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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
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23. 王からの助言


 ゴホンと咳ばらいをすると、王はいつもの顔に戻った。

「……なるほどな。まあ、俺に相談したのは正解だな。女の事なら任せておけ!」

 王は、その立場上、気安く浮名を流すことは出来ないが、彼のモテっぷりは自他ともに皆が認めている。


「……それで、その女性は王都に住んでいるのか?」

「?……ああ」

 クラウディオは、不審そうに頷いた。

 よしよし、いい風向きだ。

 こいつが王都で所帯を持てば、この国を離れることはないだろう。

 王家に迎えることには失敗したが、この国に一生留まってくれるのなら万々歳だ。


「良かったよ。お前はいつまでも昔の事にこだわって、自分の幸せを考えていないようだったからな。相手が誰であろうと俺は応援するぞ。何なら爵位を与えてもいい」

 クラウディオは首を横に振った。

「いや、それは必要ない」

 なるほど……平民の女か。


「……それで、もう気持ちは伝えたのか?」

「……いや、まだだ。今伝えても、きっと断られるだろう……」

 怒り以外の感情が分かりにくい彼が、明らかにしゅんと肩を落としている。

 ここは友人として、良いアドバイスを与えねばなるまい。

「うむ。気持ちを伝えれば意識してもらえると思うのだがなぁ。……よし、まずはその仏頂面を何とかした方がいいな。相手を怖がらせているのかもしれんぞ」

「うっ、そうか……」

 心当たりがあるのか、彼はギクッと肩を揺らした。

「笑顔だ。なるべく優しい顔で話しかけろ。そして、感謝の言葉を伝えることだ。臭いセリフや愛の言葉は必要ない。好きでもない男のそれは逆効果になるからな。あとは……、そいつの好きな事を一緒にやる事だな。相手に合わせる事が肝心だ」

「な、なるほど……」

 クラウディオは王の助言に、真剣に頷いている。メモでも取りそうな勢いで、ブツブツと暗唱していた。


「まずは実践してみろ。上手くいく事を祈ってるよ」

「ああ、感謝する」

 クラウディオの表情は分かりにくいが、確かに、そわそわと嬉しそうに厚い絨毯を踏みしめ、重厚な扉を軽やかに開け出て行った。



「いやあ、参った……」

 王は豪奢な高い背もたれに、どさっと体を預けた。

 まさか、ディオに恋の相談をされる日が来るとはな……

「王よ」

 隠密魔法を発動し傍に控えていたバシリーが姿を現し、傍へ歩み寄ると頭を下げた。

「何だ、バシリー」

「よろしかったのですか? あのような助言を与えても」

「ふむ……。奴はあれでも、俺の数少ない友人の一人だからな。相談くらい乗ってやらんとな」

「はい……しかし、相手は例のあの娘だと思われますが、よろしいのでしょうか?」


 王は顎を撫でながら首を捻った。

「例の娘?……何!? それはまさか、粋華のことか!?」

 王は、勢いよく椅子から立ち上がる。

「……はい、間違いないかと」

 これは不味いぞ。クラウディオが駄目でも、粋華だけでも王家に組み入れようと思っていたのに!

「まったく、何てことだ。すぐにルディを呼んで来い」

「はい。畏まりました!」

 バシリーは頭を下げると、すぐに扉の外へと消えた。


 幸いな事に、ディオは自分で「全く意識されていない」と言っていた。

 フィアリーズに見られている手前、強引に王家に嫁がせる事は出来ない。

 何とか粋華の気持ちをこちらに向けなくては!

 粋華との間に生まれた子は、粋華には及ばなくても、おそらく近い力を持つだろう。

 王家に必要な力だ!


「はぁ……やっかいな相手だな」

 ディオを応援したい気持ちはあったが、こればっかりは譲れない。

 ……それにしても、確かに頭は少々切れるし、見られない容姿ではないが、ディオの好みがあんな子供とは……!!

 これでは、エミーリアに興味を示さないわけだ。

 クロス王は自身の美しい愛娘に同情した。


 執務室を出たクラウディオは、早速、粋華の部屋へと向かう。

 笑顔か……

 クラウディオは右手で自身の頬をもみほぐすと、口の端を上げた。

 こうだろうか……?


 廊下の先で、メイドが掃除をしている。

 彼女はクラウディオが歩いて来るのに気付くと、端へ寄り、頭を下げた。

 ……そうだ! まずは練習してみよう!


 クラウディオは笑顔を意識しながら、彼女に声を掛けた。

「……いつも、ありがとう」

 メイドは目を丸くして固まり、手から雑巾をポトリと落とした。

 ちゃんと出来ただろうか……?

 クラウディオが通り過ぎると、メイドはへなへなとその場にしゃがみ込み、しばらくの間、放心していた。


 笑顔の練習をしながら、粋華の部屋の前までやって来た。

 粋華付きのメイド、ベッティが彼に気付くと、にこやかに声を掛けた。

「これは魔導士様。スイ様に御用でしょうか?」

「……ああ、今、いるか?」

「お待ちください」

 ベッティは粋華に確認を取ると、軽く頭を下げた。

「どうぞお入りください」

 彼女に続き、クラウディオも部屋の中へ入る。


 ……そうだ! 笑顔で感謝だ!

 クラウディオはベッティに微笑みかけた。

「……ありがとう」

「はうっ!?」

 ベッティは奇声を発すると同時に、両手で胸を押さえると、ふらつきながら壁にゴンッと大きな音を立ててぶつかり、倒れた。


「ベッティさん、大丈夫ですか!?」

 粋華はベッティに駆け寄ると、彼女の肩を抱きながらクラウディオを睨んだ。

「何をやってるんですか!?」

「い、いや、お礼を言っただけだが……?」

 粋華はベッティをなんとか立たせると、扉の外へと連れ出した。

「ここはいいですから、休んでてください」

「……すみません。お言葉に甘えて、そうさせていただきます」

 ベッティはクラウディオをチラッと見ると、慌てて目を逸らし、扉を閉めた。


「どうしたんだ? 具合でも悪かったのか?」

 首を捻るクラウディオに、粋華は驚いて声を上げた。

「もうっ! 自覚がないんですか!? ……はぁ、もういいです。用事は何ですか?」

「いや、せっかくの休日だから、町へ出かけないかと思ってな」

「……分かりました。行きましょう。……でも、どうしちゃったんですか?」

 心配そうな顔を見せる粋華に、クラウディオは戸惑いながらも、笑顔を返す。

「何かおかしいか? さあ、行くぞ」

 粋華の両肩を後ろから掴むと、扉へと押した。

 

 

「ああ、ハインリッヒ! スイさんはおられますか!?」

 息を切らせながらルディ王子が粋華の部屋を訪ねて来たのは、そのすぐ後だった。

 王子の慌てた様子に、老齢な執事は目を丸くする。

「これは、これは、ルディ様。あいにくスイ様は城下へお出かけになっております」

「ひ、一人でか!?」

「いえ、クラウディオ様もご一緒ですが?」

「くっ、一足遅かったか!」

 まだ幼さの残る美しい王子は、その姿には不似合いに、いらいらと床を蹴飛ばす。

 その様子を眺めながら、ハインリッヒはやれやれと小さくため息をついた。

 

  

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