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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
86/127

26. 魔物vsイノシシ


 魔物に担がれたまま、物凄い速さで町を移動し続ける事、数分。

 すでに王都を飛び出し、森の中へと入っていた。

 それでも、私を担いでいるせいか、目にも止まらぬ速さという訳ではない。

 しかし、私達を探しながらミントが追いつくのは難しいかもしれない。


「うっ……! ねえ、どこに、向かって、いるの?」

 激しく揺られながら、頑張って質問してみる。

「おい、しゃべると舌噛むよ。……まあ、いいや。それくらい教えてやるかな。我らが魔王様がお前に会ってみたいんだとよ!」

 私はギョッとした。

「え!? 魔王!? 魔王なんて、いるの!?」

「ああ、このままずうっと北に行った所に、俺らの王様が住んでいる。そこには俺達の仲間がいっぱいいるぜ! はぁー、やっと帰れるぜー……」

 この国の北の端には、高い山があって、その辺りは人があまり住んでいないと聞いている。山を越えれば隣の国があるが、魔物らの住処はその山の中にあるのか、それとも隣の国にあるのか……。

 と、とにかく、そんな所に連れて行かれたら、もう戻って来られないかもしれない。

 なんとか着く前に逃げ出さなくては!


 私は捕まった直後から、手首を縛るロープを指先でずっと撫でている。

 前にマークと検証した所、どうやら私の手から、フィアリーズに馴染む魔力が流れ出ているらしい。

 ロープは私が作ったものではないけど、もしかしたら、撫で続ければ何かが起こるかも!?

 お願い……!

 ヘビのように自在に動いて、鋼鉄よりも固く、締め付ける力は強い……そんなロープになりますように!

 フィアリーズさん、助けて……!!


 十数分後、大きな森を抜けると、見渡す限りの草原が続いていた。

「よし、さらに飛ばすぜー!」

 意気揚々と魔物が足を速めた時、眩しい光が粋華と魔物を包んだ!

 オレンジ色の、優しい光だ。


「うわっ! 何だよ、これ!?」

 魔物は足を止めて、眩しそうに片手で目を隠した。

 しかし、私は担がれたままだ。


 光が徐々に弱まった時、背中から聞こえた。

『……ねえ、どうして欲しい?』

 可愛い女の子の声だ。

「はっ!! フィアリーズさん?」

『うん。助けてあげる』

「ううっ……ありがとう! お願い、この魔物を拘束して! 動けないように!!」

『分かった!』


 手首を縛っていたロープがするすると外れると、魔物の体に巻き付き始めた。

「うわっ! 何だよ、ちょ、止めろー!」

 驚いた魔物は、粋華をポイッと草むらに放り投げた。

「うっ……!」

 落ちた衝撃と、変な体勢で運ばれていた為に、体中が痛い。

 でも今はそんな事を気にしている場合じゃない……!


 魔物の体は、ロープでグルグルに巻かれた。

 締め付けるロープを引きちぎろうと、必死に力を入れている。

「このお! ぐわーーー!!」

 魔物は魔力を放出した。

 ロープがミシッ、ミシッ!と嫌な音を立てる。

『だめ、力が強い。ちぎれそう……逃げて!!』

「わ、分かった! ごめんね、ありがとう!」


 私は、急いで森へと走り出した。

 視界が悪い森なら、隠れて時間稼ぎが出来るかもしれない。

 ミント……早く来て!

 荒い息を吐きながら、森の中を全力で走る。


 ロープをズタズタに引きちぎった魔物は、暫く動けないでいた。

 力と魔力を使いすぎてしまったのだ。

「はぁ、はぁ、……何だったんだ? これ」

 ちぎられ、短くなったロープを、恐る恐る指先でつまんで拾い上げる。

 先程までのオレンジ色の光は消えていた。


「ああ、くそ! まーた、逃げられちまった! ……ま、でもまた捕まえるだけだけどな」

 魔物は森へと走り出した。



 森に入ったものの、粋華の姿は見えず、耳を澄ましても、人間の足音は聞こえない。

「隠れても無駄だよー! 魔力を探れば分かっちゃうんだからなー!」

 しかし、森の中で魔力を探るのは、実は容易ではなかった。

 この世界では、自然物から様々な魔力が溢れ出している。

 フィアリーズはその魔力を栄養としているが、粋華の魔力はそれに近しいものだった。

 なので、街中と違い、ここでは粋華の魔力を見分けるのは困難だった。

「ああーもうっ! どこだよー!?」

 魔物は森中を駆け回る。



 一方、粋華は困った事になっていた。

 目の前には巨大なイノシシが粋華を見下ろしている。

 頭には立派な角が二本。怒りを湛えた瞳で粋華を睨みつけている。

 こんな巨漢に体当たりされたら、一発であの世行きだ。

「ご、ごめんなさい……。今、悪い魔物から逃げている途中で、森を荒らすつもりはないんです」

 粋華は冷や汗を流しながら、イノシシに訴える。

 イノシシは、じっと粋華の瞳を見つめている。


 ドドーン!!

