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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
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25. 魔物出現!


「お願いです! お願いですから下ろしてください!!」

 私はもはや涙声だ。

「もうちょっと辛抱しろ。そう暴れるな。しっかり掴まれ」

 粋華とクラウディオは、何度となくこのやり取りを繰り返している。


 彼はずっと、私をお姫様抱っこをしながら、町の中を歩いている。

 道行く人々の視線が、激しく痛い……!!

「歩けますから、いい加減にしてください! もう私、舌を噛んで死にます!!」

 喚き暴れる私に、彼はますますしっかり抱く手に力を込め、困った顔で笑っている。


「ほら、着いた」

 噴水の傍のベンチに私をそっと下ろした。

 恥ずかしくて周りを見る余裕がなかったのだが、ここは宿屋からは少し離れた広場のようだ。

 小さな噴水を中心に、ベンチが数台置いてあり、そのまた周りには、木々が囲むように並んで生えている。木にとまった小鳥がさえずり、木の葉が風に揺れる音が聞こえる。

 街中にありながら、周りの建物は見えず、ここだけ森の中のようだ。

 広場には、老人や小さな子供の姿がわずかにあるが、人はあまりいない。


「この時間帯に人が少ない所は、ここだろうと思ってな」

 クラウディオは隣に座ると、そっと私の濡れた髪に触った。

「少し熱いかもしれんが……」

 彼の手の平から温かい風が生まれて、私の頭に当たった。

 おお! ドライヤーみたいだ!

 みるみる髪が乾いていく。

 私は気持ちよくなって目を閉じた。

 彼は長い指で私の髪を優しくとく。


 風が止まって目を開けると、目の前にクラウディオさんの顔があった。

 ち、近い!

「あ、ありがとうございます」

 恥ずかしくなって、パッと横を向く。

「怪我をしているようだ。ちょっといいか?」

 彼の目線を追うと、ワンピースの膝の位置に、わずかに血が付いている。

 あれ?……あ、そうか、さっき転んだ時だ!


 私はスカートを持ち上げて、膝を見てみた。

「ああ、ちょっと擦りむいただけです。大した事ありません」

「うむ、大丈夫そうだな。俺が治してやれるといいんだが……。帰ったらマリア殿に治してもらえ」

「はい。……そういえば、またさっきの宿屋に寄るんですか? 何か取りに戻るんですよね」

「ああ、持ち帰り用に焼き菓子を買ったからな。お前は菓子も好きだろう?」

「あ、はい……」

 うう……、ナニコレ?

 やっぱりなんか変……。優しいっていうか……甘い?



「キャーーーー!!」

 穏やかな午後の空気を切り裂くように、女性の悲鳴が響き渡った!

「え!?」

「なんだ!?」

 私達は勢いよく立ち上がると、声の上がった方へと走った。

 人混みを掻き分け、繁華街へと進んだ。


 その時、遠くに声の主を発見した。

「助けてー!!」

 長い髪を振り乱し、泣き叫ぶ女性の姿が見える。

 あの髪の色は!

 さらに近寄って確認すると、それはさっき走り去った赤毛の女性だった。

 一人の男がその女性の腕をねじり上げ、押さえつけている。彼女は必死に逃れようともがいていた。

 その男の髪は珍しい緑色で、腰よりも長い髪の長さはバラバラだ。毛先がピョンピョンと跳ねている。

 緑の髪の人なんて、この世界でも見たことがなかった。

 細い体形で、まだ若く見える。


「おい、お前! 止めんか!」

 近くにいた男性が、緑の髪の男を止めようと近づいた。

 男は近寄る男性に手の平を向ける。するとそこに鋭い岩が現れ、男性へと飛んでいった。

 スパッと喉元が切れ、血が噴き出した!

「キャーーー!!」

 周りにいた人々から悲鳴が上がる。

 首を切られた男性は倒れて動かない。


「おいおい。お前が早く言わないから、こんなにたくさんの人に気付かれちゃったじゃん。早くしてよ。そいつは何処にいるの?」

「だって……分からないもの……あたし……」

「だーかーらー。お前に魔力の移り香が付いてるんだって! 異世界人のさ!」

 !!

 異世界人って、私!?


 クラウディオが、粋華の腕を掴んだ。

「おい、お前は隠れていろ。あいつの魔力、たぶん人間じゃない」

 え!? ……じゃあ、魔物!?

 でも魔物って、王都の中には入れないはずでしょ!?


「スイ! 今はフィアリーズのみんなもいないし、スイは隠れてた方がいいよ!」

 マークは私の服を引っ張った。

「う、うん。分かった」


 その場から逃げ出した粋華の背後から、大きな声が聞こえた。

「あれー? 近いよ!? んん? そっちかなー!?」

 緑髪の男が突然、ヒュンと粋華の目の前に現れた!

「おっ、見いつけた!」

 男の手が粋華に伸びる。


「スイ! 逃げてー!!」

 マークが男に向かって風魔法をぶつける。

 その隙に、私は通りの横道に逃げ込む。

 クラウディオが続けて氷の槍を男にぶつけた。


「何だよお前ら! 邪魔すんなよ!」

 魔物の注意が、粋華から逸れた。

 数秒魔力を練った魔物は、マークとクラウディオに向け、岩魔法を放つ。

 粋華の背後で、ドーン!と大きな音がした。


 何あいつ、何あいつー!

 明らかに友好的な魔物じゃないよ!?

