
ああー気持ちいいー……
治療が終わり、体中の痛みがすっきりなくなって気分爽快!
粋華はうーんと体を伸ばした。
「ああー、すっかり元気になったよ!」
『良かったですわ。……でも、驚きましたわね。スイ様が攫われてしまうなんて……』
マリアの顔が曇る。
「うん。魔王が私に会いたがってるなんて聞いちゃったしね」
思わず溜息が出た。
『あら、私ったら! すみません、もっと明るい話題にいたしましょう! 今日はどちらに行かれましたの?』
「ああ、うん。宿屋の食堂で、美味しいお料理を食べたんだよ」
そう言ったきり、下を向いて黙り込む粋華を、マリアは心配そうに覗き込んだ。
『スイ様?』
「……ああ、ゴメン。うーん……ちょっと、変なこと言っていいかな?」
『ええ』
マリアは首を傾げながら、粋華の言葉を待つ。
「……もしかしてクラウディオさんって、私の事、好きなのかな……?」
マリアはポカンとした顔で、粋華を見上げる。
「な、なーんちゃって、そんな訳ないよね! ごめんごめん!」
マリアは溜息をつきながら首を横に振る。
『……いえ、今更な事なので驚いてしまって……』
『ワイらは、みーんな分かっとる事や』
『スイって、けっこう鋭いのに、肝心な所で鈍いよね!』
ライディとマークまで話に加わってきた。
「……へ? そうなの?」
みんなはうんうんと揃って頷いた。




