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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
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22. ミラとの別れ


『すっごく美味しいです!……僕、スイ様の仲間になれて良かったー……』

 マドレーヌを頬張るアージルは目を瞑り、とろけそうな顔をしている。

 すでに食べ終えたミラは、まだ食べているフィアリーズをじぃーっと恨めしそうに眺めている。

 何も言わないけど、多分、彼女も気に入ってくれたのだろう。


「ミラ、お土産にたくさん入れておいたから、スライトと食べてね」

「え!? あ、うん。……あの……」

 言いにくそうに、ミラはもじもじしている。

『ほら! ミラ、頑張って!』

 マリアさんに励まされて、ミラはバッと立ち上がると、優雅に膝を曲げ、気品のある貴族の礼をした。

「ご馳走様でした。どうもありがとう、スイ」

 ええっ!? 急にどうしちゃったの!?

 何か悪い物でも食べた!?


 心配する私に、マリアとミラがクスクスと笑い出した。

『どっきり成功ですわね』

「フフン! 私だって、やろうと思えば品よく出来るんだから!」

「そ、そっかー。驚いちゃったよ」

「スイも、もう少し、品を付けたほうがいいんじゃない?」

「うっ!」

 くぅ……気にしている事を言われてしまった。

 確かにこの王城では、私の根っからの庶民さ加減が目立ってしまっている。

「そのうちね、きっと出来るようになるから……アハハ!」

『こりゃあ、当分無理そうや!』

「ライディにだけは言われたくないよ!!」

 こんなやり取りを、ミラは楽しそうに笑いながら見ていた。



 ----------



 粋華とクラウディオ、フィアリーズ達は、王都の裏門まで、ミラの見送りに出て来た。

『気を付けてな! お前はちょっとそそっかしいみたいやから!』

 ライディが明るく声を掛けた。

 ミラは口をへの字に曲げ、黙って頷いた。

「アージル、ミラの事お願いね」

『任せてください、スイ様! カング地方なら、昔、行ったことありますから大丈夫です!』

 そっかぁ、それなら安心だ。

「じゃあ、ミラ。スライトによろしくね!」

「……うん」

『お元気で。また会いましょう』

 マリアが優しく微笑む。

「うん。マリア、またね」


 ミラの周りを風が包み込む。ふわっと風が止むと、元の青く美しい鳥の姿に変わっていた。

「みんな、バイバイ!」

 大きく羽ばたくと、風に乗り、空高く舞い上がっていった。

 慌ててアージルも後を追う。すぐに追いついたようだ。

 私達は大きく手を振りながら、二人を見送った。

 もう見えなくなった空に向かって、ため息をつく。

「はぁ……行っちゃったね」

 クラウディオが私の肩に手を置いた。

「感傷に浸っている暇はないぞ。仕事だ」

「え!?」



 ----------



 粋華とクラウディオは、王の執務室に来ていた。

 クロス王は、たくさんの書類の乗った机の前で椅子に座ったまま、いつもの美しい笑顔で私達を迎えた。

 頭を下げたクラウディオは王へと声を掛ける。

「お忙しい所、失礼いたします。魔物が去りましたので、報告に参りました」

「ああ、二人ともご苦労。お前たちは下がれ」

 王は執務室にいた彼の側近二人に、部屋から出るよう指示を出した。

 頭を下げて、二人が扉の外へと消えた。


 とたんに王は、ニヤニヤした笑いを浮かべる。

「はぁ、まったく。魔物が訪ねて来るなんて、何が起こったかと思ったぞ。お前は魔物の知り合いなんているのか」

 王は砕けた調子で私に話掛ける。

「ああ、はい。3人程います」

「3人!?」

 驚いて聞き返したクラウディオに、王は呆れた顔をした。

「なんでお前が知らないんだ」

 あ、しまった!

 思わず正直に答えてしまった……


「まあ、いい。その魔物たちは、我が国に危害を加えるような魔物か?」

 王の問いに、私はブンブンと勢いよく首を横に振る。

「い、いえ! まったくそんな事はありません! みんな優しくて、友好的な魔物です!」

 王は額に手を当てると、はぁー……とため息をついた。

「友好的な魔物か……俺はそんな魔物には会ったことがない。……というか、生まれてこのかた、魔物はローグしか見た事ないよ」

「ええっ!? そうなんですか!?」

 驚く私に、王は面白そうに言う。

「そうさ! 普通の人間はな、魔物なんかには滅多に会うもんじゃないんだよ。魔物の数も少ないし、奴らは正体を隠しているしな」

 あ、そうか!

 なるほどー……


「お前のおかげで、魔物にもいろんな奴がいると分かった。この事は、のちに何かの役に立つかもしれんな。……よし、もういいぞ。まだ休暇は明後日まであるだろう。ゆっくりと過ごせ」

「あ、はい! 失礼します!」

 私が頭を下げて退場しようとした時、クラウディオが口を開いた。

「あの……ちょっと話がある。いいか?」

 王は意外そうに目を大きく開いた。

「ああ、何だ?」

「スイ、お前はもういい。部屋に帰ってろ」

 え? 私には知られたくない話?

 あっ、分かっちゃったかも!

 リーナさんの事ですね。久しぶりの再会で、何か思う事があったんでしょう。

 ふふふ、この私に隠し事なんて無理ですよ。

 粋華はクラウディオに生暖かい視線を送ると、再び軽く頭を下げ、王の執務室から出た。


 私は一人、部屋へと向かう廊下を歩きながら考える。

 クラウディオさんと王様は、どんな話をしてるのだろうか。

 うーん、もしかしたら……クラウディオさんは王都を去るつもりかもしれない。

 ここからリーナさんの所までは距離が遠すぎる。馬で飛ばして10日もかかる。

 騎士団を辞めて、リーナさんの元へ行こうとしてるのかも……?

 そう考えた時、胸が小さくチクッと痛んだ。

 ……ん? 今の何?

 私は首を傾げながら、部屋へと戻った。


 

 粋華が執務室から去り、部屋の中は王とクラウディオ二人だけだ。

「……それで、話って何だ?」

 王は、出来るだけ素っ気なく聞いた。この男はこっちが関心を示すと、口が重くなる。本当に気難しい奴だからな。

「うっ、ああ……」

 そう言ったきり、クラウディオは口をつぐんでしまう。


 ……何だ? いつも言いたいことを言って、さっさと帰っていくのに。

 なかなか話し出さないクラウディオを、王は不審そうに眺めた。

「おいおい、俺も暇じゃないんだぞ。どうしたんだ? お前らしくない」

「ああ、すまない。……ちょっと聞きたいんだが、どうすればいいのか……」

 クラウディオのこんな姿を初めて見た王は、両手を机の上で組むと、身を乗り出した。

「何だ? 遠慮するな。何でも聞いてみろ」

 クラウディオを気遣い眉を下げる王に、クラウディオは強く拳を握ると、真っ直ぐな視線を向けた。

「……好きな女が出来た。でも、俺の事を全く意識してくれない。どうしたらいい?」


 王は、彼が発した言葉を理解するのに、数秒の時間を要した。

「……え?」

 頭の回転が速く、そうそう心を乱す事のないクロス王であったが、今は全くの素で驚いていた。



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