 その時、森の奥で大きな音が響いた。

 イノシシは振り向くと、ピクッと耳を動かし、様子を探っているようだ。

 顔を上げたイノシシは、粋華を一瞥した後、音のした方へと勢いよく走り出した。

 どんどん姿は遠ざかり、やがて見えなくなった。

 ……はぁ……助かったの?


 魔物は粋華を見つけられない苛立ちから、周りの木々を薙ぎ払い始めた。

 手当たり次第に殴りつけ、木々を倒していく。

 倒れる木々がドーン!と大きな音を出す。

「くっそー! どこに逃げたんだよー!? ふざけんなよ!?」

 岩魔法で、周りにたくさんの尖った岩の雨を降らす。

 森に住む魔獣たちは怯え、慌てて魔物から逃げるように走り出した。


「……なんだ?」

 魔物は何かに気付き、耳を澄ます。

 ドドドドドドド……!!

 砂煙と共に、地響きの音がだんだん大きくなってくる。

 巨大なイノシシが血走った目で、魔物へと突進してきた!


「馬鹿が! 俺に敵うかよ!」

 大きな岩を出現させ、イノシシの額へと放った!

 イノシシは勢いを弱めず、そのまま突進してくる!

 ガーンッ!!

 大きな岩とイノシシの角が激しくぶつかる!

 岩は砕け、辺りにかけらが飛び散った。

 しかし、イノシシの勢いは止まらない。

 そのまま魔物へと向かってくる!

「……うそ、マジで?」

 魔物は俊敏に横へと避けた。

 イノシシは急ブレーキをかけ向きを変えると、またも魔物に突進してきた。

「ふん、単純な攻撃!」

 魔物はイノシシの上へ大きくジャンプして、突進をかわす。

 イノシシはそれを読んでいたように振り返ると、鼻先に魔力を集め、解き放った。

 ドシューン!ドシューン!

 地面から土の槍が何本も飛び出し、空中の魔物へ襲い掛かる。

「うわっ!」

 魔物は慌てながらも、それらを打ち消す為、岩の槍を放った。

 バシッ、バシッ!!

 土の槍は容易くすべて撃ち落された。

「はんっ! 土が岩に勝てると思ってんの!?」


 余裕の表情で着地した魔物へと、今度は別方向から土の槍が襲い掛かる。

「うわー!?」

 魔物は素早くそれらを避けた。

 魔法の出所を見ると、新たに2頭、大きなイノシシがのっそりと魔物へと向かって来ていた。

「何なのこいつら、ぞろぞろと……」

 魔物は3頭のイノシシに囲まれた。



「ミントー……、マークー……、ライディー……」

 小さな声でフィアリーズ達の名前を呼びながら、粋華は森の中をさまよっていた。

 音のした方へは近づかないようにして、なんとか町へ戻ろうと歩くが、大きな森からは出ることが出来ないでいた。

 またさっきみたいに、怖い魔獣が出て来るかもしれないし……

 怖いよー……

 この世界に来て、1日目の夜から、寝るとき以外はいつもマークと一緒だった。

 一人がこんなに心細いとは。


 上を見上げていた粋華の瞳に、木の枝の隙間から黄緑色に輝く翼がチラッと一瞬映る。

「ミ、ミントー!!」

『スイー!?』

 ミントが私の目の前に降りて来てくれた。

「ミントー!!」

 私はミントの首に抱きつき、ポロポロと涙を流した。

『スイ、大丈夫?』

「……うん」

 ミントの横にはマリアもいる。

 ミントに乗せてある鞄の中から、ライディとシェルも出て来た。


『スイ様、魔物はどうなりましたの?』

「うう、まだ私を探してる……」

『どうする? やっつけるんか!?』

 うーん……どうしよう……?

 みんなが一緒だから、戦えるけど……

 私は涙をぬぐった。


『マーク様もおりませんし、ここは一旦、王都に戻ってはどうでしょうか?』

 少し考えてから、うん、と頷いた。

「もし追ってきて、逃げられなかったら戦おう」

 みんながいるって、心強いね!

 急に元気が湧いてきたよ!


 ライディを背中に背負い、ミントに乗り込むと、空高く舞い上がった。

 上空から森を見下ろす。

 ふと、大きな砂埃が舞い上がっている一角を見つけた。

「あれ、何だろう?」

『何か大きな魔獣が見えますわ』

 さっきのイノシシだろうか……

 もしかしたら、魔物とあのイノシシが……?


「やっぱり、ちょっとあそこを見て来たい! お願い、ミント!」

『スイ様、危険では……?』

「うん……でも、気になるんだ。みんなを頼ってもいいかな?」

『ワイがついとるんや! 大丈夫!』

『……問題ない』

 荷物の中からシェルの声がした。

『分かりましたわ! 私達にお任せください!』

 マリアは胸を叩いた。


『じゃあ、行くね』

 ミントは大きな砂埃の上がる地点へと進路を変えた。



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