 二人は大丈夫だろうか……?

 早くお城まで行って、みんなに知らせないと!!


「あ、スイー! どうしたんだー!? 何の騒ぎだー!?」

 私の正面から、こちらに走って来る少年の姿が見える。

「あっ、レオン!」

 私はゼイゼイと荒い呼吸をなんとか整える。

「は、早くフィアリーズやお城の人達に知らせないと! 魔物が暴れてるの!!」

「何? 魔物だと!?」

 あ、ソイルもいる!

「とにかく追って来ちゃうから、早くお城に戻ろう!」

 私達は城への道を走る。

「ソイル! お前は飛べるから、早く着けるだろう! みんなに知らせてくれ!」

 そう言ったレオンにソイルは反論する。

「しかし、お前に何かあったら……」

「僕は大丈夫だから! 早く行け!」

「う……分かった。気を付けろよ!」

 ソイルはそう言い残し、空を飛んで、真っ直ぐ城へと向かった。


「何こいつら。こんなんが人間やフィアリーズにいるの?」

 魔物は次々放たれるマークの風魔法と、クラウディオの氷魔法を自身の岩魔法をぶつけて防いでいた。

 移動速度が異様に早いこの魔物は、隙をついて彼等の後ろに回り込もうとしている。しかし、マークに気付かれ、上手くそれが出来ないでいた。


 マークはクラウディオに耳打ちする。

「あいつの動きは速いけど単純だ。魔力が大きいから、流れを読めば次に動く先が分かるよ」

 魔物の岩魔法は、大きな岩を作り出し、こちらに飛ばしてくるという物だ。

 あの大きさの岩なら、一度当たっただけで大怪我をするか、死んでしまうだろう。

 岩の大きさは、魔物の魔力の高さを示している。

 魔法で作り出した岩なので、当然、マークにも当たってしまう。


 二人は魔物の動きを読みながら魔法攻撃を仕掛けるが、相手の隙がなく、当てることが出来ない。

「あいつのスピードじゃ、僕の音波は避けられちゃうだろうし、倒すのは難しいかな」

「とりあえず、スイが逃げ切れるよう足止めするぞ」

「分かった!」

 魔物とクラウディオらは、お互いに魔法を放ちながらも、攻撃を当てられないでいた。


「ああ、もう! しぶといなー! ……ん? あれ? あの子がいない!」

 魔物はキョロキョロと周りを見回した。

「ええー? 仲間を置いて逃げたのか!? ずるいだろ!」

 魔物はヒュンと二人の前から姿を消した。


「まずい! スイの方へ行っちゃった!」

「くそっ! 後を追うぞ!」

 二人は必死に魔物を追ったが、移動速度が違いすぎた。すぐに姿を見失ってしまった。



「もう少しだ! 頑張れ!」

 レオンに励まされながら、王城が見える所まで来ていた。 

 粋華はもつれそうになる足を必死で動かす。

 く、くるしい……!

 いつもミントに頼ってばかりで、あんまり走ってなかったからなぁ。



「ああ! やっと見つけたー!」

 目の前に、先程の魔物が、またも突然現れた!

「ひっ!」

「あんまり手間をかけさせんなよ。さあ、来るんだ!」

 腕を掴まれ、振りほどこうともがくが、魔物はビクともしない。

「この野郎、くらえ!!」

 レオンが魔物に手をかざすと、魔物の顔が炎に包まれた。

「うわ! 何だ!?」


 魔物が驚いて手を離した隙に、レオンの後ろに隠れる。

「こんなもん!」

 魔物が魔力を開放すると、炎がかき消えた。

 ぼさぼさの緑の髪がちりちりと焦げている。


「何こいつ、やってくれるじゃん! 近頃の人間はこんな魔法を使える奴ばっかなのか?」

 魔物はこちらに手をかざし、瞬時に小さな岩魔法を放ってきた。

「うわっ!」

「きゃあ!」

 粋華らは横に飛んで、ギリギリで避けた。


 体勢を崩したレオンの元へ、魔物は目に見えぬ速度で移動した。

 そして、レオンの首を片手で掴むと、ギリギリと締め上げる。

「ううっ……!」

 レオンが苦し気にうめいた。


「レオン!」

「に、逃げろ……!」

 レオンは魔物の腕を掴んでもがくが、その手は外れない。

「はあ!? また逃げる気か? 大人しく捕まれば、この子を助けてあげてもいいぜ?」


 魔物は赤茶色の凶悪な瞳を細め、なおもレオンの首を絞め続けた。

「……わ、分かりました。手を放してっ!」

 私が言うと、魔物はパッと手を開いた。

 レオンはドサッとその場に倒れた。

「ううう……」

 レオンの口から声が漏れる。意識はあるようだ。

 私はホッと息を吐いた。

 巻き込んじゃって、ゴメン! レオン。


「よしよし、ちょっといい子にしててね。まあ、逃げられないけど、念の為な」

 魔物は懐からロープを取り出すと、粋華の手首を後ろで縛った。


 その時、何かに気付いたように、魔物は城を見上げた。

「あっ!」

 遠くに、ミントがこちらに向かって飛んで来るのが見える。

「ミントー! ここだよー!!」

 私は大声でミントに知らせる。

「何だ、あいつ!? ちっ、面倒くせーな。さっさとずらかるか」

 魔物は粋華をひょいっと肩に担ぐと、もの凄い速さで走り出した。



挿絵(By みてみん)

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